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20.イツキくん、協定を結ぶ!?


「――というわけなんだ。り、理解した?」

「ふ~~ん……? それじゃあ何、赤名さんがクラス名簿を見て誤解して、それを間違いだと指摘することなく今に至っている……そういうこと?」

「ええ、そうですよ! 元はと言えばわたしが悪いんですけどね~。ミキくんって女の子っぽい名前ですもんね。ミキくんも自分の名前に劣等感を抱いているみたいですし、悪いと思いながらもイツキとして男らしく過ごそうと思ったみたいですよ? ね、()()()くん」

「そ、その通りです」

「へぇ~~? そんなに気にしてたんだ? ミキちゃん」

「そ、それな! そう呼ばれるのも恥ずかしいし、だったら男っぽい名前の一樹いつきって呼ばれている方がしっくり来るというか……」


 休み時間の終わり間際、俺のことをイツキくん呼びしていたリンに気付いた義妹の一樹は、俺をかなり問い詰めて来た。


 だけど、幸いなことに授業が始まる寸前だったので、その場は事なきを得た。

 そして放課後前の休み時間に、リンに頼み込み……今に至る。


 ◇◇


「あ、バレちゃいましたか?」

「ま、まさか、分かっててそう呼んだの!?」

「聞こえるかな~聞こえないかな~? って感じでさり気なく言っちゃったんですけど、さすが委員長さんですね。地獄耳といいますか、何といいますか」

「そんなの困るよ!! 大体にして、俺がイツキと名乗っていたのはあくまでもLOR内だけであって、現実では別人なわけなんだから……」

「本当に甘いですよね、イツキくん……いえ、リーダーくんは!」

「どういう意味で――んぷっ!?」


 口調が何となく荒々しくなりかけた所で、リンは俺の口に手を当てて悪戯いたずらっぽく笑いながら、『興奮するにはまだ早いですよ?』と言いながら斜め下から顔を覗かせた。


 白く輝く女子からの視線に思わず寒気……ではなく、ゾクゾクするような感覚を覚えてしまう。


「……どうして欲しいですか?」

「う?」

「誠意を見せてくれたら考えますけど、どうします?」

「うぅぅ……誤解をしていたってことでよろしくお願いしま……」

「そんなの面白くないですよ? ですので、認めちゃいませんか? あ、もちろん、ゲームの名前で使っているってことをじゃないです」

「んんん?」

「要は委員長さん……妹さんに抱いている劣等感コンプレックスで偽名を使ってしまった。そういうことですよね?」

「それでいい……です」


 ◇


 ()()()()わざと仕組んでいた。


 令嬢だからといって性格がいいかと思えばそんなことはない予感がしていたが、妹の存在があまりに邪魔だと思っているのか、早くも地雷を仕掛けようとしているなんて、この子の素性が計り知れない。


「そんなに男の子っぽい名前なのかな?」

「す、少なくとも俺はそう思って……だからまぁ」

「ミキちゃんは、一樹って呼ばれると嬉しいんだ?」

「――えっ?」

「赤名さんにずっとそう呼ばせていたんだから、嬉しいんだよね?」

「う、嬉しいです。最高に……」

「そ……そうなんだ。で、でも、学校の中でわたしの名前で呼ばせるのって、何か変じゃない?」

「ごもっともです……は、ははは」


 思わず横目でリンに助けを求めてしまったが、そこに誘導するのが目的だったのか、まるでいま閃いたように両手を叩き、微笑みながら妹に声をかけた。


 油断も隙も無いあざとさが、発揮されたようだ。


「それでしたら、彼のことをいつでもどこでも、イツキくんと呼んでもいいっていう協定を結びません?」

「協定? それってどういうことなんですか?」

「委員長さんのことは、イツキさん。ミキくんのことは、イツキくん。それなら彼はいつも嬉しくなるし、興奮すると思うんです。あだ名で呼んでるってことでもいいと思いますし、イツキさんを常に感じていたい彼の想いを受け止めてあげません?」

「こ、興奮ってそんなバ――」

()()()くんは、少し大人しくしていて下さいね?」

「……んぎっ!? は、はい」

「委員長さん、どうです?」


 何と恐ろしい。単なる誤魔化しなのに、妹を想っている方向に持って行って、何故そう呼ばせているかについての疑問を打ち消しているじゃないか。


 見えない所で手の皮を捻るとか、あまりに黒すぎる。


「う~ん……そういうことだったのなら、赤名さんが悪いわけじゃないのでわたしが怒る理由も無くなります。自分の名前があちこちで……なんて恥ずかしいですけど、ミキくんがそう望んでいるのなら、認めざるを得ないかもです」

「それじゃ、イツキさん! ()()()くんと呼ぶことはお咎めなし! ということで、ありがとうございます!」

「え、は、はぁ……」

「そんなわけで、イツキくんを借りて行きますね! イツキさん、またです!」

「――え、待っ――」


 淡々と片付けついでに俺の身柄を確保とか、狂戦士そのものだな。


「さ~て、イツキくん。借りを一つ重ねちゃいましたね。放課後デートに行きましょうか!」

「お、お願いします……」


 ゴリ押しにも程があるが、これでイツキくん呼ばわりされても障害は解消された……かな。

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