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14.妹さん、興味を示す

「――で、彼女はね～……って、聞いてるの？　ミキちゃん！！」

「聞いてるよ。留学帰りのあの子だろ？」

「うんうん！　緋奈ちゃんとは運命っていうか、出会うべくして出会った相手なの！」

「それも気になるけど、生徒会長代理なら代理って教えてくれても良くないか？」

「だってわたしたちも緋奈ちゃんも、一年生なんだよ？　言うことでも無いでしょ」

「わーったよ！　で、一樹（いつき）は副会長代理なわけか」

「ううん、副会長になるって決まってるの。もうすぐ学年も上がるし、丁度いいからって」

「何という……しかも腕っぷしも強いとか、ますます男子が寄り付かなくなるんじゃね？」

「いーのっ！　ミキちゃんがわたしのお婿さんになってくれるんだし、他の男子なんていらないよ」

　マテ……いつから俺が一樹の婿になるんだ？

　フラグは確かに立てたが、コイツの中の俺への感情は、そんな先まで行っちゃってるっていうのか。

「それは困る！　困るな……」

「ミキちゃん……もしかして、あの言葉……嘘なの？」

「落ち着け！！　人の話を最後まで聞いてくれ！」

　生徒会室でお披露目された一樹のゴッドハンドの一件から、俺の前でだけコイツは、その手のジェスチャーを隠さなくなった。

　今も目の前で指をポキポキと鳴らして、俺を威嚇している。

「あーあれだ！　一樹は黙っていても可愛いだろ。だ、だから、もっと他の男子にモテてくれると、俺の株も上がるっていうかだな……お、俺が嬉しいんだよ」

「他の男子に言い寄られたり、告白されても怒らない？」

「当然じゃないか！　むしろ助か――」

「……今、何て？」

「待て！　誤解だ！！」

　おぉ、怖い……。

　男らしさに加えて運動神経抜群スタイルの一樹から詰め寄られると、妙な迫力を感じてしまう。

　もちろん出る所は出てるからこそ、目のやり場に困るわけだが。

「大体にしてミキちゃんが悪いんだよ？　わたし、ここまで鍛えぬくつもりなんて無かったんだから！」

「お、俺が悪いって……何かしたっけ？」

「わたしがミキちゃんちに来てからすぐのことだよ！　胸に手を置いて問いかけてみてくれる？」

　問いかけるってことは、一樹の胸に手を置くのか！？

　いやいや、それはあまりに愚かな行為だ。

「じゃ、じゃあ、俺の胸の内に……」

「ち、違うよ。わたしの胸に軽く手を置いて、心に問いかけるの」

「はっはっはっはっは！　冗談だろ？」

「男らしく無いよ、ミキちゃん」

「そういうことじゃないだろ……い、いいのか？」

「その手……別に揉んでいいなんて言ってないよ。はい、時間切れ！　答えられないと思ってたから、わたしが教えてあげる！」

「せっかちすぎるだろ……」

　一樹の目の前で変な手の動きを見せたのは、失敗だったか。

「ミキちゃん、今はそんなことが無くなってるみたいだけど、ずっと部屋にこもって何をしていたの？」

「ゲ、ゲームだ」

「一人でするにしても、そんな隠すことだったの？　ミキちゃんがよければわたしも参加したのに」

「参加？　何のゲームをしていたか知らないよな？」

「うん、知らない。あの頃のミキちゃん、凄く怖くて部屋に寄せ付けなかったし……」

「か、隠すことでもないけど、見られたくも無かったんだよ。集中してたし、そんな時に声なんてかけられても困るしな」

「ふぅーん……？」

　まさかと思うが今頃になって、興味を示して来たのか。

　俺に相手されなかったからって強い女子になってしまうとか、それは俺も想定外。

「ご、ご飯の時はリビングにいただろ？　その時に話しかければ良かったんじゃないのか？」

「……やっぱり怖かったし、時間ずらしてミキちゃんよりも先にお部屋に戻ってたもん……」

「それは悪かったな。しかしヒナと空手の組み手とか相方なんて、強くなりすぎだろ」

「空手じゃないよ。でも似たようなものだから、それでいいよ」

　話を逸らすことに成功したか。

「――それで、ミキちゃん」

「お、おう」

「今はそのゲーム全くしてないの？」

　逸らせてなかった！　真面目な顔して興味持たれたのか。

「してない。青原（あおばる）に決まってから引退したからな」

「引退？　ゲームを引退ってどういう意味？　電源をつけたらまた遊べるのに引退出来るの？」

　もっともなことを真顔で言われてしまった。

　キャラもアカウントも残したままで引退しているし、課金をすれば再開出来るだろうが……。

「さ、冷めたからだよ。一樹だってあるだろ？　夢中になってたけど、その内飽きてやめるとか」

「え、無いよ？」

「無いのかー……と、とにかくそういうことだ。俺からまた再開するとかは無いな」

「じゃあさ、わたしにそのアカウントっていうの？　使わせてもらってもいいかな？」

『駄目だ！！』

「わっ、びっくりした。声を張り上げてどうしたの？」

「う、運営のルールに反することだ。中身が別だとしても、他人が使うのは違反だ！」

「他人……」

「いやっ、た、他人ってそういう意味じゃなくて」

「お金を払えば問題無いんだよね？」

　問題ありすぎる。

　何せイツキって名前だし、もしゲーム内に入ったら、引退していない誰かが声をかけてくるのは避けられない。

「俺が引き籠れたのは、貯めた小遣いのおかげなんだ。だから、一樹がお金を使うのは勿体ないと思うぞ」

「……」

　お金がかかるのは事実だし、生徒会副会長で朝も早いし出来るはずが無い。

　一樹の首傾げは恐らく、お金のことだと思われるが。

「や、やらないよな？」

「……うん、そうするね」

「それは良かった。一樹の今後の為にもやらない方がいいぞ、うん」

　何やら大人しくなってしまったが、勝手に俺の部屋に入ってやるような妹じゃないし、大丈夫だろ。