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1.白く輝く不思議な女子



 

 私立の青原あおばる学院に通い出して早一年目の冬のち、もうすぐ春。


 この俺、小野瀬おのせミキにとってどれだけ春が待ち遠しくてたまらないのか、この気持ちは誰にも理解出来るはずも無い。


 冬を越せば年が変わる……ただそれだけで、何か新しいことが始まる予感があったりなかったり。


 それというのも、思い出すこと数年前……俺はとあるMMOゲームにはまり込んでいた。

 あの時もそうだった。


 バージョンアップする度に、常に何かが変化していたことに喜んでいたあの頃の感覚に似ている。

 中学卒業と同時に引退したけど、あの頃のみんなは今でも攻略しているのだろうか。


 もっとも俺の場合、チャットが好きだから人集めをしていただけで、攻略とかそこまでじゃなかった。

 リーダーというだけで満足していただけだ。


 とはいえ、リーダーらしくたくましく、それでいてゲーム内では最強のプレイヤーだった。たまに全滅とかしていたが、誰も俺を咎めることは無かったと思う。


 中の人は知らないけど、パーティメンバーで仲が良かったりそうじゃなかったり……リアルで出会う確率なんて無いに等しいから、今となっては謝りようが無いわけで。


 あぁ、でも……自分以外みんな、女キャラだった時もあったなぁ。

 ついつい思い出して、にやけてしまう。


「ミキちゃん、キモいよ? 朝からニヤつくなんて、どうせしょうもないことでも思いついたんでしょ?」

「な、何てことを言うんだ! 怒り顔よりは全然マシじゃないかよ! というか、その呼び方は家の中限定って約束しただろ? 守ってくれよ、マジで!」

「学院の中で守ってるし。いいじゃない、ミキちゃんで。どうせクラスでそう呼んでくれるような女子なんていないでしょ? 通学の、それも途中までなら誰も見てないし聞いてないんだから、背が高いのに心は狭いとか、心を広く持つべき!」

「背の高さは関係ないだろ!」

「あ! わたし、先に行くから~! ちゃんと来るんだぞ? 寄り道すんなよ?」

「朝から寄り道してたまるかよ。心配なら最後まで――」

「じゃあね、ミキちゃん!」

「あっ、くそ」


 海と山と大きな川を外郭に、きちんと区画整理された自宅と学院。

 青原学院は複数地区の学校を統合して出来たこともあり、マンモス学院と銘打たれている。


 俺のことをミキちゃんと呼ぶ彼女は、義理の妹であり同級生の古城こじょう一樹いつきという、男っぽい名前をしている。

 血縁関係には無いものの、兄貴夫婦の転勤による転校を嫌がった妹を居候させて、今に至っている。


 それはともかく、一樹は途中までは一緒に歩いているのに、誤解されたくないとかで何故かいつも途中でいなくなる。


 別に義理の関係で何かが起こるわけじゃないのに、用心深い奴だ。


 自称兄である俺が思わず何かの誤作動で、義妹にいきなり抱きつくとでも思っているのか、愚か者め。


 本人には絶対聞かせたくないが、妹はキリっとした大きな目をしていて、サバサバしすぎて誰よりも男らしさがある。

 思わず惚れてしまいそうになるのは、口が裂けても言いたくない。


 とにかく妹は俺のような猫背じゃないので、同性からも人気が高く男子にも定評がある女子だ。

 ――かと言って、妹を好きになってどうこうするつもりはない予定だ。


 家から学院まで大抵の生徒は俺や一樹のように、歩きか自転車を使って通う。

 自家用車で送迎なんてお上品なお嬢様は、青原には存在しない。


『ミャーミャー』

 ――ん?

 ネコの鳴き声が聞こえて来るが、捨て猫か?


 ウチはネコよりも小生意気な妹がいるので、動物は飼えそうにない。

 それだけに悲しいことだが、せめて声をかけてやらねば。


「あー……えーと、か、可哀想だが俺はキミの力になってやれないんだ! すまないな!」

「……ミャー」

「おぅ、ごめんよ」


 ――などと、あまりに白くてモフモフな可愛いネコだったので声をかけてしまったが、たまたま通りがかった近所のおば様たちからは、失笑と白い目を浴びせられる結果となった。


 逃げるわけじゃないが、逃げるようにしてその場から離れた俺は、落ち着きを取り戻して歩き出す。

 そういえば白い髪のあの子は、無事に最下層にたどり着いたのだろうか。


 あくまでゲーム中のクエストの話なのだが、あの女の子もネコキャラを使っていただけに気になった。

 画面越しに映る白い髪の彼女は、ネコではあったが、とても神秘的な外見をしていた。


 ◇◇


「……私の髪色はそんなに変か?」

「そんなことはない。むしろ、見惚れるくらいに綺麗だぞ!」

「ふん、らしくないことを言われてもな。ほら、リーダー! 狩り場に急ぎな!」

「お、おぅ」


 リーダーをしていた俺を支えて来た、凛々しい女戦士。


 リアル彼女も格好いい女子、あるいは女性なのだろうか。出会うことなどあり得ないが、キャラとはいえ、サラサラで白い髪の彼女はとても綺麗だった。


 ――思い出し回想はここまでにして、雪の降らない寒空の中、ぼっちな俺はスマホン対応の手袋を着け、歩きながら学院に向かっている。


 ゲームの中では頼れるパーティリーダーとして、多分モテモテだった。

 

 しかし現実は甘いわけも無く、同じクラスにいる妹に話しかけられる以外は、恋愛においては最弱野郎と言っていい。


 女子のドジっ子は超人気なのだが、男のドジは全然可愛くないしモテるはずも無い……というくらい、ドジでのろまで運動音痴な俺である。


 こんな恋愛最弱な男だと知られたら、あの頃のパーティーメンバーは呆れてモノが言えなくなるに違いない。


 それはともかく、画面を見ながら歩き続けていると、ふと目の前の何かに気付いた。


『歩きスマホン、超絶危険につき前を見続けろ!』などという、中々にドスの利いた注意看板に目が行った俺だったが、構うことなく画面に没頭しながら歩き続けると、目の前が急に真っ白になった。


「――う、おっ!? 粉雪でも降って来たか!? それともモフモフ!? なわけねーか」

 そもそも雪が滅多に降らない所なのに何を寝惚けてるんだよ、俺。


 大雪は歓迎しないが、雪が降ると一面が真っ白な世界になるだけに、何となく胸が高鳴る。

 思わず独り言を口走ってしまったそんな直後のことだ。


「白いモノに目が無い……そういうことですか?」

 振り向いた所に立っていたのは、小柄な女子だ。


「キミは……さっきの白いネコ!?」

「ネコ? いえいえ、白い下着、白いお餅、白い歯……色々ありますよ?」

「そりゃそうだ。そういう君は白い……髪!?」


 自然と話の流れが始まっていたが、この子は誰なんだ。

 しかも白い髪って、染めてるとかじゃないよな。


 白髪はくはつ女子に覚えはないし、いや、そもそもこの子はおいくつですかって話だ。


「あ、白髪は地毛なんですよ。だからといって、わたし、転生してきたおばあちゃんでもないですよ?」

「だ、だよなぁ。って、地毛!? 苦労しすぎだろ!」

「冗談です。愉快な人なんですね、イツキくんって」

「じょ、冗談か。焦った、マジで。ん? イツキ?」

「やっとお会い出来ました! すっごく会いたくて、調べて会いに来ちゃいました!!」


 ま、まさかこの子は、白髪キャラで男勝りの中の子!?


 これはまずい、まずいことになりそうなのに、予想に反して可愛いじゃないか。

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