表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/88

7.はじめての旅行

「二人とも今度の夏暇だったらうちの別荘にこない?」


 今日の鍛錬も終わり休憩をしているとティアからお誘いをいただいた。どうやら彼女は毎年父と一緒にこの時期避暑地の別荘へ行くらしい。さすが大貴族。ちなみにうちにはそんなものはない。


「ふっ、これだから偽お嬢様は……魔法もろくに使えないくせに鍛錬をさぼるのかい? そんなんじゃあ先がおもいやられるなぁ。なぁ、親友よ」

「ちょっとセバスに聞いてみるわ。ティアの家の別荘とか楽しそうだし」

「ええ、まってるわ。あとで詳しく話すけどヴァイスも絶対楽しめそうなとこがあるのよ。あ、あとお父様がセバスさんも誘っておいてって。ハロルドはお留守番ね。一人で魔法でも練習してるといいわ」

「え? ちょっとまって冗談だって!! 僕もいくってば」

「ごめんなさい、うちの別荘四人用なのよ、私、ヴァイス、お父様、セバスさんでいっぱいなの」


 四人用ってどんな別荘だよ…… それはともかく楽しみだ。記憶を取り戻してから俺はこの屋敷かハロルドとティアの屋敷くらいしかない。以前屋敷の外に出ようとしたがセバスに本気で怒られてしまった。貴族の息子も窮屈である。


 ティアとハロルドのやりとりも聞き慣れたものだ。ハロルドがよけいなことをいってティアがそれに反論する。ティアが鍛錬に合流してから半年。ティアさんと呼んでいた時期がなつかしい。そして魔法学園入学まであと一年だ……俺は少しは未来をかえることができているだろうか。


「たそがれてないで、ヴァイスも僕の味方をしてくれ!! てか痛い痛いぃぃぃ」


 また余計なことを言ったのかハロルドがティアに関節を極められていた。本当に物理攻撃強いなこのお嬢様



「申し訳ありませんが屋敷の仕事があるため私は行くことができません。オーキス様がご同行するなら身の危険はないでしょうし残らせていただきます。ヴァイス様は屋敷の事は心配せずお楽しみください」


 屋敷へ戻った俺は何かの書類を書いているセバスを別荘に誘ってみたが断られてしまった。彼は俺専属の使用人でもあるが、王都にいる父の代わりに色々な仕事もしているのだ。俺には大変そうなところはみせないが忙しいのだろう。


「そっか、残念だ…… あ、ティア預かってたんだけどこれを渡してくれってさ。オーキス様からみたい」

 

 そう言って俺が手紙をみせるとなぜかセバスが大きい溜息をついた。珍しいな。


「まったくあの人は本当に変わらない……」


 手紙を読んだセバスが頭を抱えてさらに大きなため息をついた。


「ヴァイス様、事情が変わりました。私も同行しましょう。別のものに引き継ぎの準備をしておきます」

「え……ああ、一緒にきてくれるのはうれしいんだけど。セバスってオーキス様とどんな関係なの?」


 あの手紙には一体なにが書いてあったのだろう? 俺が手紙で呼び出された時の反応をみるかぎりオーキス様の事は信頼しているようだったので悪い関係ではないと思うのだが。


「魔法学園時代の先輩なのですよ。あの人たちにはよく振り回されたものです……地方貴族の五男の私にも普通に接してくださったのはいいのですが、いつも馬鹿なことをやってはなぜか私も巻き込まれていました。」


 なにやら遠くをみながら懐かしそうなセバス。当たり前だが彼にも若いころはあるのだ。表情をみると苦労半分楽しさ半分といった感じである。てかセバスも魔法学園の生徒だったのね。


 セバスがいるならあっちでも色々教わることができるしありがたい。それにティアの言う俺も楽しめるとはなんなのだろう。俺は遠足前の子供のような気分を思い出す。




 平坦な道を何台かの馬車が走っている。出来が良いのか振動はほとんど気にならないし、乗り心地も抜群である。華美な装飾はないが質のいいものを使用する。これがオーキス様のこだわりなのかもしれない。


「それでね、ティアってば最近二人の事ばかりなんだよ。やれ、ヴァイス君の剣が上達してきたとか、ハロルド君の魔法はすごいとか。本当に二人がお気に入りみたい。どう? どっちかうちの婿養子にならない?」

「お父様やめてください……あと、飲みすぎです」


 馬車の中でワインを片手に饒舌にしゃべるオーキス様とそれを顔を真っ赤にしながら止めようとしているティア。最初のほうこそ社交辞令的な会話が続いてたがオーキス様が酒一杯飲んでからこの調子だ。


「いやいや、やめないとも。お前は素直じゃないからね。どうせ二人にはきついことばっかりいってるんだろう? この間も二人との食事が楽しくてこれが仲間なのかなって嬉しそうに私に報告してくれたじゃないか」

「お父様ぁぁぁぁぁ」


 顔を真っ赤にしながら口を閉じさせようとするが笑いながらオーキス様はそれを器用にかわしている。俺たちはどう反応していいかわからずハロルドと顔を見合わせる。


 ちなみにこの前の食事というのは狩人から買ったイノシシをさばいて一緒に食べたやつの事だろう。俺と彼女の愛読書の『エミレーリオの冒険』でイノシシを食べるシーンがあり、冒険者にあこがれているティアのためにハロルドと一緒に準備をしたのだ。セバスに習いながら血抜きなどをおこなったがなかなかうまくいかなったので心配していたが喜んでもらえていたようだ。


「なあ、ティアってかわいいな……」

「ああ、偽お嬢様改めツンデレお嬢様だねぇ……かわいい」

「あー、もううっさい!!」


 馬車の中でティアの悲鳴が響き渡る。オーキス様はというと酔いつぶれたのか幸せそうな顔で眠っていた。


「いやー、でも君が僕らの事そんな風に思ってたなんて嬉しいよ、ツンデレお嬢様」

「あ? 殺すわよ」


 いつものやりとりのはずだがティアがリンゴのように顔を真っ赤にしてうつむいているため迫力はない。ハロルドも空気を読んだのかいつものようにこれ以上はあおらなかった。


「心配しなくても僕らも君のことを仲間だと思っているよ。むしろ君のほうがそう思っていてくれてうれしかった。僕はその……口が悪いからね。」


 そういってハロルド照れくさそうに笑った。なんか恥ずかしい雰囲気だ。ハロルドが目で次は君だよってプレッシャーをかけてくる。

 俺も覚悟を決めよう。


「あー。俺も三人でいるのは楽しいよ。最初あんな手紙をもらった時は死を覚悟したけど、ティアがいるおかげで今は無茶苦茶たのしい 剣術のモチベーションも上がったしな。魔法学園でもこんな感じでやっていけたらなと思うよ」

「その……あれはごめんなさい。私も最初はどうなるんだろって思ってたんだけどいまでは三人でいるのが当たり前みたいになって楽しいかな……」


 ねえ、なにこの雰囲気? なんかむっちゃむずがゆいんですけど。


「そのチェスをもってきたんだ暇つぶしにやらないかい?」

 

 顔を真っ赤にしたハロルドが話題をかえるかのように鞄を取り出す。ティアも顔を赤らめながらうなずく。多分俺の顔も赤いのだろう。

「じゃあ、ヴァイス一緒にやりましょう」

「ああ。お手柔らかに頼む」

「え?ちょっとまって 自然な流れで僕を仲間外れにしないでくれないかな?」

「ごめんなさいハロルド、これ二人用なのよ」

「持ってきたの僕だよ。おかしくない?」


 まあ、チェスだしね。そりゃ二人用だよね。俺とティアは顔を見合わせわらいあう。馬車の揺れもないしチェスの駒が落ちることもないだろう。


 結局一番弱い俺のサポートをハロルドがすることで落ち着いた。ティアの駒をとるたびにハロルドが煽っては怒られていた。こいつ本当に頭をつかうことは強いな。


 ふと視線に入ったオーキス様の顔がにやにやしているきがする。あれ? 実は起きてるってことはないよね。え、むっちゃはずかしい。


 そうして俺たちは別荘につくまで楽しい時間を過ごした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ