ガンプとヴァイス
「すごいな……」
俺が日課であるドラゴンの卵への魔力供給を終えてガンプ爺さんの所に行くと彼は何体もの様々な数の卵に順番に魔力を与えていた。
ドラゴンにはいくつか種類がいるらしく、彼はその中でも一般人が使えそうなドラゴンを飼育してアステシアの店経由で販売をしているらしい。ようはドラゴン専用のペットショップというやつだろうか。行きに乗ってきたサラマンダーもそのうちの一体だそうだ。
「お疲れ様です。よかったらこれを」
「おお、お前さんは気が利くのう」
ひと段落したタイミングで俺はガンプ爺さんに声をかけて水の入ったコップを渡す。敬語を使っているのは初対面の印象こそ最悪だったものの、こうして色々と教えてもらっているから俺なりの敬意というやつだ。
いや、魔力の供給方法と、卵が孵った時にちゃんと傍にいろよってことくらいなんだけどな。それでもお世話になっているのは確かだからな。
「お主のドラゴンの卵も順調そうじゃの。しばらくは放置しておったんじゃろ? 元々生命力が高いのかもしれんな。それで、お前さんはドラゴンを使って何をするつもりなんじゃ? アステシアのお嬢ちゃんに頼まれたから教えているが悪用してはいかんぞ」
「わかってますって。それにワイバーンくらいじゃ悪用しようにも大したことはできないですって……うちの学校の連中とか虫の様に倒しますよ」
何回か戦っているからわかるが、ワイバーンはドラゴンの中でも、あまり強くはない。俺でも倒せるしな。例えばシオンやレイド当たりなら瞬殺だろうし、ティアや、エレナ、ハロルドあたりでも楽勝である。
「いや、どこかの村で襲われたくなければ、美少女を差し出せとか言ったりする生贄プレイとかできるじゃろ」
「マニアックな性癖だな、おい。完全に悪役じゃねーかよ」
思わず素でつっ込むと、ガンプの爺さんは「ほっほっほ」と愉快そうに笑った。
「わしの故郷ではそういうプレイがドラゴンライダーの中では人気じゃったぞ。それはさておき、空を飛べて戦闘力尾高いドラゴンは、魔法が使えない人間には脅威じゃし、偵察などでも重宝する。別に英雄とかになる力ではないが、便利な力じゃ。その反面ドラゴンは魔物じゃからな。人とわかりあるのはむずかしい。冗談抜きで、大人になったらいきなり食われる可能性もある。そんなリスクを背負ってまでなんで力が欲しんじゃ? お前さんは貴族なんじゃろ、ある程度の立場は約束されているんじゃろ? 別に命をかけなくてもいいんじゃないかのう」
「あーそれは……」
ガンプの声色が次第に真剣さを帯びてくる。なんだかんだ色々と教えてもらっているし、本気で警告をしてもらっているのだ。恥ずかしいが、事情を説明をしないのは失礼にあたるだろう。
「その……俺には好きな人がいて、彼女も俺を好きでいてくれるみたいなんですけど、相手の身分が高くて彼女の両親に引き離されそうになっているんですよ……学生だからまだ権力争いには参加できないし、そもそも地方貴族に過ぎないから、大した地位も望めない。だから。せめて他にはない力があれば認めてもらえるかなって思ってドラゴンライダーになる事にしたんです」
「ほう……惚れた女のためか……」
俺の言葉にからかってくるかと思いきや、なぜかガンプはまぶしいようなものを見るように目を細め俺を見つめた。心なしか羨ましそうに微笑んでいるのはなんでだろうか?
「なら、頑張らんとな。そろそろ学校に戻るんじゃろ? これをやるからちゃんと読んでおくんじゃ。ドラゴンは卵から孵ってからも大変じゃからな」
そう言うとガンプは自分の部屋の棚から、メモ書きを俺に渡してきた。その内容を見ると。ドラゴンの卵への接し方の他、ワイバーン用の餌や、飼育に関して気を付けることなどが几帳面に書かれていた。
「これは……」
「まあ、サービスじゃ。いざという時に行動しないと人間は一生後悔するからのう」
彼の言葉には不思議な重みがあり、俺がこれ以上深入りするのを拒絶していた。彼がわざわざ故郷を離れて、こんなところで商売していると関係があるのかもしれない。
「ヴァイスちょっとお願いがあるんだけどいいかしら?」
「ああ、わかった、今行くよ」
俺は何やら黄昏ているガンプさんに挨拶をしてアステシアの所へと向かった。