婚約者の提案
「あったぁぁぁぁぁーーーー!!」
「だからちゃんと、整理しておけって言ったじゃないか」
「しょうがないだろ、色々あったんだよ」
食堂での出来事から、授業を終えた俺は、部屋に封をあけられないまま放置されていた手紙を漁っていた。もう一人の転生者と戦った後に、疲労で倒れて、そのあとすぐにエレナとデートをしていたので手紙を読む時間がなかったのだ。中身を確認すると、しっかりと、アステシアの家から婚約の話があったこと、それを保留にしているが、条件はいいのでできれば受けてくれという旨の内容が書かれていた。ちょうど見つけたタイミングで帰ってきたハロルドと話す。
「これは……外堀を埋められているねぇ……」
「まじか……いや、確かにエレナの事は特に言ってなかったから婚約者をあてがわれるのわかるんだが……あと、親父が妙に乗り気なんだけど、アステシアの家ってそんなにすごいのか?」
「うーん、リチャードから聞いた話だと元は商人だけど金で貴族の立場を買ったらしいからねぇ……それに、エレナのところのお抱えの商人みたいだよ」
「うわぁ……なんか読めたわ」
商人が没落しそうな貴族にさんざん貸しを作って、それを担保に結婚して貴族になるということはちょいちょい聞く話である。そうやって彼女の家は貴族の仲間入りをしたのだろう。だから成り上がりのアステシアか……うちは歴史こそあるが、地方貴族で金はあまりない。親父もアステシアが嫁入りするときの金目当てで了承しようとしているのだろう。本来ならば婚約話も、同レベルの貴族からしかこないのならば金を持っているアステシアの家とつながりをもてということだろうか。俺が手紙を読みながらため息をついていると扉がノックされる。
「どなたでしょうか?」
「あなたのアステシアよ。開けてはくださらないかしら」
「え……?」
俺とハロルドはどうしようとばかりに顔を見合わせる。いや、本当にどうすりゃあいいんだよ。エレナの件も解決してないのに、婚約者とかキャパオーバーなんだけど……とはいえ、このまま扉の前で待たせるわけには行かないだろう。俺がイヤイヤながらも扉を開けると、蠱惑的な笑みを浮かべたアステシアが立っていた。
「アステシアさん、すいません、せっかくきてくださったようなんですが、俺も今手紙をみたところで……」
「だからこそ、これからの話し合いをしましょう。あなたの事は調べたけど私たちはうまくやれると思うわよ」
そういうと彼女は俺の横をすり抜けて部屋に入ってきやがった。そして、俺達の部屋をみて楽しそうに言った。
「同世代の貴族の殿方の部屋に入るの何て初めて。緊張するわね。まだ嫁入り前なので襲わないでね」
「いや、勝手に入ってなにいってんの?」
「ふふ、敬語よりそちらの方が私の話しやすいわ。二人で色々話し合いたいのだけどどうかしら? 特に婚約に関してね。あなたも思う事があるんでしょう?」
そういうと彼女は意味深に笑って俺を見つめる。その視線は俺が今回の話に納得していないことをみすかしているかのようだ。そして何かを話したいことがあるのだろう。
「ハロルド悪い、ちょっと席をはずしてもらえるか?」
「いいけど……大丈夫なんだよねぇ?」
「ああ、大丈夫だ。ティアは……今はまずいな……今頃、エリザベスをデートに誘ってふられているリチャードを慰めに行ってやってくれ」
「うん、任せて、でも君が助けてほしくなったら言ってね」
そういうとハロルドは一瞬アステシアを睨みつけて、外へと出て行った。そんな俺達のやりとりを見て、彼女は蠱惑的に笑った。
「ひどいわね、なんであなたたちは私をそんなに警戒してるのかしら? ただ婚約者に会いに来ただけだなのよ」
「よく言いいますね、どうせテスラさんの差し金でしょう。タイミングが良すぎるし、あなたの実家はテスラさんのお抱えの商人だ。バカでもわかりますよ。大体あなたの家のだったら俺の家よりももっと、ましなところと婚約できるでしょう? わざわざ俺を選ぶ理由がない」
「あら、ちゃんと調べているのね、でも一つだけ訂正させてもらうわ。あなたの家は確かに魅力的ではないけれど、この学園で成績優秀なあなたに、興味を惹かれたというのは嘘ではないのよ。あとこれを読んでくれれば少しは今回の話に肯定的にならないかしら」
そう言うとアステシアは蠱惑的な笑みを浮かべながら彼女は机の上に、分厚い紙の束を置いて。俺のベットに腰かけた。そして、視線で読んでみろと訴えてくる。
「なんだこれ……」
その資料を読み進めていくと、今回の婚約に関してのメリットが丁寧にまとめられていた。支度金の額や、その支度金の運用方法、アステシアの家が商品を優遇してくれること、それによる経済の発展など様々だ。実際どこまで正しいかはわからないが、確かにこの婚約にはメリットがあるように思えてきた。てか、この資料を作るの結構大変だったんじゃ……
「あと、別に他に女を作っても構わないわよ。ただ、私が長男を産むまでは避妊はしっかりしてね、あとはなるべく貴族には手を出さないで、平民相手ならともかく、貴族だとお金だけじゃすまないから」
「は……?」
当たり前のように言う彼女を俺は信じられない目で見るが、彼女は笑みを崩さない。というか何がおかしいのか? という感じである。いやいや、おかしいでしょ。浮気公認かよ。俺の顔で何を思っているのか察したのか彼女は意外そうな顔で言った。
「だって、あなたはエレナみたいな子がタイプなんでしょう? 私も容姿には自信があるけれどタイプが違うもの。それに愛人をかこっている貴族なんて珍しくないでしょう? 意外と純情なのね」
「いや、確かにそうかもしれないけどさ……」
そういう彼女は確かに美しい。はっきりとした目鼻に、意思の強そうな表情、絹のような黒髪は確かに魅力的だろう。彫刻のように美しいが、どこか冷たい感じがするエレナとは正反対ともいえる。てかさ、やはり前世の記憶のせいかハーレムって抵抗があるんだよな。それより、大事なことがある。
「でもさ、アステシアさんはそれでいいのか? まるで道具みたいにされてさ、あなたにだって好きな人だっていたんじゃないのか?」
「納得済みに決まっているでしょう、大体結婚なんて外交の手段ですもの。あと、安心して、はなからこうなるってわかってるのに、恋愛なんて非効率なことをするはずがないでしょう。それにあんな日々に戻るくらいなら好きでもない男に抱かれる方がましよ……」
一瞬だけ彼女の瞳に昏いものが宿った。しかし、瞬きをすると、彼女は先ほどまでの蠱惑的な笑みを浮かべていた。まるで先ほどの昏い表情が幻であったかのように思えてしまう。
「それにしても、これだけ譲歩しているのに、あなたは首を縦に振らないのね、よっぽどエレナの事が好きだったのね。あなた、ドラゴンの卵を持っているのよね」
「ああ、あるけど……」
こいつなんでそんなことを知っているんだ? と思ったが彼女のゲーム内での役割は情報屋だ。学園内に様々な情報網があるのかもしれない。俺達も隠しているというわけではなかったしな。
「ふふ、ならチャンスはあるわね。エレナと結ばれる方法があるかもしれないって言ったらあなたは乗るかしら」
「本当か!?」
俺は思わずベットに座っている彼女の肩につかみかかってしまう。一瞬彼女が驚いた顔になるが気にしてられない。それだけ必死だったのだ。だって俺はエレナが好きだから……色々誤魔化したけれど、彼女への想いは本物だから。もしも、チャンスがあるなら俺は……
「へぇ、そんな顔もできるんだ。成功率は高くないわよ。それでもいいかしら?」
「ああ、構わない。教えてくれ」
俺が彼女の言葉を待っていると、ノックも無しにドアが乱暴に開けられる。そちらをみると二人の少女が入ってきた。
「ヴァイス!! 婚約者ってどういうことなの? あんたエレナをたぶらかしといて何をやってんのよ。ぶん殴るわよ!!」
「ティア……いいんです!! きっとヴァイスにも事情が……ああ、そういうことですか……お盛んですね」
入ってきたティアは俺達を見ると表情を険しくした。ティアを止めていたエレナはこちらをみると、一瞬で無表情になって、睨んできた。待って、部屋が凍ってきたんだけど……ああ、そうか、今の俺ってベットの上でアステシアの肩を掴んでいるわけで……何も知らない人からしたら、まるで俺が彼女にキスをしようとしているように見えるわけで……
「ごめんなさい、これは私も予想外だったわ」
さすがのアステシアもエレナをみて冷や汗を垂らしていた。俺は何というべきか悩みながらエレナを見る。
「違うんだ、これには深い事情が……」
「とりあえず、死んでください」
満面の笑みでエレナは俺に死刑宣告をするのであった。
アステシアは癖が強いキャラになってしまったんですが、どうでしょうか?
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