婚約者
「ヴァイス!! 昨日は一体なにがあったのさ!! エレナが無茶苦茶こわいし、ティアも機嫌が悪いんだけど!!」
「そうだぞ、ヴァイス!! 貴様まさか、エッチな事をしようとして気まずくなったのか? 私ですらまだエリザベスとはキスしかしてないのに!! さっさとエレナに謝るべきだ」
学園での昼休みに俺は、ハロルドとリチャードに質問攻めにあっていた。放っておいてほしい気もあるが、彼らが俺を心配してくれているというのはわかるので邪険にはできない。てかリチャードとエリザベスがどこまで進んでるとか知りたくなかったんだけど。
それに彼が騒ぐのもわかる。なぜなら俺とエレナは今日一日一切の会話をしていないのだから……視線を合せようにも彼女の方をみるとすぐに逸らされるのだ。俺はそれだけの事をしてしまったという事だろう。
「色々あったんだよ……俺にはどうにもできないことがな……」
「ヴァイス……君がそういうからにはよっぽどのことがあったんだろうけど、僕らに話してくれないかな」
「よくわからんが私達に相談しろ、ドラゴンの時のようにひとりでかかえこむのは許さんぞ」
二人は俺を本当に心配してくれているのだろう、真剣な顔で問いただしてくる。そうだよな……ドラゴンの時だって何とかなったんだ。俺は彼らにありのままを説明することにした。エレナの父に会ったこと、そして言われたことを説明する。するとリチャードは絶望したとばかりに顔をしかめた。
「うーん、それは……確かになんとも言えんな……」
「なんでだい? 僕とティアのようにうまくいくことだってあるじゃないか」
「それは違うぞ、ハロルド。オーキス様が変わっているのだ。貴様とて本当はわかっているのだろう?」
「それは……でもさ、ヴァイスとエレナは惹かれ合ってたんだよ!! 悩んでいるエレナをヴァイスが救ってさ、一人で抱えて壊れそうだったヴァイスをエレナが救ってさ。二人はこれからって感じだったんだよ。それなのにこんな終わり方ひどすぎるよねぇ!!」
ハロルドの声が食堂に響き渡る。普段大声を大声を出さない彼がここまで激高するとはよほど腹に据えかねたのだろう。それだけ俺とエレナの事を想ってくれたのだろう。でもさ、どうにもならないことはあるんだよ。どうしようもないことはあるんだよ。
「なぁ……リチャード、俺が頼んだらお前の所に騎士になれたりするか?」
「可能だが、意味はないだろうな。我が一族はそこそこ権力を持っているとはいえ、しょせん地方貴族の長にすぎない。後ろ盾としては弱い。それはオーキス様でも同じだ。それだけ、エレナの家のような大貴族は権力を持っているのだ」
「だよな……悪かった。今のは忘れてくれ」
「ヴァイス……その……なんとか君の知識で解決できないのかい?」
「無理なんだ。本来だったら……シオンだったら解決できたんだけどな……しょせん俺はかませ貴族だからな……」
ハロルドとリチャードの言葉に俺は力なく笑うしかなかった。シオンの場合はその特異な力とレイドの後ろ盾があったから何とかなったのだ。俺には特別な力もなければ、後ろ盾もない。そう、あきらめるしかないのだ。大体青春に失恋はつきものである。これもいつか思い出になってくれるはずだ。
そう思っているとエレナとの思い出が走馬灯のように浮かんでくる。クールな彼女、でも意外と抜けている彼女、意外と弱いところもある彼女、そして誰よりも優しくて、俺のために怒ってくれる彼女。次々と思い出が浮かんでは消えて、俺の胸を苦しめる。でもさ、もうどうしようもないんだ。
「あらあら、大丈夫かしら。貴族たるものこんなところで泣いてはいけませんよ。ハンカチはいるかしら?」
突如現れた第三者の声に俺達は思わず視線を向ける。そこには長い黒髪の女生徒が立っていた。俺達より一つ学年が上の制服を着ている彼女は、俺達に困惑の視線を向けられても余裕とばかりに笑みを浮かべている。
「成り上がりのアステシアだ。だが、なぜこんなところに……」
リチャードが俺にだけ聞こえるように、耳元でささやいてきた。ああ、俺は彼女を知っている。ゲームにも出てきたからだ。彼女は情報屋のような役割を担っていてゲームのプレイヤーが困っているときに助言をくれるお助けキャラである。ゲームではレイドが自分たちの信頼できる生徒たちで作ったチームが結成される後半から登場するはずなのだが……
「あらあら、風呂のぞきがばれて以来エリザベスさんをデートに誘っても断れてばかりのリチャードさん、人の悪口は言わない方がいいわよ。それに……婚約者が泣いているというのに、声をかけるのは不自然かしら」
「うおおおおお、なぜ貴様がそれを知っている!! 私はふられていない、ふられていないぞぉぉぉぉぉ!!」
アステシアの言葉にリチャードが絶叫をする。いや、そんなことはどうでもいい。今彼女は何て言った? 誰の婚約者だって?
「ハロルド婚約者いたの? ティアにばれたらぶっ殺されるんじゃないか?」
「僕の婚約者はティアだけだよ。人聞きの悪いことをいわないでくれないかなぁ?」
「改めて挨拶するのは初めてね、私はアステシア。あなたの婚約者になったので挨拶をさせてもらいにきたわ。これからよろしくね、ヴァイス」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
今度は俺の絶叫が食堂に響き渡るのであった。ちょっと待って頭がこんがらがってるんだけど。俺に婚約者って……
というわけで婚約者登場です。多分ハーレムにはならないです。
食堂で大声でそんな話をするなよって感じですね。




