エレナとヴァイス
劇も終わり、劇場からどんどん人が出てきて、あたりはごった返していた。そんな人たちの流れが落ち着くのを俺は劇場の二階からボーっと眺めていた。どうすればいいんだ、俺は? ドラゴンの相手はゲームの知識でなんとかなった。ゲーム知識の通じない転生者だって、みんなの力でなんとかなった。でもさ、今回はどうすればいいんだ? 権力を手に入れる方法何てゲームは教えてくれなかった。俺に後ろ盾はない。ティアやリチャードとは仲がいいが、それを頼むのは筋が違うだろう。今回ばかりは本当に打つ手がないのだ。
「ヴァイス、大丈夫ですか、気分が優れないのですか? やはり、この前の戦いの傷がまだ治ってなかったんじゃ……」
「エレナ……」
俺の思考はエレナの声によって遮られる。よほど心配させてしまったのだろうか? 学園で鍛えており、体力があるはずの彼女は息を切らしていた。それに、せっかくのドレスも着崩れてしまっている。心配そうに駆け寄ってくる彼女に、俺は安心させるように笑顔を浮かべたがうまくできただろうか。
「俺は大丈夫だよ、ちょっと考え事をしててさ、本当にそれだけなんだ。だから心配はいらないぞ」
「ふーんそうですか……ヴァイスがそういう時は絶対嘘って知ってるんですからね」
俺の言葉に彼女は信用できないという顔をしながらも、彼女は横に座る。そして、自然な動作で俺の手の上に自分の手を重ねる。彼女の体温と共に、香水の匂いだろうか、柑橘系のすっきりとした香りが俺の鼻腔を刺激した。
「ヴァイス……今度は隠し事をしないで私を頼ってくださいね。私は何が起きても、あなたを信じますし、あなたの味方ですから……」
そういうと彼女は、自分の言葉に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にしながらも俺を見つめる。その瞳には俺への信頼にあふれていて、俺は思わず、先ほど言われたことを暴露したくなる。だけどさ、それじゃあ、結局何の解決もならないんだ。きっとエレナはテスラさんに文句を言うだろう。そして、ひょっとしたらテスラさんを説得することだってできるかもしれない。でも、それで結ばれたとしても、俺には彼女を守り切る力がないのだ。
俺の思考を読んだかのように、彼女は俺の手を強く握りしめた。まるで強がらないでというように……そんな彼女に俺は思わず甘えたくなってしまう、頼ってしまいたくなる。
「エレナ……実は……」
「おお、二人ともここにいたんでだね、探したよ」
思わずエレナにすがりそうになった俺をけん制するかのように、テスラさんの声が俺達にかけられた。俺と手をつないでるをみられるのが恥ずかしいのか、エレナが顔を赤らめながらも離れる。俺は彼女の温かさを失った手を少し寂しく思いながら、立ち上がった。
「劇が終わってすぐに席を立ってしまって申し訳ありません、気分が悪くなってしまいまして……」
「おお、大丈夫かい? それではこの後の食事は中止にした方がいいかな」
「そうですね……申し訳ないですが遠慮させていただこうと思います」
「じゃあ、私も帰りますね。それではお父様、また実家でお会いしましょう。ドレスありがとうございました」
「おお……そうか……」
エレナの言葉にテスラさんは本当に残念そうな顔をする。まあ、あんなことをいうくらいなのだ。本当に娘の事を愛しているのだとは思う。少し可哀そうになってきた。
「エレナ、久々にテスラさんに会ったんだろう? 俺の事は気にしないでいいんだぞ」
「気にしないはずないでしょう、それに今日はヴァイスと一緒にいたいんです。いますぐ着替えてきますから、ちゃんと待っててくださいね」
そういうと彼女は室内へと戻っていった。俺は彼女に心配させてしまったという気持ちと申し訳なさでいっぱいになる。大きなため息が聞こえたので、横を見るとテスラさんが悲しそうな顔をしていた。俺の視線に気づくと彼は苦笑する。
「君はあの子に愛されているね、私がおもっていたよりもずっと……」
「そうなんでしょうか……?」
「だが、心を鬼にして言わせてもらう。さっき私が言ったことを忘れないでほしい。彼女を危険な目にはもう合わせたくないのだ」
「ええ……わかってます、俺だってエレナが危険な目に合うのはみたくないですから」
テスラさんの言葉に俺は迷いながらも返事をする。エレナは本当にいい子だとおもう。だから彼女には幸せになってほしいと思うんだ。
テスラさんに別れを告げた俺はエレナと一緒に歩いていた。街と学園の間の道は、こんな時間というのもあり、人影は一切いなかった。俺は意を決して口を開く。
「なあ、エレナ、大切な話があるんだ」
「え……あ……はい。なんでしょうか?」
俺の言葉に横を歩いていた彼女が顔に緊張が走る。そして、立ち止まった彼女は俺を上目遣いで見つめながら顔を真っ赤にして次の言葉を待っている。そんな彼女をみて俺の胸に愛おしさがあふれそうになる。
「そのさ……こうして、二人で会うのはもうやめよう」
「え……ヴァイスなんで……そんなことを言うんですか? 私なんか嫌な事してましたか? 今日劇場へ行った時から具合悪そうでしたよね、それと関係あるんですか?」
彼女の信じられないという顔が、徐々に泣きそうな顔に変化していくのを見て俺は目を逸らしそうになる。でも、ダメだ。彼女を傷つけたのは俺なのだから、俺が逃げるわけにはいかないのだ。
「そうじゃない。こうして二人で会うのはお互いにまずいかなって思ってさ。婚約者でもないのにデートをしていると、変な噂も立っちゃうしさ……」
「なんですかそれ……? ヴァイスは私の事嫌いだったんですか? それとも、私がデートに誘ったりしたのは迷惑でしたか? 私とそういう噂をされるのは嫌でしたか?」
「それは違う、俺がエレナを嫌いになるはずないだろう!!」
「じゃあ、なんでそんなひどいことを言うんですか!!」
夜道に彼女の声が響く。俺だって本当の理由を言いたいよ、でもそれじゃあ、エレナはテスラさんに抗議をしにいってしまう。俺は半端だ。さっき嫌いになって言えば彼女だって俺を見限ってくれたはずだ。それなのに、俺は言えなかった。自分の気持ちに嘘をつけなかった。だから俺は無言を貫くことしかできなかった。
「私の事を嫌いとか、異性として見れないとかなら悔しいですが納得はします。でも、それとは違うんですよね?」
「……」
「なんで何も言ってくれないんですか……」
彼女は俺をポカポカと殴っていたが、やがて声を殺してすすり泣き始めた。俺だって彼女のこんな顔を見たくはなかった。思わず抱きしめたくなるが、今の俺にそんな権利はない。でも仕方ない事なのだ。彼女を救うためなのだから……
「もう、いいです……ヴァイスなんて知りません。ヴァイスの馬鹿……」
そういって走り去っていく彼女を俺は黙ってみていることしかできなかった。てか、学園と反対の方に走っていったが大丈夫なんだろうか? ああ、それにしても、俺の体からエレナの温もりが離れていくのが寂しいと思ってしまった。俺はしばらく、一人で夜空を眺めてるのだった。
つらいつらいつらい
自分で書いていてつらくなりました。ヴァイスだめだな……ここがつらい感じのピークなんでご安心ください。というかそうしないと俺の心がもたない……




