後処理とこれから
「すまない、まさか、野生のドラゴンが来るとは思わなかったんだ……だが、シオン達も無事みたいでよかった」
「僕たちも、まさかこんなことになるなんて思わなかったんだよ。許してほしいなぁ」
シオンとレイドを食堂でみつけた俺たちは、今回の事を謝るために声をかけた。偶然ということにするにしても、ドラゴンが襲ってくるような所で、決闘を挑んだということは謝ったほうがいいだろうと思っての行動である。
「あの後、すぐに助けが来たし、指輪もちゃんと返してもらったしいいよ」
嫌味の一つでも言われると思ったが、シオンは何やら上機嫌に答えた。あれ、こんなキャラだっけ?
「そりゃあ、シオンはそうだろうな。指輪を返したおかげでアイギスとお礼にデートしてもらったもんな。それにしても、先生たちはずいぶんと、助けが来るのが早かったな……まるで、あのドラゴンが来るのがわかっていたかのようなタイミングだったな」
「決闘の時にけが人がでたらまずいからな、一応見回りが近くに来るタイミングにしたんだよ」
「ふーん、まあ、そういうことにしておいてやるよ。ああ、ハロルド、この前の話考えておいてくれよ」
「うん、わかっているよ。返答は急がなくてもいいんだよね」
「ああ、問題はない」
レイドとの会話は何か見透かされているようで疲れるから苦手だ。俺は会話がひと段落したと判断して、頭を下げて去った。
さて、次に行かないと。怪我も治った俺は、今回の件で迷惑をかけたみんなに、お礼と謝罪をするためにあいさつ回りのようなものをすることにしたのだ。
ハロルドにあの後のことを聞いたら、俺が去った後、すぐにきたジェイス先生を筆頭とした教師たちの救援によって、多勢に無勢と思ったのか、ドラゴンはすぐに逃げたらしい。
「ヴァイスに相談したいことがあるんだけど……」
「ん? なんだ。もしかして、レイドから勧誘されたか?」
「さすがだねぇ、そうなんだ、俺たちの仲間にならないかって言われたんだけどどう思う?」
俺はゲームの知識を思い出す。確かレイドは自分の派閥を強化するために、学生時代から有力な生徒に声をかけていたのだ。本来だったらハロルドは声をかけられないが、俺との鍛錬の影響で魔力が向上しているのと、この前の戦いでレイドのお眼鏡にかなったのだろう。出世を狙うならば第三王子のレイドと仲良くするのは悪い事ではない、だが……
「遠くない未来、魔王が復活するんだが、レイドの派閥はその戦いに巻き込まれるぞ、まあ、生き残れば出世は間違いなしだな」
「魔王って……英雄譚みたいだねぇ……、うーん、でも危ないならやめようかなぁ」
そういってハロルドは窓から女子寮の方をみた。おそらくティアの事を考えているのだろう。ハロルドはティアと正式に婚約をしているので、このまま、婚約がうまくいけば彼は、ティアの父であるオーキス様の後を継いで大貴族の仲間入りをするだろう。だから、無理に頑張らなくてもいいし、なにより、ティアと一緒にいたいのだろう。
待って、こいつ無茶苦茶成り上がってない? 俺もがんばっているはずなのに置いて行かれている気がする……
「ヴァイスはどう思う?」
「まあ、ティアと一緒にいたいならやめた方がいいと思うぞ」
「そうだよねぇ……」
俺はちょっと悲しい思いを抱きながら返事をする。俺も色々がんばろう。決意を新たに次の場所へと向かうのであった。
「それでは、これが依頼にお金になります」
「はい、ありがとうございます」
「その……今回の依頼の死傷者はどれくらいでしたか?」
「ヴァイス……」
俺は、冒険者ギルドの受付で今回の依頼の支払いをすます。今回のドラゴンとの戦いで冒険者ギルドの力を借りたので、その後処理である。俺は営業スマイルの受付嬢に、我慢できずに気になっていること聞いてしまう。隣のティアはあきれたという風に俺の名前を呼んだ。でも、気になるものはしかたないのだ。
「そうですね……死者は10人、けが人は23人です。この規模の作戦にしてはずいぶん死者が少なかった方ですよ。依頼主さんがきっちりとした情報をくれたおかげですよ」
「そうですか……ありがとうございます」
死者10人……俺の依頼のせいでそれだけの命が失われたのだ。攻撃パターンを教えたり、できることはやったつもりだが、責任を感じるなという方が無理だろう。俺がへこんでいると、背中に衝撃を感じた。
「いってぇ!!」
隣にいたティアが思いっきり背中をたたいてきたのだ、俺が睨むと彼女はどうしょうもないやつをみるような目でため息をついた。
「あのねぇ、冒険者たちは常に命がけなのよ、だから死ぬことなんて覚悟して依頼を受けているの。だからあんたがへこむことなんてないのよ。むしろ頑張って散った連中に失礼よ」
「ああ……わかっているさ。わかっているんだ」
ティアの言うことはもっともである。でもさ、死を覚悟して依頼を受けているって言っても、実際に死ぬのはまた別問題じゃないだろうか? ここらへんは、転生者である俺との命の価値観の違いなのだろう。というか、ティアすっごい冒険者っぽいこと言ってるけど、こいつ貴族の令嬢だよな……
「そこのお嬢ちゃんの言うとおりだよ、ヴァイス君。むしろ俺たちは、面白く、金払いのいい依頼をしてくれた君に感謝をしているんだぜ」
声のした方をみると、ドラゴンと遭遇したときにあったアンディさんが、椅子に座っててを振りながら、俺に向けて笑いかけてくれた。彼も、今回の依頼に参加したと聞いている、そして彼は古株なわけで、だから、今回死んだ人だってきっと知り合いなはずで……
「冒険者なんてかっこつけているが、ここはそこのお嬢ちゃんのような、例外を除けばたいていは一攫千金を願う馬鹿どもの集まりだ。死んでも仕方ないと覚悟して冒険者をやっているし、明日死ぬかもしれないと思いながらも、今を楽しみながら生きているんだ。だからさ、あいつらのことを思うんだったら、そんな悲しい顔をしてないで、あいつらの思い出話に付き合ってくれないか? 幸いにもみんな懐は温かいしな」
「アンディさん……」
彼は責任を感じている俺に気を使ってか、俺の分の酒を注文してくれた。一応この世界では15で成人のため法律上は問題はないのだが、なんとなく俺は酒は飲まないようにしているのだが、今日だけは彼に付き添って酒を飲むことにした。
「みんなドラゴンを倒した記念だーー!! さわぐぞ、今日は俺のおごりだー!!」
アンディさんの声で宴が始まった。こんなに飲んだのははじめてだったけど、なんだか無性に楽しかったし、冒険者たちの武勇伝を聞いていると、まるで自分も冒険者になったような気分になれた。
結局俺とティアが学校に帰ったのは夜中だったせいもあり、ティアはハロルドにすごい心配されて、俺はエレナには「私には構ってくれないんですね」と言われ冷たい目でみられたのだった。明日はあそこに行かなければいけない。酒を飲んだのは罪悪感をわすれるためでもあったのかもしれない。




