転生者の末路
「ふははは、まだ生きていたようだな。ヴァイス!! さあ、貴様ら、あのドラゴンを射抜け!!」
リチャードの号令によって、大量の矢が降り注いでドラゴンを襲う。彼と共にやってきたリチャードの家の騎士たちの攻撃である。圧倒的な物量に相手はなすすべもないはずだ。
『イレギュラーー!! 貴様最後まで!!』
大量の矢をもろともせずにドラゴンが血走った目でこちらを睨みながら走ってくる。うおおおお、マジか。まだそんな体力があんのかよ!? 俺がビビッていると、横にいるリチャードが得意気に剣を抜いた。
「グラムよ!! その力を開放しろ!! また、私の伝説に新しい物語が紡がれたな!!」
「お前魔剣の力をつかってるだけじゃねえかよ……」
隣のリチャードが、魔剣を掲げると、ドラゴンの動きが明らかに鈍る。これがリチャードの魔剣の力だ。彼の家に伝わる竜殺しの魔剣はドラゴンの能力を下げるのだ。そして動きが鈍り、ドラゴンが困惑している間にも、矢が、魔法が、奴を襲う。リチャードの連れてきた連中は奴の家の騎士たちの攻撃だ。その能力は、俺よりもはるかに、優秀なわけで、ドラゴンの傷がどんどん増えてきて、そしてやがて、うめき声をあげて動きを止めた。
「リチャード……とどめは俺にやらせてくれ」
「ああ、最初からそのつもりだ。油断はするなよ」
「ああ、ありがとうな」
「素直にお礼を言うなよ、きもいぞ」
「今、シリアスな雰囲気だから余計なこと言んじゃねえ!」
俺は軽口を交わしながらドラゴンへとむかった。ボロボロのドラゴンは今にも息絶えに呻いていたが俺と視線が合うと、感情を爆発させたかのように、目から涙を一粒流した。
『なんでだよ、イレギュラー……俺たちは同類だろう? お前だけは……誰でもないお前だけは俺の気持ちをわかるはずだ。なのに、なんで俺を裏切ったんだよ!! なんで俺と手を組んでくれないんだよ!! 俺はお前と一緒に……』
こいつの目にある感情が怒りだったら、俺はこのまま、何も言わずにとどめをさしただろう。こいつの目にある感情が憎しみだったら、俺はこのまま、何も言わずにとどめをさしただろう。でも、こいつの目にあるのは純粋な悲しみと困惑だった。
「もしも、お前がこの世界の住人と共に生きていくつもりだったら、手を組めただろうな……でも、お前はそうじゃなかった」
『何をいっていやがる。だって、誰も俺の話を聞いてくれなかったじゃないか。誰も俺の仲間になってくれなかったじゃないか……みんな、俺を化け物だっていいやがる!! 助けてやっても、殺そうとしてきやがった。だから俺は……俺はぁぁぁ!!』
ドラゴンの目に、悲しみが浮かぶ。俺はこいつが転生して、どんな生活を送ってきたかを知らない。俺はたまたま、友人に恵まれた。でもこいつには、理解者が誰もいなかったのかもしれない。仲間が誰もいなかったのかもしれない。自分がそうだったらと想像するだけでゾッとする。いきなりゲームの世界に転生して、こいつは孤独のままだったのかもしれない。
「すまない……出会い方が違ったら俺はお前と手を組めたかもしれない……だがお前はもう、俺の……俺と仲間の敵なんだよ」
『なんでだよう……俺はただ……仲間がほしかっ……』
俺の魔剣がドラゴンの眉間を貫いた。声にならない悲鳴をあげてドラゴンの体がびくびくと跳ねて、やがて動かなくなった。この日、俺は初めて人を殺したのだ。俺と同じ転生者を殺したのだ。この世界に転生して戦うことを選んだ時点で、誰かを殺すことも覚悟はしていた、でも最初に殺す相手が転生者だとは思わなかった。自分への嫌悪感に吐き気を感じる。
俺だって、あいつのようになる可能性もあったのだ。あいつのように殺されるのは俺だった可能性だってあったのだ。あいつだって、どうすればいいかわからなかっただけだったのだのだろう。もしも俺が、もっと優秀な……それこそ主人公みたいな人間だったら、あいつを救うことだってできたのではないだろうか。でも俺はかませ貴族にすぎない。俺が守れるのは自分の親しい人間だけだ。あいつは、もう人を殺してしまっていた。あいつはもう、この世界の住人をゲームのキャラとしか見れなくなっていた。あいつはもう、戻れないところまで来てしまっていたのだ。だから仕方がなかったのだと、俺は自分に言い聞かせる。
「やったな、ヴァイス」
「そういう、変なフラグを立てることを言うんじゃねえ」
そばにやってきたリチャードに、俺はかろうじで軽口を返す。そうやったのだ。俺はやりとげたのだ。そう思うと緊張の糸が切れたのか、全身に痛みと疲労が襲ってくる。
「おい、ヴァイス!!」
全身を襲う疲労と痛みのせいか、猛烈な眠気が襲ってくる。ああ、くそ、もう限界だ。リチャードの声がどんどん遠くなる……
次の章の話も大体頭の中でできたので、週一更新できそうです。
読んでくれている人いるかなぁ……
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