転生者と現地人
秘密にしていたのだと言う事を打ち明けられた時、最初の内はヴァイスが趣味の悪い冗談を言っているのかな、と思っていた。確かに子供の頃に彼が頭を打って気を失った直後から彼は変わったと思っていたんだから。だけどまさか、別人になっているなんて思いはしないだろう。
実際は別人になったのだろうか? 僕が知る限りでは確かに少しは努力家にはなったけれど、彼の元々の卑屈な性格と死んだ目に変化はなかったし、僕としてはそこまでの違和感を感じなかった。だから僕は彼が気を失って以降も親友で在り続けたし、いきなり鍛錬をしようなどと言い出した時も、英雄譚に影響されていたからかなと思っていた。そして今も、半信半疑である。そうでなければ、僕は彼の話をちゃんと聞く事はできなかっただろう。
彼に話を聞かされたその場では平静を保ったものの、色々悩み抜き、ティアに相談もした。彼女はあっけらかんと「ヴァイスはヴァイスでしょ」と割り切っていたが僕にはそれはできなかった。なぜなら、気を失った後に出席したパーティーで会ったティアとは違い、魔法学校で会ったエレナやリチャードとも違い、僕は……僕だけは、最初から彼を知っていたからだ。僕だけが本来のヴァイスと転生? したというヴァイスの両方を知っている。僕だけが両方のヴァイスと親友だったのだ。
そして一晩悩んだうえで僕は彼の力になる事を決めた。結局僕には今の彼と本来のヴァイスが別人とは思えなかった。だから僕は昔のヴァイスも今のヴァイスも同一人物だろうと判断することにしたのだ。彼の本質は変わっていないのだからと自分を納得させた。
これは逃げかもしれない、ただの思考放棄なのかもしれない。でも気絶する前のヴァイスとも、今のヴァイスとも僕だけが思い出がある。両方とも僕にとってはかけがえのない親友なのだから。どちらかのヴァイスではなく、両方のヴァイスを知ってしまっている僕は、もし今のヴァイスが本来のヴァイスを乗っ取ったというのならば、とてもではないがこれまで通りに接することができなくなってしまうだろうから。僕は僕だけの結論と決意をもって今度の戦いに挑むことにした。
脳内に直接響く声と共にドラゴンが襲ってきた。ヴァイスの言う通り、その目には明らかな知性があり、それだけでこの前遭遇した大型ドラゴンよりも厄介であろう事が予想される。
「ドラゴンだって? この学校はそんなのも飼ってるの?」
「そんなはずないだろう、この前といい、今といい、ドラゴンによく襲われるな」
シオンとレイドは皮肉を交わし合いながらも即座に戦闘モードに移行した。彼らにとってはイレギュラーな事態だろうに“さすがだなぁ”と思わされるところだよね。おそらくだけど僕らの知らないところで、彼らは彼らの物語を紡いで経験を重ねていたんだろうね。
「一旦決闘は止めだ。あいつを倒すぞ」
「そうだねぇ、こんなところで死にたくないよ。二人ともこれを使って」
ヴァイスの言葉を合図に僕はシオンとレイドに魔力回復のポーションを渡す。彼らは少し困惑するも受け取った。ここからが本番である。ヴァイスの話だと僕たちは死ぬことはないって言っていたんだけど、油断をすることはできない。死にはしなくても重症は負うかもしれないしね。
「ヴァイス!! 緊急事態だ。先生たちを呼んできてくれないかい? シオンとレイドもいいだろう? 彼が一番弱いからねぇ」
「ハロルド!? 俺は戦えるぞ!!」
僕の言葉にヴァイスが反応するが、もちろん事前に打ち合わせ済みの演技である。彼には次の舞台に行ってもらう必要があるからね。シオンとレイドの方はどんな反応だろう。二人の方をみてみる。
「何でだ? 味方の数は一人でもいい方が……」
「いや、シオン……ヴァイスには助けを呼びに行ってもらおう。私達だけでは対応できないかもしれないからな」
「くっ、すまない」
『逃がすと思っているのか?』
「うおおおお!!」
俺達のやりとりにドラゴンが火の玉を吐きながら割り込んでくる。火の玉はヴァイスの目の前の地面にぶつかりその爆発によってヴァイスが吹っ飛ばされた。そのまま姿が見えなくなる。まあ、直撃はしてなかったし大丈夫だろう。というかすべてを知っているからわかる。これはドラゴンが気を利かせたんだろう。そして同時に気を引き締める。本当に僕らと同等の知識があるんだね。
「レイドかシオン、今から君たちの指示に僕は従うよ。よろしくね」
「ああ、いいぞ。ただヴァイスに言っておけよ、貸し一つだぞと」
「何のことかなぁ?」
僕の言葉にレイドがにやりと笑いながら答えた。うわぁ……何だろうね。この人怖いなぁ……実は魔法学園に来た時は、平民がこの学校に入学しているのも少し気にくわなかったけど、それ以上にレイドに取り入ろうとしてシオンに喧嘩を吹っ掛けたんだよね、もちろん負けたから失敗したんだけど、それで正解だったかもしれないなぁ。
そして僕らはドラゴンと対峙することになった。僕らの役目はなるべく相手にダメージを与えつつ、時間を稼ぐことである。全く簡単に言ってくれるよね。僕の親友はさ。
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異世界転生もの読んでいて、両親とかって息子が急に変わったことどう思っているんだろうなぁって思っていたので、今回ハロルド視点にしてみました。何かここらへんにいいアンサーある作品とかないですかね……




