エレナとヴァイス
「先ず、私は怒っています。貴方の苦しみに全然気付けなかった自分に……そして、私が優しくされれば誰にでも心を開く安い女だと思っている貴方にもです」
そう言うと、エレナは此方をじっと見詰めてきた。俺は反応を返すでも無く彼女が口を開くのをそのまま待つ。何を言われるのだろうか、彼女が自分で言う通りに怒っているような気もするし、悲しんでいるような気もする。
「幼い頃に誘拐されたからでしょうか……正直に打ち明けますが、私はあまり人を信用していませんでした。いえ、今も一部の人しか信用していないでしょう。最初にあなたに話しかけられて、ペアを組んだ時もこの人はなんなんだろう、ストーカーかなって思ってましたし、ティアとあなたが友人ではなかったならパーティーを組むこともなかったかもしれませんね。今思えば、私の魔法の属性を知っていたのもそういう事だったんですね」
「ああ、そういえばそんなこともあったな……」
エレナが懐かしそうに語り始めた。最初に会った時か……俺が不用意な発言をしたせいでストーカー扱いされたんだよな……こうして思い出すと他にも色々とやらかしている気がする。
「でも……そんな私を変えたのはヴァイスなんですよ……あなたの知っている私は、シオンに心を開いたのかもしれません。でも、それは私ではない私です。もしかしたらあったかもしれないだけの私です。貴方の前にいる私を救ったのはあなたなんです。ヴァイスの前にいる私の心を開いたのは私の前に居る貴方で、シオンなんかでは無くてヴァイスなんですよ」
「でも……それは俺がお前の悩みや過去を知っていたから……」
「それでも行動したのはヴァイスでしょう、私を救おうとしたのはあなたでしょう。ヴァイスはヴァイスの言葉で救ってくれたんです。シオンなんかではありません。それともあれですか? わたしとの交わしてきたやりとりは全部物語にあったのですか? それを上辺な物語をそのままなぞっただけなんですか?」
「それは違う……それは俺の言葉だ」
「ならば私はあなたの言葉と行動に救われたんです。だから何もないなんて言わないでください。私を救ったことを無かったことにしないでください!」
彼女は俺を責めるように睨み付けてくる。相も変わらず彼女の手は俺を握りし締めたままでいる。徐々に力が込められてきている。
「それだけではありません。私以外にもティア、ハロルド、リチャードとの会話や行動も全部、貴方には物語だったんですか? 只の人形みたいに物語の通りに沿っていたのですか?」
「それは違うぞ。最初の方はともかく途中からは俺の意志だ……」
ああ、そうだ。最初こそ、俺はゲームの通りに行動していたが、どんどんゲームとは違う話になっていった。そもそもハロルドもリチャードもゲームではモブに近しい存在だった。俺は俺の意志で彼らと仲良くなって冒険をしたのだ。俺は俺の意思で、この世界を行動していたのだ。
「なら……あなたは自分の意志で、私たちと仲良くなったり、信頼を勝ち取ったって事じゃないですか。あなたは未来を知っていたかもしれない。でも、ただ知っていただけで、あなたは自分の意志と言葉で行動して私たちと、この関係を築いたんですよ。違いますか!?」
「それは……違わない……」
彼女の言葉に俺は何も反論出来ない。彼女が握る手は力がどんどん強く込められ、興奮しているせいか魔力が溢れ出して、其れに呼応する様に空気もどんどん冷え込んでいく。同時に彼女の目線もどんどん鋭いものになっている。
「だからもっと自信を持ってよ、ヴァイス!! 何にもない? ふざけないで!! あなたは私を……私たちを侮辱している。私たちの生き方を侮辱している。勝手に自分一人で何にもないって諦めないでよ。一人で諦めるなら、もっと私たちを頼ってからにしてよ!! あなたが救ってくれたように、あなたが助けてくれた時みたいに、私にもヴァイスを救う機会を寄越しなさいよ!! 私だけじゃない、皆があなたが頼ってくれるのを待ってるのよ!! だから……もっと私たちを信じなさいよ!!」
彼女の目から大粒な涙が溢れていた。彼女は俺の前で悔しそうに泣いてくれている。そう、俺のために泣いてくれているのだ。その涙が俺の中の何かに突き刺さる。結局、俺はまだどこかで彼女たちと自分は違う存在だと思っていたのかもしれない。無意識のうちに壁を作っていたのかもしれない。これではあの転生者の事を怒れはしないな……俺は自虐的な笑みを浮かべた。
彼女は……いや、彼女だけではない、ティアやハロルド、リチャード、それらのほかに俺がかかわってきた人たちは生きているのだ。この世界で、俺と同じように生きているのだ。そして自分の意志で、俺の力になろうとしてくれている人がいるのだ。だったら俺がやることは決まっている。
「悪かった、エレナ……俺はどうかしてたみたいだ」
「違いますよ、ヴァイス。こういうときは悪かったじゃなくて、ありがとうです。確かにあなたには魔法の才能も剣の才能もないかもしれません。でもあなたには私たちがいます。あなたが築いてきた絆があります。だから私達でドラゴンを倒す方法を考えましょう」
「そこは冗談でも、魔法か剣の才能があるって言って欲しかったな」
「大丈夫ですよ。いざとなったら私があなたの剣になりますから……ご飯は冷めて……というか凍りかけちゃってますね……まあ、でもせっかくだしいただきましょう」
主にエレナの魔力のせいではあるんだけどな。そうして俺達は料理に漸く手を付ける事にした。すっかり冷めきっている料理だったが、なぜか不思議と心が温まった。
更新遅れてすいません、ブクマ700になりました。ありがとうございます。
シリアスシーンは何回も推敲して書くの苦労してしまいました。難しい……




