慟哭
俺はどう言い訳をしようか、脳をフル回転させる。なんと言えばいいだろう。どうすれば彼女は納得してくれるのだろう。プレッシャーに思わず逃げたくなるが、そんな俺をエレナの瞳と強く握られた手が俺を捉え続ける。
「もしかして、今の悩み事はヴァイスが、以前言いかけていた事が関係するのでしょうか? この世界が英雄譚の中の世界で、ヴァイスはその外から来たって言っていましたよね……その事と関係があるのでしょうか」
彼女は俺が以前、孤児院でつい漏らしたことを覚えていたようだ。与太話と受け流してくれてもいい内容なのに、彼女は覚えていてくれたのか……俺の話を真剣に聞いてくれたのだなと思う。だが、前までは嬉しかった彼女の信頼が今は重く感じてしまう。
「やはり、そうなんですね……私に詳しく話してください。ヴァイスの言う事なら、どんな荒唐無稽な話でも信じますから」
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか彼女は俺に先を促した。もう、ごまかすことはできないだろう。話すしか俺に道はないようだ。
正直に話した後、彼女がどういう反応を示すかはわからないが、それは彼女次第でしかない。今はこう言ってくれているが、信じてもらえないかもしれないし、信じてもらえても軽蔑されるかもしれない。だって俺は、テストであらかじめどんな問題が出るかを知っていて、それを答えていただけのようなものであり、今はそのカンニングペーパーをなくして悩んでいるというだけなのだから……
でも、それでいいのかもしれない。結局のところ、俺はチートで彼女を助けて信頼を得ただけなのだ。失望されればこのプレッシャーも少しはなくなるだろう。
そうして俺は、自分が異世界から転生してきたこと、そしてこの世界は俺の知っている物語に近い事、そしてどうなるかを知っていたから今まで上手い事立ち回れたという事、今もう一人の転生者が現れ、俺の仲間や同級生を差し出して、一緒に世界を蹂躙しようと言われている事を話した。
すべて話した後の彼女の表情は何かを考え込んでいるかのようだ。まあ、いきなりこんなことを言われたのだ。信じてもらえなくとも仕方ないだろう。
「正直異世界とか、この世界が物語の世界と言われても、訳がわからないというのが正直に思った事です。でもヴァイスが嘘をついていないのも、そのもう一人の転生者と言う方の提案を拒みたいのだ!? と、思い悩んでいるのはわかりました。だったらどうすればいいか話し合いましょう。大丈夫です。ヴァイスと私達なら、この程度の試練程度の事など乗り越えられますよ。だって、私たちはそのドラゴンよりも大きいドラゴンと戦って生き残ったじゃないですか」
そう言って彼女は話を聞く前と同様、俺に微笑んだ。その表情には俺が覚悟していた不信ではなく、恐れていたのかもしれない軽蔑でもなく、普段と変わらぬ友愛だった。なんで彼女はそんな表情を浮かべられるんだ? 俺はエレナが思っているような人間ではないというのに……
頼むからやめてくれ……俺にそんな目を向けないでくれっ!! まるで信頼出来る仲間を見るような目をしないでくれ!?……俺が優位に立てていたのはゲームの知識があったからなんだよ。ゲームの知識が通じない相手には何もできないんだ……だから、俺ならなんとかできる。そんな期待を籠めた眼で見ないでくれ!!??!?
俺はこの時に成ってようやく自分の気持ちに気付いた。俺は結局怖いのだ。今まではゲームの知識でなんとかやってきたが、それがなくなってしまったのが怖いのだ。それなのにエレナは相も変わらずに俺を信じてくれている。俺が今回も何とかする作戦を考える事を期待している。もしも俺がこうしたいと言ったら、彼女はそれを手伝ってくれるだろう。だが、ゲームの知識がない俺が考えた作戦でドラゴンと戦って、負けるのがこわくてしかたがないのだ。負けて彼女を……力を貸してくれた人の命を失うのが怖いのだ。だったら……だったら失望してくれた方がまだましだ……
「違うんだ……今回のドラゴンがどう戦うのかを俺は知らないんだ。だから俺には何もできないんだ……本当の俺は無力で、今も正直どうすればいいかわからないんだ……」
「大丈夫ですよ、ヴァイスならどんなピンチでも乗り越えられますよ。私は知っています。あなたが強い事を……あなたが誰よりも優しい事を、そして英雄譚のような英雄になれると。だってあなたは悩んでいる私を救ってくれたじゃないですか」
「違うんだ…違うんだよ!! 言っただろう。俺はただ知識を使ってチートをしていただけだ。お前が悩んでいると、ピンチになると知っていたから、どう救えばいいか知っていたから救えたんだ!! 本来お前が英雄になれると言うはずの人間は俺じゃない、俺ごときじゃないんだよ。本来その位置にいるべきなのはシオンなんだよ!! 圧倒的な力を持った主人公であるあいつなんだ。俺のようなかませ犬の貴族じゃないんだよ!!」
「ヴァイス、そんなことは……」
「そんなことはあるんだよ!! 俺には何もないんだよ、お前だってわかっているだろう。剣の腕は並みで、魔法だって並みだ。ハロルドの様に強力な魔力はないし、ティアのような化け物じみた身体能力だってないし、お前のような戦闘センスもない、リチャードのような指揮能力も血筋の強さもないんだ。努力だってした、でもダメだった。致命的に才能が無いんだよ。俺には知識しかなかったんだ。なのにそれが通じない相手にどうやって戦えっていうんだよ、何ができるって思ってるんだよ。何にもない俺に何ができるって言うんだよ!! 俺は英雄なんかじゃないんだよ。英雄になんてなれないんだよ!!」
俺の慟哭が響いていた。わかっている。これは八つ当たりだ。何にもできない愚かな俺は彼女に当たり散らしている。せっかく優しい言葉をかけてくれている彼女に当たっている。俺は今までに溜め込んでいたものを吐き出して叫んでいた。
俺だって頑張ったのだ。でもダメだったんだ。幼馴染や友人達は皆各々に才能を開花してさせていくのに、俺には何もなかった。俺にはゲームの知識しかなかった。だからそれを頼りに頑張ってきたのに、それが通じない相手が現れたのだ。
正直、俺には今どうすればいいかなんてわからなかった。もう限界だった。もう一人の転生者をどう倒すか全く思い浮かばないのだ。だけど友達を売ってまでノウノウと生き延びたくもない、でも死にたくはない。なんと醜く滑稽なのだろうか。今までゲームの知識でズルをしてきた罰が当たっているのだろう。いっそのこと、情けない俺を彼女が見限ってくれればいいと思う。
「ヴァイスがどう思っているかはわかりました」
泣きじゃくる俺に彼女は優しく声を掛けてきた。その目にはいまだ変わらぬ俺への信頼があった。正視できすに俺は目を逸らす。ここまで言っても伝わらないのか、俺に価値なんてないのに……
「あなたの考えていたことを聞いて、私も言いたいことが沢山できました。だから今度は私が思っている事を話す番ですね。」
決意に満ち満ちた彼女を、俺はただ見詰めることしかできなかった。
思ったよりヴァイスの心情の表現にてこずってしまいました。大分独りよがりな感じになってしまった気がします…… 挫折を表現したかったのですがうまく表現できたか不安ですね…… これからも頑張りたいと思います。
毒舌少女とその本音がわかる少年の異世界恋愛を書いてみました。よかったら読んでくださると嬉しいです。こっちは軽いノリです。
『呪いによって『悪役令嬢』と呼ばれる彼女を、俺のスキル『翻訳』によって正ヒロインにしてみせる』
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