偽りの同盟
俺は目の前のドラゴンと同盟を組めると思ったことを後悔した。ああ、こいつはだめだ。もはや嫌悪感しかない……だがどうする? こいつが俺に友好的なのは同じ転生者であり、自分と考えが同じだからという認識があるからだろう。迂闊な事をいえばすぐさま殺されるかもしれない。ここは話を合わせるしかないだろう。
『どうだ、一緒にこの世界を楽しもうぜ』
「ああ、そうだな。とはいえさすがに俺も一緒にいた時間が長いやつが喰われるのは見たくないからな。適当なやつでもいいか?」
『ゲームのキャラに情がうつったのか? 愚かだな。まあ、魔力が高い奴なら誰でもいいぜ。魔法学園なら選び放題だろう、楽しみにしてる』
俺の言葉にドラゴンは満足そうにうなづいた。これで一応時間は稼げたか……もちろん学校の人間を生贄にする気はない。とりあえずは今の状況をなんとかする方法を考えなければいけない。
「だが生贄をみつけても、ここまで呼ぶのはさすがに怪しまれないか? さすがに学校にお前がくるってのは無理だろう?」
『ああ、それなら心配はいらないぞ』
ドラゴンはそう言うと巣穴をあさり俺に骨でできた、笛のようなものを差し出した。
『これを吹けば俺はいつでも現れる。俺の骨で作った『龍笛』だ。獲物を狩れるタイミングになったら教えてくれ』
とりあえず龍笛を受け取った俺は観察する。おそらくなんらかの魔力があるのだろう、見るだけで強力な力がこもっているのがわかる。くっそこんなとこだけゲームチックだな。もしかしたらあいつのいたゲームではこうやってドラゴンを乗り物にしていたのかもしれない。
「うおおお!!!」
笛に意識を集中していた俺だが、気づくとドラゴンが口を俺の頭のすぐそばに置いていた。なんだ……俺はどこかでこいつの逆鱗に触れたのか? いや、違う……俺のにおいをかいでいるのか? なんのために……?
『ああ、一応匂いをおぼえておいた。万が一お前がゲームの人間どもにつかまった時に、大体の場所がわかるようにな。あと、まさかありえないとは思うが逃げるなよ』
「ははは、俺達は同じ転生者だぜ。逃げるわけないだろ……」
そう言ってドラゴンが笑う。最後のはあいつなりの冗談かもしれないが、こちらとしては洒落にならない。これですべてを放置して逃亡という手は使えなくなった。俺は心の中で舌打ちをする。とりあえずここにいたら心臓がもたない。早くこの場からさらないと……
「そろそろ帰らないと死亡者扱いされそうなんだが、街にもどってもいいか」
『おお、そうだな、もう少し会話したかったが下手に怪しまれてもやりにくいだろう。どうする、街の近くまで送ってやろうか?』
「いや、万が一誰かに目撃されたらまずいだろ、なんとか自力で帰るよ」
オークや他の魔物に襲われる可能性はあるがこいつと一緒にいるよりはましだろう。俺はドラゴンの提案を丁重にお断りさせてもらった。
するとドラゴンは何やら息を深く吸い込んで……
「---!!」
すさまじい音量で雄叫びを上げやがった。鼓膜が破けるかと思ったし、まるで心臓をわしづかみにされたかのような錯覚に襲われた。何考えてんだこいつ!! 殺す気かよ!!
『ああ、悪い悪い。うるさかったか? でもこれでこの森の魔物たちは俺の声に恐れて散り散りになるはずだぜ。気を付けて帰れよ』
どうやら善意でやったらしい。あいつの言う通りに魔物はいなくなったのだろうか……とにかく俺は逃げるように森を抜けることにした。
俺は森の中を警戒しながら突き進む。俺の実力では正面から戦ったらオークとタイマンで生き残れるかどうかだからな……ドラゴンの遠吠えで魔物が散ったとはいえ油断はできない。それにしてもこういう時に魔法学園での訓練の経験が活かされる。これはゲームの知識ではない、俺がこの世界で学んだ事だ。俺はこの世界に転生して色々学び、色々な人と出会った。そう……俺にとってこの世界での事はもう、前世よりも大事なことになってきているのだ。だからこそ、俺はあのドラゴンの考えは許せないし相いれない。
「んっ? なんだこれは?」
しばらく森を探索していると俺は何やら開けたところについた。しかも自然にではない。何か大きな獣が争ったかのように木々が壊れている。そういえば、ドラゴンは冒険者と戦ったと言っていたな……もしかしたら生き残りの冒険者がいるのかもしれない。
あたりをじっとみると地面に血が等間隔で垂れていた。ビンゴだ。自分の命も一大事だったがなんだかんだ一人が心細かったのかもしれない。俺が生き残りの冒険者を探すため血の跡を進むと唐突に途切れていた。
「それ以上は進むな!!」
俺が不思議に思いながらもさらに進もうとすると、上の方か制止する声が聞こえた。よくみると冒険者らしき男が木の上に座っていた。所々に擦り傷があり右腕は折れているのか、布と木で固定されている。
「まさか、助けがくるとはねぇ、ありがたい。あ、その先には進まないほうがいいよ。罠が仕掛けてあるからさ」
へらへらとしたおっさんだが、見覚えがある。確かアンディさんだっけな。冒険者ギルドでも優秀な人だとハロルドが言っていた。てかピンチなのにブービートラップを仕掛けてんのかよ……
「薬草ならありますがいりますか?」
「おー、助かるねぇ、遠慮なくもらおうかな」
そういうとアンディさんは音もなく木の上から降りてきた。そして俺の渡した薬草を傷に塗った。薬草はあくまで回復力を高める程度の効果しかないが、折れた腕の痛みも多少はマシになったのか心なしか表情に余裕ができてきた。
「それでアンディさん、さっそくで悪いですが動けますか? 今は魔物がいませんがいつ襲ってくるかわからないので」
ドラゴンの遠吠えでちりぢりになっている様だが、いつまた戻ってくるかわからないからな。俺が声をかけるとなぜかアンディさんはきょとんとした顔でこちらを見つめた。どうしたんだ?と首を傾げていると、
「いやぁ、まさか貴族の坊ちゃんに名前を覚えてもらっているなんて思わなくってさ」
「優秀な冒険者って有名ですしね、何度かギルドでも顔を合わせてますし」
「ふーん、君変わっているってよく言われない?」
「まあ、それなりには……」
アンディさんの言葉に俺は苦笑した。まあ、ゲームの内容を知っているからな、それゆえの行動をしていると変人扱いされることも珍しくはない。
「君名前はなんていうんだい? 今度お礼に酒でもおごってあげよう」
「ヴァイスです。お言葉はありがたいんですが、まだ学生何でお酒はちょっと……」
名前を呼んだ途端なんかいきなり好感度が上がった気がする。なんなんだろうか? 怪我をしているアンディさんをかばいながらだが俺達は森を進んだ。何匹かオークにもあったが俺の魔法や、アンディさんの索敵能力と弓でなんとか撃退することができた。巻物は使い切ってしまったが命には代えられない。しかし、これは一人だったら死んでいた可能性があるな……
「ヴァイス君!!」
「はい」
何度目だろうか。俺はアンディさんの声で動きを止めた。ある程度進みお互い疲労も限界だが、この人の索敵能力は一向に落ちないな。これが上位冒険者の実力という事か。息をひそめて身を隠す。不意打ちできればいいんだけどな。あれ、オークじゃない。エルフだと……?
「おお、マリーちゃん」
「アンディ!! アンディなの? よかった…本当に生きていてよかった……」
アンディさんが茂みから飛び出した。そういえばアンディさんの相方のマリーさんだっけな、酒場で二人でいるところをみたことがあるな。二人は再会を喜んで抱き合っている。この人もリア充か……まあいい、とにかく助かったようだ。俺はひとまず安堵した。本当の地獄はこれからだということはわかっているけれど、いまはとにかく生き延びたことを喜びたい。
やばい、シリアス展開でギャグが挟めない……
次もシリアスになりそうです。よろしくお願いします。
あと新しい短編を投稿してみました。こちらも読んでくださると嬉しいです。
イベントで推しキャラの可愛いコスプレイヤーがいたから声をかけたら隣の席の口うるさいけど美人なクラスメイトだった件について
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