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かませ貴族の恋愛譚4

 吹っ飛ばされていったオーキス様を見届け、俺達は塔の内部に侵入した。ハロルドはぼろぼろにもかかわらず先頭を走っていた。よっぽどティアに会いたいのだろう。俺は少しうらやましいと思う。なぜなら俺はそこまで人を想ったことがないからだ。今も親友や気になる子はいるがここまで誰かのために、一生懸命になれるだろうか……


 階段を下りているとやたら豪華な扉があった。しかもこれ見よがしに大きな鍵穴がある。ここにティアがいるのだろう。ハロルドは興奮しているためか少し手こずったもののカチャリと音がして鍵が開いた。



「ティア!! だいじょ……がはっ!!」

「死ねぇぇぇぇぇ!! ってハロルド!?」



 腹を思いっきり蹴られて吹っ飛んできたハロルドを俺はとっさに受けとめた。扉の中にいたのは怒るオーク……ではなくティアだった。足を突き出したまま固まっている。後ろの壁は脱走しようと試みたのかひびが入っていた。いや、普通壁を殴ってもひび入らないだろ。石でできた塔だぞ……



「なんであんたたちが……私いきなりお父様に婚約者を連れてくるっていわれて、閉じ込められたから人質にしようと思ってつい……」



 え、うっそでしょ? オーキス様が連れてきた婚約者を蹴っ飛ばして人質にしようとしたのかよ……これハロルドだからギャグですんでるけどもっと偉い人が来てたらどうするんだよ。下手したら処刑されるぞ。




「お前いきなり蹴るのはやばいって……今回はハロルドだったからよかったけど」

「私も冷静に考えたらそう思うわ……閉じ込められたからむしゃくしゃしちゃって……本当にハロルドでよかった……」

「いや、全然よくないですよね……ハロルド死にそうですよ……」



 俺とティアはようやく会えた安心感か顔を合わせて笑いあう。なぜかエレナがドン引きした顔で俺たちを見つめていた。



「そういやあんたたちなんでここにいるの?」

「私たちがどれだけ心配したと思っているんですか!! ティアが婚約するって聞いて私たちは驚いたんですよ。話を聞こうにもティアは黙ってどっかいっちゃいますし…… それでみんなでティアを連れ戻しに行こうって話になったんです。特にハロルドはオーキス様と死闘を繰り広げたり珍しく頑張ってたんですよ!!」

「え? どういうこと……なにがあったの?」



 きょとんとしたティアに俺達はこれまでの顛末を説明してやる。特にハロルドの臭い台詞とかを多少誇張しながら話した。オーキス様との戦いの話でティアの顔が真っ赤に染まってくるのを俺とエレナはにやにやと楽しんだ。照れているティアをみてエレナも少し機嫌がなおったようである。




 塔を下りた俺達はハロルドを背負ったティアについていき屋敷へと入った。ティアの命令でハロルドの治療が進められる。オーキス様帰ってきてないらしいけど大丈夫かな? マジで死んでないよな……



「馬鹿なお父様のせいで負傷したハロルドは責任もって私が看病するわ。二人には客室を用意したから今日は泊まっていて」

「いや、とどめさしたのはお前だよな。それにお前看病っていってもろくに治療できないじゃん。俺が変わりにみるか、使用人に頼んだほうがいいんじゃないか?」

「ヴァイス空気を読んで下さい!! 素直になれないティアが二人っきりになるための口実を作ってるだけなんです!! ハロルドが目覚めたら最初に顔を合わせたいんですよ。だってもう使用人が治療してますし、正直やることなんて何もないじゃないですか」

「うるさい!! いいから私がここにいるから大丈夫なのーー!!」



 顔を真っ赤に染めたティアに部屋を追い出された俺達は苦笑しながら客室へと向かった。あのまま部屋にいたら恥ずかしさをごまかそうとするティアに殴り殺される可能性があったからな。比喩抜きで。

 俺たちは使用人に案内された部屋に入った。あれ、なんで一部屋なの? まさか俺らもラブコメやれってか? 俺は少し緊張しながらエレナをみた。照れたり……しないな……なんかやたら怖い顔してるけど俺なんかやっちゃいました?



「ヴァイス」

「いや、違うよ。二人で一部屋とか、なんかどきどきするとか思ってないぞ。使用人に言ってちゃんともう一部屋用意してもらうぞ」

「なんの話をしているんですか……あなたがひそんでいるのは気づいています。出てきなさい。抵抗するなら魔法を使いますよ」



 エレナが厳しい表情のまま冷気を手に集中した。俺も腰の剣に手をかけた。やっべえ、全然気づかなかった。ということは少なくとも俺よりは格上か。本当にうちのパーティーは女性陣の方が戦力になるな。



「待って待って、君たちを驚かせようとしただけなんだよ。お礼を言いたくってね。君たちのおかげで娘の婚約者も決まったんだ。こんなにめでたいことはないからね」



 カーテンの陰から壊れかけた仮面をかぶった人影が現れた。オーキス様である。ハロルドの魔法で吹き飛ばされたのにぴんぴんしてるな……いや、大怪我されたらまずいんだけどな。



「やっぱり、あなたの計画通りだったんですね。今回のティアの婚約者騒動は……」

「どういうことですか?」

「お、やっぱり気づいたか。せっかくだし君の予想を聞かせてもらおうかな」



 オーキス様はいたずらがばれた子供の様に笑った。エレナは不審そうな目でオーキス様と俺を交互にみた。まあ、途中から薄々そうじゃないかなとは思っていたよ。あまりに俺たちに都合がいいようにまわっていた。



「まずはジェイス先生が、俺にティアの婚約者の話をして、真実を確かめるために俺たちを屋敷に向かわせるように仕向けたんですね。そして屋敷で話したときにハロルドがティアを助けに行くようにわざと煽った。そしてセバスから俺たちが助けに向かったのを知って塔の上で待っていた。違いますか?」

「その通り!! 彼女の好きな英雄譚をなぞったんだ。素敵だったろう? ジェイスとセバスに協力してもらってね。彼とは昔からの付き合いだから断りにくかったんだろう、セバスの事は怒らないであげてほしいな」



 俺の言葉にオーキス様は楽しそうにうなづいた。この人は本当に娘のためにやったつもりなのだろう。好きな人が命をかけて自分を助けに来る。女の子なら一度はあこがれるはずだ。でも一つ問題があるよな。



「なんで私たちを……ハロルドを……試すようなことをしたんですか? あんな変な恰好までして私たちに立ちはだかって!! それにもしもハロルドがあきらめたらどうするつもりだったんですか?」



 エレナが怒ったように口を開いた。そんなエレナをみて「そんなに変な仮面かなぁ」とオーキス様がぼそっとつぶやいた。正直センスはやべえと思います。でも俺の疑問はエレナが代弁してくれた。



「どうするかって? その時は本当に新しい婚約者を探すさ。その程度の覚悟なら申し訳ないけどあきらめてもらうよ……貴族には義務がある。それはわかるよね」

「貴族としての義務……それはわかりますが……」

「ティアには貴族としての義務がある。彼女には冒険者の夢はあきらめてもらわなければならない。だからせめて恋愛くらいは本当に好きな人と、彼女の事を本当に想ってくれている人と結ばれてほしかったんだ。ジェイスからハロルド君と仲が良いというのは聞いていたんだけど中々もどかしい感じらしいじゃないか。本当は自然に結ばれるのを待ってあげたかったんだけどね。私も縁談を断るのに限界があるのさ……」



 オーキス様は呻くようにいった。一応ティアは外面は良いし、容姿もいい。婚約者がいないといえば貴族の次男や三男のからの縁談は絶えないのだろう。オーキス様より力のある貴族の次男坊とかからきたら断れなくなるかもしれない。だから強引な手を使ったのか。さすがに婚約者がいるのに縁談を申し込むやつはいないし仮にいても断りやすくなるだろう。


         

「こんなことをしといてなんだけど君たちも二人が悩んでいたら助けてやってほしい。お互い初めて同士だからね。これは親の私にはサポートできないことだからさ」



 俺たちに頭を下げお願いするオーキス様の顔は娘の未来を心配する親の顔だった。そしてオーキス様は顔を上げ俺達の表情をみると何かを悟ったように部屋から出て行った。



「あー、でも二人一部屋じゃまずいよな……」

「そうですね、なんか恋愛の話をした後ですしなんか変にきにしちゃいますね……」



 俺たちの間になにやら気まずい空気が流れる。まあ、このままじゃ緊張して寝れないしな。扉を開けようとしたが開かない? え、なんで? よくみると床に紙が置いてある。拾って読んでみると「君たちも青春を楽しみたまえ」と書いてあった。エレナにもそれをみせる。


「オーキス様!!」


 エレナの絶叫が室内に響いた。え? なにこれ。どうすりゃいいんだよ。俺達は結局一晩中同じ部屋にいることになった。





くっそ、眠い。帰りの馬車で俺はあくびをかみ殺した。結局あのあと一睡もできなかったのだ。一応床に横になったが体の節々が痛い。エッチなハプニング? なんもねーよ。エレナがパジャマに着替えている間は目を凍らされたわ。どんだけ信頼ないんだ、俺は……


「ハロルド怪我はもう大丈夫ですか?」

「もちろんだよ、ティアにやられたとこ以外は完治したかな。さすがオーク並みの力だねぇ」

「どういう意味よ!!」

「くそが、リア充どもがくたばれ」


 いつもの会話がはじまった。でも俺は知っている。あの二人が俺たちを見つけるまで手をつないでいたことを。馬車で自然に隣にすわったことを。

 

「そういうあんたたちこそ昨日は一緒の部屋にいたってお父様から聞いたわよ」

「昨晩はお楽しみだったんだねぇ」

「楽しんでません!! 誤解を招く言い方をしないでください」

「お前らこそキスとかしてたんじゃねーの、くっそ、イチャイチャしやがって!!」


 

 彼らの恋愛はうまくいくかもしれないし、なにかがきっかけで別れるかもしれない。これはゲームにはなかった展開なので俺には未来は解からないが二人が結ばれたらいいなと思った。まあ、あんまりイチャイチャされたらむかつくけどさ。


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最近仕事がやばくてなかなか更新できませんでした……


これでハロルドとティアの話はおわりになります。ついに独り身が主人公だけになってしまった……というわけで次は主人公の話です。


評価ポイントが940くらいになりました。とても嬉しいです。なんとか1000ポイント目指してがんばります。面白いなって思ったり、続きが読みたいなって方はブクマや評価、感想くださると嬉しいです。


また、気分転換にラブコメを書いてみたのでよかったら読んでくださると嬉しいです。



「365回フラれ続けた俺は誰かにフラグが立っているといわれても信じない」


https://ncode.syosetu.com/n4523ft/



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