かませ貴族の恋愛譚3
見張りに冒険者を雇っていたとは……俺たちは三人組の冒険者と対峙する。全員が仮面をかぶっている異様な連中だが俺は彼らの姿に見覚えがあった。エミレーリオ冒険譚の主人公たちとまったく一緒の恰好なのだ。ただのコスプレ連中ならよいのだが、まさか本物……じゃないよな……
念のために魔法のこめられた巻物をハロルドとエレナに一つずつ渡す。護身用にくらいになればいいのだが。
「僕たちはここにいる少女と話したいだけなんです、通してはもらえないでしょうか?」
「うーん、申し訳ないけど誰も通すなって依頼なんだよね。君たちがこのまま去るっていうなら見なかったことにしてもあげてもいいよ」
ハロルドの提案に冒険者は首を横に振った。まあ、そうだよな。彼らからしたら俺たちは単なる侵入者だしな……対峙しているだけでわかるが、相手はかなり強いだろう。まともに戦って勝てる気はしない上に殺すわけにもいかない。やべえな……詰んでやがる。
「ねえ……あれってオーキス様とジェイス先生にあなたの所の執事ですよね……なんでみんなスルーしてるんですか?」
「え? 何言ってんだ。確かに変な仮面だけどオーキス様たちがそんなもの装備して変装するわけじゃないだろ。誰かさんじゃあるまいし……」
「それは忘れてください!! あとウィンディーネ仮面は正義の味方なんです。馬鹿にしないでください!!」
どうやら地雷だったらしく、エレナに首をつかまれぶんぶんと振り回された。気軽に人の黒歴史には触れてはいけないな……反省しなければ。
「おう、オーキス!! エレナに俺の正体がばれてるじゃねえか、どうなってんだよ!! 今後どんな顔をして学校で接すればいいんだよ」
「へえ……すごいな……この仮面には認識齟齬の魔法がかけられているんだけどなぁ。彼女は魔法の感知能力が高いんだね、あと今の私はエミレーリオだよ。間違えないでね」
「そんな事聞いてねーーー! くっそ、とにかくこいつらを足止めすればいいんだろ? お前の道楽に付き合うのもこれが最後だからな」
エレナの声が聞こえたのか、何やら仮面の冒険者たちが揉めていたがしばらくすると俺たちの方へと向かってきた。俺はハロルドに目で合図をした。
「風よ!!」
「残念、君の相手は私だよ。大地の手よ、押しつぶせ」
突如地面がせり上がり、壁のように俺たちを分断した。あぶねえ……下手なところにいたらせりあがった床と天井でサンドイッチの様に押しつぶされていた。魔法でせりあがった壁はすぐに砕けるが、俺たちはだいぶ離されてしまったようだ。
まるで一騎打ちの様に冒険者が俺たちの前へと立ちはだかる。エミレーリオの相手はハロルド、怒鳴っていた仮面の男はエレナ、そして俺の相手はさっきから無言の仮面の男だ。いや、耳をすませば何やら「申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません」とつぶやいている。え? 何この人こわいんだけど。
「ジェイス先生そんな恰好で何をやっているんですか? というかなぜここに?」
「くっそ、次の試験の成績あげてやるからこのことは他の生徒には黙っててくれ……抵抗しなけりゃこっちも戦わねえよ」
エレナ達はなぜか戦う気はないようだ。ひょっとしたら二人は知り合いなのかもしれない。まあ、ハロルドさえティアの元にたどり着けばよいのだ。足止めをしてくれているだけでもありがたい。俺は俺の敵を倒すとしよう。
「あんたにゃ悪いが、ここは通してもらうぜ」
「申し訳ありませんが、足止めをさせていただきます」
目の前の冒険者の姿が一瞬ぶれたかと思うと俺の目の前に木剣が迫る。とっさに剣で受け止めたが防戦一方だ。予想以上に強い……救いは相手が俺を殺すつもりがない事か……むしろ模擬戦をやっている気分である。てかこの剣筋セバスじゃないか? 俺の頭の中が急に霧が晴れたかのようにすっきりとした。
「お前セバスだろ!! なにやってんだよ、父さんに言って給料減らしてもらうぞ」
「なっ、何のことかよくわかりませんな……しかし、違和感に気づき仮面の効果を打ち破るとは流石です。ですが剣の腕前はまだまだのようで」
正体を指摘すると一瞬狼狽したが、開き直ったかのように攻撃が激しくなった。くっそ、魔法も巻物も使う時間がない。確かに最近アイテムに頼りすぎていたなぁ。せっかくだからと俺は剣に集中した。エレナと仮面の冒険者は何やら会話しているだけだし、ハロルドもエミレーリオ仮面にぼこぼこにされているものの、セバスが止めないのだ、ならば命に別状はないだろう。今回の騒動も大体オチがわかってきたしな。
セバスの正体に気づくと同時に他の二人の正体もわかった。むしろなんでさっきまで気づかなかったか不思議なくらいだ。これが仮面の効果か。
「これでおしまいですな。多少は腕は上がったようですが、まだまだ上達できますよ」
「くっそ、まだまだか……また鍛錬付き合ってくれ……」
首に木剣を添えられた俺は素直に負けを認め降参とばかりに両手を挙げた。それなりには強くなったと思ったがまだまだセバスには追いつけないようだ。
俺はハロルドの方の様子を見ることにした。
「おやおや、どうしたんだい? 魔法が得意なんだろう、その程度かな?」
「風……うぐぁ」
ハロルドが魔法を使おうとすると同時に小石が彼の喉を襲い詠唱を中断させる。
「えげつねえな……あれってオーキス様なんだよな……なんであんなに本気なんだよ……」
「まあ、可愛い娘のためですからな。ハロルド様にはこれも試練と割り切っていただきましょう」
えげつない試練である。オーキス様はティアの事をどれだけ思っているのか……ハロルドの気持ちを試しているのだろう。塔に冒険者がいたときは驚いたが、正体さえわかれば今回の話に納得も行く。でもティアの婚約者候補になるって大変すぎない? 下手したら死ぬぞ。
「あはははは、この程度で守る? 私にすら届かない力で何を守るっていうんだい?」
「くっそ……それでもあきらめられるはずがないだろう!! 」
「力もない、権力もない。そんな君が何を言う? 一時の感情だけで分不相応な相手とくっつけばお互い不幸になるだけだよ」
「確かに今の僕には力も権力もないかもしれない……でもまだ僕には未来がある!! 僕は必ず彼女に釣り合う男になってみせる!!」
「口だけではなんとでもいえるね、だったら今その覚悟をみせたまえ!!」
「ぐあっ」
とどめとばかりにハロルドの額を石の塊が襲った。ハロルドの体はすでにボロボロだ。何度も攻撃を喰らったのか服は所々汚れているし、体も擦り傷や打ち身が痛々しい。そもそもあいつの得意な魔法が完封されているのだ。勝ち目ははたから見てもないだろう。
「お願いします、命だけは助けてください……」
ハロルドは土下座をして命乞いをした。ついにあきらめたかのようなハロルドの行動に対峙するエミレーリオ仮面は失望したかのように溜息をついた。でも甘い。あいつはこの程度では砕けない。
「なんていうわけにはいかないんだよ!! 喰らえ」
ハロルドの手の巻物から巨大な火の玉が生まれ冒険者を襲う。だがそれは地面がせり上がり土の壁となり防がれた。爆風と共に土の壁は砕けるが冒険者は無傷だ。しかし、冒険者も魔法を使ったため隙ができた。その隙をついてハロルドは魔法を詠唱した。少し大きな石が襲うが彼は詠唱をやめない。彼の装備している魔力を上げる指輪もそれに呼応するように光りはじめ、次第に彼の周囲を巨大な竜巻が囲む。
すげえけどここ塔の中だぞ。あほかよ。俺らも死ぬわ!! ハロルドが作った竜巻は塔の屋根すら巻き込みながらさらに勢力を増した。
俺たちを守るようにセバスとジェイス先生が俺達の前へと立ってくれた。
「油断したねぇ、命乞いをするのは君の方だ!! 下賤な冒険者よ。僕の愛を邪魔するやつは許さないからな」
え? なんかキャラ変わってない? 高笑いをしながら竜巻の中心でハロルドは勝利を叫ぶ。お前が下賤な冒険者っていったのオーキス様だけど大丈夫かな? 無茶苦茶恥ずかしいこといってるのはお前が好きな子の父親だけど大丈夫? 後悔しない?
「君の愛確かに受け取ったぁぁぁぁぁ」
竜巻に巻き込まれ仮面の冒険者は吹き飛ばされていった。大丈夫だよな……生きてるよな? これでオーキス様死んだら反逆罪で俺ら処刑されない?
「あー、心配だから一応様子見てくるわ。これティアのいる部屋の鍵な」
「青春ですね……勘違いしないでいただきたいのですが私の忠誠はヴァイス様にあります。オーキス様とは昔お世話になったのでお願いされると断れないんですよ」
ジェイス先生とセバスは俺に鍵を渡すとそのまま塔を飛び降りて行った。なんだったんだろうこの茶番。とりあえず高笑いを続けているハロルドに声をかけ塔に入ることにした。
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ちょっと展開どうするか悩んでいて更新遅れてしまいました。
次で二人の話は終わりの予定です。
また、気分転換にラブコメを書いてみたのでよかったら読んでくださると嬉しいです。
「365回フラれ続けた俺は誰かにフラグが立っているといわれても信じない」
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