かませ貴族の恋愛譚 2
作戦会議をした後、夜になるのを待ち、俺達はオーキス様の館に向かった。当たり前だが屋敷には警備の衛兵が油断なくあたりを見回していた。正面突破は無理だな。俺達はセバスからもらった見取り図を片手に裏へと回った。
「なんというか緊張しますね……悪いことしてるみたいで……」
「そうだねぇ……ティアだったら冒険譚みたい!! って嬉しそうに言うけど普通はそうだよね」
「まあ、貴族の屋敷に忍び込むなんて普通に生きてたらまず経験しないよな」
裏口へと回り込んでエレナが漏らしたつぶやきに俺たちは反応した。ティアがいれば勝手に行動するので、細かい事考えないでつっ込むことになるのだけれど、いないおかげでいまいちみんな行動力にかけている気がする。いや、これが普通なのだろうけど。
幸い裏口の警備は正面より薄いようで警備の衛兵一人しかいない。俺とハロルドは顔を向き合い頷いた。ここまで来たんだ。やるしかねえ!
「風よ」
ハロルドの風によっておきた物音を、何事かと様子を見に来た、衛兵の背後に回り睡眠効果のある薬草の液体に浸したハンカチを相手の顔に押し付ける。しばらく呻いていたが衛兵は気を失った。何にも悪い事していないのにすまないな……俺は心の中で謝った。
屋敷へと忍び込んだ俺たちはあたりを見回しながら忍び込んだ。昔三人で鬼ごっこなどやっていた事もあり、中の地形はある程度分かるのが幸いした。いつもティアが鬼になると一瞬で俺達は捕まってたな……あいつの身体能力おかしくない?
「ヴァイス気を付けてください。人がいます」
少し思い出に浸っていたがエレナの一言で俺は現実に戻る。使用人らしき女性二人が歩いていた。手には夜食用らしきサンドイッチを持っている。向かう先はティアのいるという塔か。
「ハロルド」
「わかっているさ、風よ!!」
ハロルドの魔法によって使用人たちの声が運ばれてきた。
『離れに隔離なんてティア様も可哀そうね』
『しかたないわよ、旦那様が婚約者を探すよって、いったら大暴れしたらしいもの。冷静になったらすぐお屋敷に戻してもらえるわよ』
『でもあのティア様が冷静になるかしら……』
心なしか使用人たちの顔に苦労の表情がみえた。あれ? ティアって一応表面上はお嬢様演じてるんじゃなかったっけ? 気のせいかな。
「塔にティアがいることは間違いがないな。とりあえずばれないようについていくか」
「そうだねぇ、それに暴れてるって事はティアは今回の話には納得していないってことだよね。仕方ないから助けてあげないとなぁ」
ティアが今回の婚約話に納得していないのが分かりハロルドが急に元気になった。俺は苦笑した。エレナも同じ気持ちかと思って目を合わせると彼女は氷のような目で俺たちを見ていた。え? なんで?
「あの……今の魔法ですが、普段私たちの話を盗み聞きとかしてないですよね……」
やっべ、この魔法は完成したもののリチャードに金をもらって、エリザベスの会話を聞いて、思ったよりデレてる彼女の気持ちを知ってしまい、とてつもない罪悪感に襲われたので、知り合いには使わないし、二人だけの秘密にしようと誓っていたのだ。これぶっちゃけ盗聴だしな。余談だがリチャードには道端のごみよりは好きって言ってたと報告したのだが、無茶苦茶喜んでいた、どんだけ自己評価低いんだ……。
「使うわけないじゃないか、ねえ、ヴァイスもなんとか言ってくれよ」
「俺もこんな事までできるとは知らなかったけど、ハロルドは悪用するような奴じゃないって信じてるよ」
「何を呼吸するかの様に嘘をついているんだ君は!! この魔法は僕と君で考えたんじゃないかぁぁぁ!!」
余計な事言うんじゃねえよ!! エレナが俺たちを……いや、よく見ると俺を殺すかのような目で見ている。てかなんか気温下がってきてない。この子雪女かな?
「と、とにかく早くいかないと使用人たちを見失ってしまう。急ぐぞ」
「ヴァイス……あとでちょっと聞きたいことがあります。いいですね」
誤魔化そうと思ったけど誤魔化せなかった……ここでよくないですという度胸はないのでおとなしく「はい」と答えるしかない俺だった。
使用人たちは屋敷の外れにある塔の中に入っていった。この塔はティアの先祖に人間嫌いの女の子がいてその子のために作られたらしい。その女の子は見目麗しかったため求婚が絶えなかったが、それに疲れて塔に引きこもったのだが、ある日冒険者が少女の父の依頼で遊びに来た。そして、その少女は自分に外の世界をみせた冒険者と結ばれたそうだ。そんな話をティアが昔に話していた気がする。「私もそんな風な恋がしたいな」とかいってたがハロルドが「君が塔にいたら、ゴブリンを捕まえて塔に放てばいいかな」とか言ってぼこぼこにされてたな……まあ、昔話はいい。これでティアがここにいるのはわかった。あとは当初の予定通りに動くだけである。
「じゃあ、いくぜ。二人とも手を離すなよ」
俺を真ん中に三人で手をつなぎながら巻物に封印されていた魔法を解き放った。エレナの手柔らかいなぁ。役得かなと思いつつ体を襲う浮遊感に備えた。巻物に封印されていたのは浮遊魔法である。空を飛んだ俺たちはそのまま塔の上の窓から侵入した。ゲームでもこうやって侵入したんだよな。ちなみにこの巻物は隠しショップにあったものだ。ゲームだとオーキス様の屋敷の宝箱にあるのだが、出発前に隠しショップをのぞいたら売っていたのでたまたま買ったのだ。おかげでだいぶ時間を省略できた。
「いやいや、塔にとらわれた貴族の令嬢を助ける。まるで冒険譚の主人公みたいだね、君たち」
無事侵入できて一息ついた時だった。俺たちは何者かに声をかけられた。全然気づかなかった。声の方をみると奇妙な仮面をかぶった三人組がいた。これはエミレーリオの仮面か!
「私たちはオーキス様に雇われた冒険者だよ。ティア様の護衛ってやつだね、ここを通りたければ私たちを倒す事だ。一回いってみたかったんだよねー、このセリフ」
冒険者を名乗る男が軽い口調で言った。声をかけられるまで気が付かなかったし、動きにも一切の隙が無い。おそらく格上だろう。こんな敵ゲームにいなかったぞ……エレナがなにやら「あれってオーキス様?」とかいってるがどうしたのだろう? 驚きでパニックになったのだろうか? 俺たちは戦闘態勢に入った。
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もう少しでブクマ300行きそうで嬉しいです。
悲恋の話を短編で書いてみたのでよかったらよんでくださると嬉しいです。
『だから僕は聖女を殺すことにした』
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