いなくなったティア
「他の転生者か、俺の時は全然いなかったからな……そいつがどう動くかわからんからな。情報は集めておく」
俺の話を聞いたジェイスさんは考え込むように唸っていた。俺のようなチートなしキャラの転生ならいいが相手はドラゴンである。どんな能力があるかわからないのにどう行動したいかがわからないのだ。こちらに害がないところで勝手なことをするのならいいのだが……
「まあ、悩んでいてもしょうがないだろうさ。ドラゴン対策の武器とかは集めといてやる。お前のほうもできるだけのことをしておけ。少なくともお前のゲームにはそいつはいなかったんだろう? ならばそいつも俺と同様にゲーム後の世界を生きているのだろう。ならば今現在ゲームの流れにのっているお前の土俵だ。お前の方が有利だよ」
「ありがとうございます。ちょっと色々まとめておきます」
ジェイスさんの言葉に俺はうなずいた。色々先輩に話を聞いてもらい少し落ち着いてきた。確かに俺の知っているゲームにはあのドラゴンはいなかったが、それは同時に俺の知っている今のゲーム知識を相手は持っていないということだろう。ならば先に使えそうなアイテムや強力な武器を回収すれば万が一敵対してもこちらが有利になるだろう。ジェイスさんの言葉もあくまで推測だが俺を元気づけてくれた。
「そういえばお前らティアの婚約者お披露目会にはいかないのか? 休暇届けをちゃんと出しとけよ」
「ええ、そうですね……え? ティアの婚約者……?」
この人は何をいっているんだろうか? 凶暴なオークの比喩かなとおもったがジェイスさんの顔はまじめだ。
「ん、ティアから聞いてないのか? オーキスから手紙がきたからてっきり知ってるもんだと思ったわ。てっきりハロルドと付き合っているもんだと思ってたんだけど、まあ貴族だからしかたないよな」
「すいません、ちょっと用事を思い出したんで部屋に戻ります」
俺はジェイスさんにお礼を言って部屋に戻ることにした。背後で「青春だなぁ」という声が聞こえた気がしたが今はそれどころではない。ハロルドは知っているんだろうか? もし、知っていたらあいつは今どんな気持ちなのだろう。それを思うと胸が苦しくなる。
「自分の部屋だからってノックくらいしたほうがいいんじゃないかなぁ」
自室をノックなしに扉を開くとハロルドがあわてて本を隠そうとした。本のタイトルは『告白するタイミング』と書いてあった。うわ、これ絶対知らないじゃん。これならエロ本読んでてくれたほうがよかった。
はたからみたらティアとハロルドいい感じだったもんな。なら親友である俺がこいつに現実を突きつけるしかないだろう。あとはどうするかだ。こいつが望むなら俺は出来る限りのことをしてやるつもりだ。俺は意を決しハロルドに声をかけた。
「ティアに婚約者ができるらしい……」
「え?それって凶暴なオークの比喩かなにかかい?」
俺とまったく同じ反応をしやがった。まあ、さっきまで一緒に冒険をしてたもんな。信じろっていうのが難しいだろう。だが事実だ。
「俺の顔が冗談をいってる顔に見えるか?」
「相変わらずゾンビみたいに死んだ目をしてるとは思うけど……それは本当なのかい」
「さっきジェイスさんに聞いたんだよ、ティアも今晩に帰ったって聞いたぞ」
「嘘だろ……」
ハロルドが呆然とした顔でベットに倒れこんだ。その拍子に隠していた本が落ちた。それの本にはいくつも付箋がつけられていた。
俺にとってティアとハロルドは大事な、本当に大事な友達だ。三人で鍛錬をして以来ほとんど一緒の時間を過ごしていた。だから二人が徐々に惹かれあっていたのもうすうす感じてはいたしリア充死ねとは思っていたが本当に死んでほしいわけではない。
貴族には政略結婚というものがあるというのも知っている。だがオーキス様は娘の幸せを第一にするっていってたじゃねえかよ。失望したぜ……俺は友達のために好き勝手やらせてもらう。
「何寝てんだよ、とりあえず本当にティアが出ていったか確認するぞ。って女子寮の間取りとか言ったことないからわからねぇ……」
「いや、僕ティアの部屋わかるけど」
「え? なんで?」
「いやその……君とエレナが孤児院言ってるときとかティアの部屋で話とかしてたんだ」
ハロルドが恥ずかしそうに顔をうつむかせた。マジかよ、俺が孤児院のガキどもと遊んでいる間にこいつは恋愛イベントをこなしてたのかよ!! もしかしてもう童貞じゃないのか……
いや、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「場所がわかるならいいな。いくぞ」
女子寮は基本的に男子禁制である。とはいってもそれは名目上であり上級生とかは恋人を連れ込んでいる人もいるらしい。なので警備はそこまで厳しくはない。
色々問題じゃないかと思うがこの学園生活で婚約者を見つける貴族もいるからありなんだろう。特に俺やハロルドのような地方貴族からしたらありがたい話だしな。俺はまだ恋人いないけどな!!
「風よ」
ハロルドの風魔法によっておきた物音の方に見張りが見に行った隙に俺達は女子寮へと侵入した。気のせいか甘い匂いがする気がした。これが女子寮。俺からしたら財宝が眠っているダンジョンより興味深いが今はそんなことを言っている場合ではない。
「なんか女子寮に侵入ってテンションあがるよな」
「そうだねぇ……」
ハロルドに声をかけるが元気のない返事が返ってくるだけだった。この世の終わりのような顔をしているハロルドをみて余計にほうっておけないと俺は思った。
ハロルドを先頭に俺達はティアの部屋の前についた。夜ということもあり誰にもみつかなくてよかった。
俺もあせっていたのだろう、ノックもせずに扉を開けてしまった。鍵がかかっていればよかったのだがすんなりとドアは開いてしまった。
「ティアですか? え……なんで二人が……きゃあああ」
扉の中にいたのは着替え途中なのか上半身が下着姿のエレナだった。かわいらしいレースの黒い下着だけが彼女を守っている。控えめだがすらっとした体だなって言うのが感想だった。
「お前はティアがいるんだからみてんじゃねーよ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
俺はとっさにハロルドに目潰しをかます。なぜかエレナの下着姿をみられるのが嫌だったのだ。
「ふー、危なかった……」
「危ないのはあなたもです!! 氷よ!!」
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 目がぁぁぁ目がぁぁぁぁl!!」
エレナの魔法が俺の目を襲う。むっちゃつめたいぃぃぃぃ。これとっさに目をつぶってなかったら失明してたんじゃ……
エレナの部屋で俺とハロルドは正座をさせられていた。異世界だけど正座ってあるんだな。俺のような転生者が持ち込んだ文化なのだろうか。
「で……何か言いたいことはありますか?」
「黒はまだ早いかなって思うぞ」
「死ね、氷よ!!」
「うおおおおおお、体が凍てつくぅぅぅぅ」
とっさに思った事が出てしまった。エレナが敬語じゃないってことは本気で怒っているんだな……土下座したら許してくれるかなって思ったが体が凍っていて動かない。
エレナをみると俺をにらんだ後溜息をついて魔法を解いてくれた。「最近ちょっといいなと思ったのにこれですか……」とか言っている。好感度が一気に下がった気がする。
「ごめんよ、エレナ。でも僕たちはティアを探しているんだ。知らないかい?」
「あなたにもいってないんですね……孤児院から帰ったらこんな置手紙があったんです。なにやら急に実家に帰らなきゃいけなくなったみたいで……」
エレナから手渡された手紙を読むと実家からの呼び出しで急に戻らなければいけなくなったとあった。俺はエレナにもジェイスさんから聞いた話を話す。
「婚約者ですか……まあ、貴族なんでよくある話といえばそれまでですが、話を聞いている限りティアには婚約者候補はいなかったですよね……なんでいきなり……」
「さあな。オーキス様にも何か事情があるのかもしれない。でも俺はできればハロルドと結ばれてほしい。わがままってのはわかっているけどさ」
「まてまて、なんで勝手に話を進めているのさ!! 政略結婚なんてよくある話じゃないか。僕らがどうにかなんてできないだろう」
「それでも俺はお前に悔いのある人生を送ってほしくないんだよ!! お前はどうしたいんだ。俺は…俺たちはお前の力になるぜ」
俺とエレナはうなずきあってハロルドをみつめた。彼は一瞬たじろいだが口を開く。少しの沈黙の後ハロルドは口を開いた。
「僕は……」
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ハロルドとティアの恋物語です。よろしくお願いします。
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