ドラゴンとの邂逅
アレックスさんによるワイバーンの巣の調査が始まる前日俺たちはワイバーンの巣に潜っていた。メンバーは俺、ハロルド、ティア、エレナ、リチャードだ。この前のメンバーとの違いはエリザベスとエレナが変わったぐらいだな。
前回の経験からして油断しなければ負けることはないだろう。それに今回はショップのおっさんから巻物四枚、と龍殺しの矢を買ってあるし、アレックスさんからもらった魔剣もある。
「思ったより静かね……なんなのかしら?」
「僕らに恐れをなしたとかだったらいいんだけどねぇ……」
ティアとハロルドのいうようにワイバーンの数はこの前よりも減っている気がする。
「ふむ、色々調べていたのだがこういうことは昔も一度だけあったそうだ。ドラゴンどもが殺し合い最も強いドラゴンが巣を旅立つらしい」
「なんだそりゃ……蟲毒みたいなものかな?」
「蟲毒……? なんだいそれ聞いたことないなぁ」
「あー、昔本で読んだんだよ」
どうやら蟲毒はこちらではあまりメジャーではないようなので適当にごまかした。しかし物騒な話である。てか今ワイバーンの巣危険じゃないか?
「あの……今の話だと今この巣にはとても強いドラゴンがいるんじゃないでしょうか……」
「最高じゃない!! ワイバーンロードより強いのかしら」
「心配はあるまい、私たちにはこの魔剣グラムがある」
能天気に嬉しそうな声をあげる二人を無視して俺とハロルド、エレナは顔を見合わせて溜息をついた。てかそんな情報あるならもっと早くいえよ……てかゲームでのボスはワイバーンロードだったが俺たちがゲームとは違う行動をしたせいで色々変化が起きてきてしまっているのか?
俺たちは2,3回ほどワイバーンと遭遇しただけで試練の間まで来てしまった。今回はワイバーンロードもいないようだ。
「奥にすすんでみるか」
「ああ、だがこの先は我が家でも滅多に探索はしないからな。気を引き締めるぞ」
俺達は警戒しながら先へとすすむ。洞窟にはワイバーンの死体と血の匂いてあふれていた。さすがに異常な光景に皆口を閉じる。
「リチャード!!」
「わかっている。魔剣グラムはいつでも発動可能だ」
何かの気配を感じた俺達は戦闘態勢に入りながら中をのぞく。そこにいたのはワイバーンロードをまるでイスのようにして座る黒いドラゴンだった。合宿であったドラゴンよりは小さいから中型ドラゴンだろうか。不意をつけばいけるか。俺達はうなずきあってフォーメーションを……
『まてまて、俺はお前らと戦う気はない。それにこいつを弱らせてくれたのはお前らだろう? 感謝しているんだぜ』
なんだこの脳に響く感じは、魔法かなんかなのか? しゃべったのは俺たちではないしこんなことができるのは人間業ではない。これはまさかこのドラゴンの仕業か。目が合うとそいつは楽しそうに笑った。なんだろう、ワイバーンロードへの座り方といい笑い方といいドラゴンっぽくないというよりまるで人間のようだと思ってしまった。
「人の言葉を理解し意思疎通できるドラゴンだと……本当にいたのか?」
リチャードも信じられないというようにうめいた。ドラゴンはリチャードの抱えた魔剣をみると懐かしそうに笑った。
『魔剣グラムか、なつかしいなぁ!! それは俺たちドラゴンには毒が強すぎる。悪いがそんなチート武器を持っているやつらと戦う余裕はないんだよ』
そういうとドラゴンは翼をはためかせ、中へ浮いた。てかこいつ今チートとかいったよな? それって確かゲーム用語のはず……こちらにもそんな言葉があったのか? 困惑した俺とドラゴンの目があった。
『ああ、お前がイレギュラーか、悪いな。俺のせいでゲームの様に進まなくてさぁ。まあ、次会った時はもっと構ってやるよ』
そういってドラゴンは俺達の上を飛んで洞窟の入り口へと向かっていた、俺たちが反応できなかったのはいくつか理由があった。一つはドラゴン会話をしてきたこと、俺達はまだ意思疎通できる魔物と戦ったことがない。二つ目は一切殺気が感じられなかったこと。現にあいつは好き勝手しゃべってそのまま飛び去っていった。そして俺が動けなかった一番の理由は……
「なんだったのかしら、あのドラゴン……」
「さあねぇ……しゃべるドラゴンなんてそれこそ英雄譚の中だけだと思ってたよ……」
「やつはグラムのことを知っていた? いったいなんなのだ……あの外見まさかファフニール? いや、だがそんなはずは……」
あいつの言葉が俺を響く。あいつは言っていた、チート、ゲームこの世界にない言葉だ。おそらくあいつは俺やジェイスさんと同じ転生者かなのか……
「ヴァイス大丈夫ですか? もうワイバーンもいないようですし行きますよ。あのドラゴンのことはアレックスさんに相談しましょう」
俺はかろうじでエレナに返事を返せた。頭のなかがごちゃごちゃしてきた。俺達はとりあえずワイバーンの巣を後にした。
やつは俺と同じ転生者なのだろう。少し話したもののやつが何を目的で行動しているかわからない。もしもやつが敵対してきたら俺には何ができるだろう。たとえばハロルドならば魔法で戦うことが出来るだろう。たとえばティアなら接近戦で戦うことができるだろう、たとえばエレナなら魔法や接近戦でたたかうことができるだろう。たとえばリチャードなら魔剣で戦うことができるだろう。ゲームに登場しない相手に同じ転生者相手に俺は何ができるのだろうか……俺は足を引っ張るだけなのだろうか?
「ヴァイス聞いてますか?」
「ああ、すまない、なんの話だっけ?」
まずい考え事に集中していてなんにも聞いてなかった……俺の言葉にエレナが不機嫌そうに唇を尖らせた。ああ、可愛いな。俺達はワイバーンの巣から帰り孤児院を訪れていたのだった。
「リチャードから連絡があったんですけど結局ワイバーンの巣にはもうワイバーンがいなくてウェルダー商会は大赤字だったらしいですよ」
「そうか……それはよかった」
「あのドラゴンは結局なんだったんでしょうね? しゃべるドラゴンに関してリチャードの家で文献を漁っているそうですよ」
おそらくリチャードの努力は無駄に終わるのではないかと思う。やつは俺と同じ転生者だ、本来はいないはずの存在。そしてその存在は今後の未来に大きな影響を与えるだろう。俺はそれに対して何かできるのだろうか?
「ヴァイス……悩んでいるんなら頼ってくれていいんですよ」
「エレナ……?」
甘い香りと柔らかい感触が俺の顔を支配した。え、なにおきてんの? エレナが俺を抱きしめたのか。いきなりの事で俺は頭がパニックになる。え、てか顔に当たるこのやわらかいの胸だよね、え、なにこれやばい……天国か
「子供のころ悩んだら母にこうしてもらっていると気持ちが落ち着いたんです。少しは効果ありましたか?」
名残惜しいが、顔を上げるとほほ笑んでいる彼女の顔が見え俺もつられて笑みがこぼれた。
「あなたが何に悩んでいるか私にはわかりません、でももし気が向いたら話してくれると嬉しいです。あんまりわからないかもしれませんが感謝しているんですよ、薬草採集の時や今回の件もあなたのおかげでうまくいったんですから……だから何かあったら私はあなたの味方になるって決めてるんです」
どうやら思った以上に好感度を稼げていたらしい。だが本当の事をいって彼女は信じてくれるだろうか? 俺は確信を持てないでいた。だってハロルドがいきなり『君は僕のやっていたゲームの住人だよ』自分がゲームの世界の住人だっていったらこいつ頭おかしーんじゃねえかなって思う。
「なあ、もしこの世界が英雄譚の中の世界で俺はその外からきたっていったらどう思う?」
「気が狂ったのかと思いますね」
ですよねー、俺もいきなり言われたらそう思うわ。冗談だよって言おうとエレナの顔をみると真剣な顔をしてこちらを見つめていた。
「でも……ヴァイスが本気で言っているなら私はもっと詳しく話を聞こうと思います」
「エレナ……」
そういう彼女の目は真剣そのものだった。話しても信じてもらえるんじゃないか、そう思えるくらいには……俺はエレナと見つめあった。
「ねえねえ、キスとかしないのー?」
「馬鹿!! いまいい空気なんだから邪魔しちゃだめでしょ」
声の方をみるとリオを含めた孤児院の子供たちが物陰からこちらをみていた。え、まじかよ、全部みられてるのか……
「あのどこからみてました……?」
「なんにもみてないわよ、二人が抱き合ってるとこなんてみてないわ」
ほとんどすべてじゃねえか!! エレナをみると頬を真っ赤にしている。あれ? なんか冷たい、彼女の体から氷が湧き出てくる。勝手に魔法発動してんのかよ、こわ!!
ちょっとぎこちなくなった俺たちはそのまま帰宅した。なんかまじめな話をする空気でもなくなったしな。でもエレナには話してもいいかもしれない。とりあえずジェイスさんにも相談してみよう。一人で考えても仕方ない。俺はエレナの胸の感触を思い出しながら誓うのであった。
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思ったよりシリアスになってしましました……次回からハロルドとティアの話になります。




