3.未来に抗うために
剣と剣が交わる。
俺の猛攻をセバスは簡単に受け流す。
「隙ありです!!」
一瞬だった。体力がつき気を抜けた一瞬をつかれ俺の手から剣が飛んでいった。
「ふふ、使用人ごときにやられるなんてヴァイスもまだまだねぇ、顔だけじゃなくて体もアンデットなみなのかな?」
「うっせー、ランニングしただけでスライムみたいにぶっ倒れてるお前にいわれたくねぇ」
俺は地面に倒れて息を整えているハロルドに怒鳴り返す。この人体力なさすぎじゃない?
「いやいや、お二人とも稽古を始めたときに比べてだいぶかわりましたぞ」
セバスがフォローを入れる。
そう俺は…… いや俺たちは稽古をつけてもらっているのだ。記憶を取り戻したあの日から俺は即座に行動をした。まずは屋敷でもっとも強い人間を探し、剣の稽古をつけてもらうことにしたのだ。
それが俺の専属使用人のセバスだったことは驚いたがむしろ話は早い。それまでも一応武術は習っていたがより本格的に教えてくれとお願いした。最初こそ遠慮していたセバスだったが俺が真剣だということがわかったのか稽古をつけてくれたのである。ちなみにハロルドもいっしょである。
「お世辞はいいよ、ぶっちゃけ俺たちはどんな感じかな?」
「そうですな…… まだ体力づくりの段階ですからなんともいえませんが、確実に強くはなってますよ」
「うう、筋肉痛に悩まされるよぉ……」
そう、セバスの言うとおり、ここ半年がんばったがまだ基礎体力つくりの段階である。ちなみに魔術の特訓もしているが少し火力があがっただけである。特に不思議な力に目覚めたりはしなかった。チート能力くれよ…… とはいえ確かに体力や、筋肉はついてきた。
ちなみにハロルドは剣術と体力はともかく魔術の才能は俺よりあるようで細かい調整までできるようになっていた。本人いわく目視できる範囲ならどの女の子のスカートもめくれるらしい。ちょっとうらやましい。
「今日はパーティーなのでしょう? そろそろ着替えないと間に合いませんよ?」
「ああ。そうだな、今日もありがとうセバス」
「ふっ、ようやく僕の得意分野といったところだね。今日のパーティーそこそこ規模が大きいからね、顔を売るにはちょうどいいさ」
結局ハロルドとは何度も話し合い、鍛錬とパーティーでの人脈作りの両方を同時進行することにしたのだ。鍛錬の内容は俺の担当、パーティーの担当はハロルドである。俺の親父が王都に出向中なので正直人脈系は弱いので適材適所ってやつだ。
稽古をつけてくれたセバスに礼をいって着替えた後パーティー会場へとむかう。ハロルドもなんだかんだセバスに礼をいっていたのでこの半年間で多少は関係が良くなったようだ。
「今日のパーティーは隣の領土を治めるオーキス様の娘さんの誕生日パーティーだよ、オーキス様の家系は代々強力な騎士を輩出しているからね。王の覚えも悪くない。僕の父も出席しているから一緒にオーキス様に挨拶しにいこう」
「あー、そういや、あそこの娘さんが俺らと同じ年なんだっけ? ってことは学園で一緒になる可能性もあるよな……」
正装に着替え終わり、馬車に乗り込んだ俺たちは今日の作戦会議を始める。しかしパーティーというのはどうも苦手だ、元の世界ではこんな機会はなかったし、お世辞ばかりの会話はどうも疲れる。
「だめだよー、ヴァイス。 今日はいつものような死んだ目をしないでさわやかに行こう。 娘さんのティアお嬢様だね。 顔を売っておけば学園生活でもよいことがあるかもしれないしね。ティアお嬢様の情報をまとめといたから目を通しておいて」
ティア……ゲームにもいたキャラだ。確か気が強くて男子顔負けの剣術の使い手である。彼女と戦うイベントがあり負けると成績がさがるので何回もやりなおした記憶がある。
「なになに、植物を愛し、おしとやかな女の子? え? これだれだ?」
「だからティア様だよ。今それ以外の女の子の情報を渡すわけないだろう?」
ええーゲームと全然キャラ違うじゃないか…… もしかして俺の知っているゲームとちがうのか?
一気に不安になってきた