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エリザベスとリチャード

 私が彼と初めて会ったのは8歳の時だった。初めての印象は頼りない子だなと思った。



「ほら、エリザベス挨拶をしなさい。この子がお前の将来の夫になるんだよ」

「リチャードさんはじめまして、エリザベスですわ」

「はい……よろしくお願いします」



 そういって私は挨拶をしたけれど気弱そうな彼はおどおどと小さい声で返事をするだけだった。それをみて周囲の大人も苦笑していたのが記憶に残っていた。

 これは政略結婚というやつなのだろう。私の父は王都で大臣をやっておりなかなか力を持った貴族である。ただ長男は生まれなかったため有力な貴族の次男を探していたのだ。龍殺しの騎士の家系ならばそれもつりあうというわけだ。


 私とて貴族として生まれたのだ恋愛結婚などはできる思っていない。私の両親はそれでも仲良くなれるように、せめて少しでもお互いを知る事ができるようにと頻繁に会う機会を作ってくれた。

 そのおかげもあってか私と彼は仲良くなれたと思う。彼は確かに気弱なところもあるけれど、その分優しい人だった。彼は確かに泣き虫だったが、自分の弱さを知っている人だった。



「ねえ、リチャードあなたは将来どうするのかしら?」

「そうだなぁ、僕は兄上や弟と違って戦う才能は無いみたいだからね、文官になるよ、そうすればエリザベスのお父さんの手助けもしやすくなるだろうしね」



そういってほほ笑む彼の事に私は徐々に惹かれていったのだった。でも人生は思った通りにはいかないようだ。



転機は十歳の時だった。私とリチャードが乗っている馬車が魔物に襲われたのだ。そんなに強い魔物ではなかったが、護衛達をかいくぐり一匹のゴブリンが馬車に乗り込んできた。その姿はなんとも醜悪で、そして恐ろしい目で私たちをみていた。私とリチャードはそれをみてただ泣きながら抱き合うことしかできなかった。幸いにも駆け付けた護衛がゴブリンを退治してくれたから何もなかったもののその出来事はリチャードに大きな影響を与えたようだ。


 泣きながら「僕がもっと強ければエリザベスを怖がらせないで済んだのに……今度はエリザベスを守ってみせるね」と悔しそうに言う彼に何かもっと気の利いた言葉をかけてあげれば結果は変わったのかもしれない。当時の私は「泣き虫リチャードは弱いんだから無理しなくていいんだよ」となんとも残酷なセリフを言ってしまったものだ。



 それから彼は変わった。いや変わろうと努力をしたのだろう。一人称は僕から私へ、本を読む時間は武術と魔法の鍛錬へ、口調は柔らかいものから尊大なものへ、おそらく彼の先祖のシグルトの真似をしたのだろう。

 そんな彼だったが私から見ても戦う才能は無かった。現に彼の兄はもちろん一つ下の弟のほうが強かった。幸い頭はいいので戦うことよりも勉強に力を入れろといっても彼は「今度こそエリザベスを守るのだ」と言ってきかなかった。

 彼はいつか私を守るために無謀なことをしてしまうのではないか? そんな不安な気持ちが私の心を支配してしまった。

 魔法学校でパーティーを組んだ時も彼は前衛で戦いたがった。彼は頭がいいのでリーダーとしてパーティーの指示をしてほしいといったが聞いてもらえなかった。

 ただヴァイスという同級生とつるむようになり、少し変わった気がする。以前と違い彼は前衛としてただつっ込むのではなく全体をみるようになってくれた。あと、彼が密かに戦術の本を図書館で借りているのを知った。私も定期的にパーティーのミーティングを開くようにして彼のがんばりを役立てようと思った。



 ヴァイスは不思議な少年だった。例えば彼より魔法が得意な人間はたくさんいる、例えば彼より剣がうまい人間はたくさんいる。なのになぜか彼は勝つ。そして何より彼の周りの人間は幸せそうなのだ。現にとっつきにくかったエレナも楽しそうに彼のパーティーで楽しそうにしている。何よりリチャードも彼と話してから変わった。彼は人の気持ちに敏感なのか、悩みを解決する能力に長けているようだ。私はひそかに感謝した。だがそれを後悔することになる。

 


大型ドラゴンとの遭遇。こんなもの予想できるはずがない。私たちはなすすべもなく全滅するのだろうと死を覚悟した。しかしリチャード達は違った。彼らは私を即座に避難させ大型ドラゴンと戦い生き延びたのだ。まるでその存在を事前に察知していたかのようにである。

 これによりリチャードの評価は変わった。変わってしまった。本来は嬉しいことだし私も褒めるべきなのだろうけど、彼がどんどん遠くへ行ってしまうのではないかと、そして彼は調子にのって戦場へ行きいつか死んでしまうのではないかと不安でたまらないのであった。

 そんな時に彼が実家で試練を受けるという話を聞いた。今までは実力不足ということで受けることが認められなかったのだが、大型ドラゴンの討伐が理由で認められたようだ。私はいてもたってもいられず試練の間に向かった。

何とか合流した私はその場にヴァイスがいるのに気づいた。私はある疑念を抱く。ヴァイスがリチャードをそそのかしたのではないか? そして学校でも変な噂が流れていた。ヴァイスは人の弱みを集めそれを解決して仲間を増やしていると……普段だったら無視していたくだらない噂だが私もどうかしていたのだろう……リチャードを利用してヴァイスは成り上がろうとしているのではないか? そう思ってしまったのだ。


 だから私は彼にくぎを刺した。


「ヴァイス……お願いなのだけれど今回の依頼失敗してもらえないかしら」



 ヴァイスは怪訝な顔で私をみた。その顔をみて私は自分の考えが間違っていたのではないかと思った。ヴァイスはリチャードを利用し出世しようとしているのではなかったのか? 私の勘違いだったのだろうか?


 道中私はリチャードがいかに頑張っていたかを聞いてしまった。私は彼の事を勝手に知ったような気になっていたようだ。そしてヴァイス達は本当に善意で彼を助けようとしているのではないか?

 不安を胸中に抱いている私を更なる驚愕が襲った。ワイバーンロード……中型ドラゴンだ。どうすると聞く間もなく雄たけびを喰らい私はパニック状態になってしまった。


 私の目の前に火の玉がせまってくる。ああ……私はここで死ぬ……もっとリチャードと色々話し合っておけばよかったなぁ。


「ふははは、今度は守るといったろう、エリザベス」

「リチャード!?」


 死を覚悟した私の前にリチャードが立ちはだかった。この男はなんて愚かなんだろう、私のことなんて放っておけばよいのに……


「風よ!!」


 リチャードが巻物を取り出したかと思うとその中から強力な竜巻が現れ火の玉をかき消した。その姿はまるで英雄のようだった。


「お前ハラハラさせんなよ!! 死ぬかとおもっただろ」

「ふ、英雄にピンチはつきものなのだ!! エリザベス大丈夫か?」

「ええ、迷惑をかけてしまいましたわ……もう大丈夫ですわ」


 私はワイバーンロードをにらみつける。これからはもっとリチャードと話し合わなければいけない。だがその前にやることがある。胸にはまだ恐怖があるがたたかえないことはないだろう。


「ふ、大型ドラゴンを倒した私たちがいまさらワイバーンロードごときで遅れをとると思ったか!! ヴァイスあれを使え、他のものは目をそらせ」

「ほらよ!!」


 ヴァイスが宙を浮かぶワイバーンロードになにやら球体を投げた、私たちは指示通り目をそらす。まばゆい光が洞窟を支配した。


「グギィィィィ」


 閃光に目をやられたワイバーンロードが暴れ洞窟内に体をぶつけた。小さな地響きこそしたものの洞窟が崩れはしなかったようだ。


「みんな魔法を!!」

「風よ」


 私とハロルド、そしてヴァイスの巻物から風の刃が発生し、ワイバーンロードを切り刻む。かなりの威力なはずだが仕留めきれなかったのか。改めてドラゴンの生命力にすさまじいものを感じた。

 閃光でやられた目が治ったのか、直感なのかワイバーンロードは洞窟の奥へと逃げ出してしまった。


「逃げちゃった。追って狩りましょう!!」

「いや、今回はあくまで試練の達成だ。追わなくていい」

「そうだねぇ、今ここの巣はおかしい状態みたいだし、依頼達成だけでいいんじゃないかなぁ」

「うう……レア素材……」

「今度もっと準備してから行こうぜ、リチャードの試練をクリアするのが今回の目的だしな」


 一人でもワイバーンロードを追いかけ奥へ行きそうなティアをみんなで止める。この子一応貴族よね……なんでこんな好戦的なのかしら……


「ティティリーン!! リチャードは試練の石板を手に入れた!!

「なんだよ、それ……」

「ふははは、なんかかっこいいと思ってな。エリザベスどうだ私の勇姿は!!」


 石板をはしゃぎながら削ったリチャードをみて、私は思わず笑ってしまった。


「まあ、少しくらいは認めてあげますわ」


 こんな時でも素直になれない自分が少し憎い。でも少しずつ素直になってみよう、そしてリチャードの話を聞いてみよう。私は胸に誓うのだった。

 

 そして目的を達した私たちはワイバーンの巣を後にした。




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次からヴァイス視点に戻ります。女性の一人称は難しいですね。


あとコメディものを短編で書いたのでお暇だったら読んでくださると嬉しいです。

『俺が勇者のパーティーから追放した遊び人が賢者になって復讐しにきちゃった』


https://ncode.syosetu.com/n9612fq/




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