ワイバーンの巣
応接間にいたのはリチャードともう一人の青年だ。リチャード同様の金髪だが凛々しい顔にがっちりとした体つきをしている。男性はリチャードのほうをみて溜息をついた。
「落ち着きなさい、リチャード。彼らは君の友人としてではなく冒険者として来ているんだ。依頼主としての対応をなさい」
「はい、失礼しました。兄上」
素直に謝るリチャード。なるほど兄だったのか、そういえば騎士になった兄がいるとかいってたな。関係は悪くないのだろう。怒られたわりにはあまり嫌そうな顔をしていないし、兄の方も苦笑しているだけだ。慣れっこなのかもな。
「自己紹介が遅れたね。私の名前はアレックスだ、リチャードの兄で騎士としてこの街で働いている。いつも弟がお世話になっている。彼は学校ではどんな感じかな? いつも迷惑をかけていると思うが見捨てないでやってほしい」
「はっはっは、兄上は愉快な事をいいますね、むしろ私がこいつらの面倒をみているのですよ」
なんだとこいつ!! 文句をいってやろうかとも思ったが家族の前でなんか言うのはさすがにかわいそうだよなと思いぐっとこらえた。まあ、実際大型ドラゴンとの戦いのときに助かったのは事実だしな。
「と言っているがどうだろうか? 忌憚のない意見で頼む」
「いつも大口叩いてますね。寂しいのかいつもしょっちゅう俺の部屋に来ます」
「あんまり強くないわね、あといつもエリザベスをデートに誘ってフラれてます」
「あれですね……そのチェスが強いですねぇ」
「貴様らぁぁぁ!! もっとましな言い方があるだろう!! それより本題だ、本題!!」
俺たちの言葉で傷ついたのか、強引に話題を変えてきた。申し訳ない程度にハロルドがフォローしていたが効果は薄かったようだ。だって忌憚のない意見っていわれたから……
「我が家では代々騎士を目指すものは魔剣グラムを持ちワイバーンの巣への奥へ行き武勇を示すという試練があってな。それの護衛を頼みたいのだ。」
リチャードが今回の依頼内容を説明しはじめる。ワイバーンの巣は彼の家のものらしく試練にのみ使われるそうだ。奥にある先祖の騎士の像に立派な騎士になる誓いをして石板を持って帰るのが試練らしい。なにやら先祖のドラゴン殺しのようにドラゴンすら倒せる騎士になれるようにという願掛けらしい。
ワイバーンの数も少ないし、わざわざ倒す必要はなく、奥の石板持って帰りさえすれば極端な話逃げまくってもいいらしい。まあ、それで立派な騎士といえるかどうかはわからないが……
「そこまで難易度は高くないようですが、いつも護衛に冒険者を雇っているのですか? このくらいなら屋敷の護衛達にお願いしてもいいような気がするのですが……」
「実はね、父上はリチャードが騎士になるのを反対していてね……屋敷の護衛を使うわけにはいかないんだよ」
俺の言葉にアレックスさんが言いよどむ。なんかきな臭くなってきたな。兄弟二人とも騎士になると後継者争いが大変になるとかだろうか? 二人とも仲良さそうだし協力して家を発展していきそうなものだけどな。
「反対ですか……それは一体なぜ……?」
「うーん、それはだね……」
「兄上、私から説明しますよ。貴様らも知っている通り私はあまり強くないだろう。だから父は私が騎士になるのを反対しているのだ。だが、今回大型ドラゴンを倒し、魔剣グラムも使って見せた。だから認めてほしいといったのだがな……まだ反対らしい。条件として自分の力だけでクリアしてみろと言われたので、素材を売った金で貴様らを雇うことにしたのだ」
言いづらそうにしているアレックスさんの言葉をリチャードが引き継いだ。確かにリチャードは俺と同じく凡才だ。騎士として成功しないだろうから反対されているのか……まあ、騎士となったら戦場に出るし一歩間違えたら死ぬしな。弱ければその分可能性も上がるのだ。親としてのその気持ちはわからなくもない。
どうしよう、リチャードの人生がかかってるじゃん。責任重大である。ちなみにゲームではもう少し幼い少年が依頼主で大型ドラゴンを倒した人と試練受けたいという可愛い理由だったのだ。くっそ全然違う展開になってきた。これがルートを外れるということなのか? ゲームと違うことをしてきたせいか徐々に未来が変化してきた。
「確かにリチャードのお父さんの言い分もわかるなぁ……」
「そうね……でもリチャードは騎士になりたいのよね……」
俺たちは顔を見合わせ話し合う。正直リチャードの気持ちも親父さんの気持ちも両方わかるんだよな。この依頼俺たちが断ったらあきらめてくれるのかな。
「頼む、力を貸してほしい。私は騎士になりたいのだ。私を出涸らしと馬鹿にした連中を見返させてくれ」
迷っている俺たちにリチャードが頭を下げた。無駄にプライドが高いこいつが頭を下げたのだ、よほどの決意があるのだろう。
以前こいつは優れた兄にあこがれていると言っていた。そして同時に劣等感を感じているとも、おそらく家の人たちや周りの貴族たちに何か色々言われてたりもするのだろう。異世界転生した俺にはこいつがどれほどつらかったかは完璧にはわからない、でもティアやハロルドという才能の塊と共に行動しているのだ。少しは理解できる。
「でもお前剣も魔法も俺と同じくらいだろ、騎士になってもすぐ死ぬかもしれないぜ」
「そうだな……だが貴様の様に知識とアイテムを使って戦う方法もある。戦い方は人それぞれなのだろう? 私は私のやり方で優れた騎士になってみせる」
俺の眼をまっすぐみながら答えるリチャードに俺はうなずいた。これが何の考えもなく騎士になりたいというのなら俺は断ろうかと思っていた。でもこいつはこいつなりに色々考えているのだ。ならば手助けをしてやりたいと思う。
ティアやハロルドも同じ気持ちのようだ。俺たちは顔をあわせうなずいた。
「この依頼受けます」
「フハハハ、持つべきものは友だな。貴様らならばそう言ってくれるとおもったぞ。ありがとう」
リチャードはいつもの偉そうな笑うが、本当に嬉しそうな笑顔で喜んだのが印象的だった。
「弟を頼む」とアレックスさんに託され俺たちは街から馬車でワイバーンの巣に向かった。そんなに離れたところではないので日帰りで帰れるの距離だ。街の近くにワイバーンの巣ってちょっと物騒だよな……
移動中に巣での陣形やそれぞれの持ち物の確認をした。今回俺がショップで買ったのは魔法が封じられている巻物四枚と閃光玉が二つだ。巻物は前回同様強力な魔法が封印されている、閃光玉はそのまま光が封じられた玉だ。主に目つぶしに使う。
俺たちはワイバーンの巣に到着し、リチャードが巣の管理をしている人に声をかける。リチャードの家の使用人らしい。
「坊ちゃん、今日は……というかしばらくはやめた方がいいかもしれません、何やらワイバーンの巣が騒がしいのです」
「なんだと……こういうことは珍しいのか……?」
「いえ……滅多にあることではありません、繁殖期ではないですし、これだけワイバーンが騒いでるということは、どこかでこの地にいたドラゴンが死んだのかもしれませんね……巣の中で今ワイバーンたちが次のリーダーを決めているのかもしれません」
リチャードの問いに申し訳なさそうに答える使用人の人が答えた。あれ、それって俺たちがドラゴンを倒したせいじゃない? 大型ドラゴンが封印されていたことは俺達人間は知らなかったがワイバーンたちは野生の勘か本能で知っていたのかもしれない。それが死んだとわかったので今新しいリーダー争いをしているのだ。ゲームではもう少しあとだったからリーダー争いも落ち着いていたのだろう。
「どうする? 今はやばそうだけど出直すか?」
「いや、それはできない。父の反対を押し切ってきたからな。今回撤退したら二度と試練を受けさせてはくれなくなるだろう……」
みんなの視線が俺に集まる。リチャードそんな不安そうな目で俺をみるなよ……
「せっかくだし、中に入ってみるか、少しでもやばいと思ったらすぐに戻る。それでいいかリチャード」
「うむ、問題ない。ありがとう。忠告ありがたいが私たちは試練を受ける。道をあけてくれないか」
「わかりました……ただいつもよりは危険なので何かあったらすぐに戻ってきてくださいね」
使用人さんが心配そうに忠告をする。とはいえ強くは止めないので絶望的ではないのだろう。本気でやばかったらもっとなんかあるだろうしな。
俺たちが巣に入ろうとするとやたら豪華な馬車がやかましい音を立てながらこちらへ向かってきた。
「間に合いましたわね、まったく学校にいないと思ったらこんなところにいるなんて……」
「エリザベス!? 一体どうしたのだ?」
豪華な馬車からエリザベスが降りてきた。顔をみるとなにやら怒っている。またリチャードなんかやらかしたのか?
「あなたのお兄様から話は聞きましたわ、また勝手なことをして……私もついていきますわ」
「なっ、だが命の危険が……」
「私より弱いあなたに命の心配をされる筋合いはありませんわ!! ヴァイス達もいいですわね」
「まあ、俺たちは戦力あがるし文句ないが……」
エリザベスの勢いにまけて俺たちはうなずいた。まあ。エリザベスの魔法は強いし足手まといにはならないだろう。なぜ怒っているのか? あれかエリザベスじゃなくて俺たちを頼ったからかな。痴話げんかに巻き込むのはやめてほしいものだ。
リチャードもエリザベスにびびって強くは言えないらしく結局一緒にいくことになった。ワイバーンの巣へと入ろうとするとなにやら服の裾を引っ張られた。
「なんだよ、エリザベス?」
「ヴァイス……お願いなのだけれど今回の依頼失敗してもらえないかしら」
「え……なんで?」
「何をしている、貴様らも早く入ってこい」
エリザベスは俺の問いを無視して巣の中にはいってしまった。今回の依頼俺が思ったより事情が複雑なようだ。暴れているワイバーンに依頼を失敗させたいエリザベス、一筋縄ではいかなそうだ。
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