26.ルートから外れた者
打ち上げも終わり学校へと帰宅した俺は少し休憩した後にジェイスさんの所へと向かった。
「入っていいよー」
「お前勝手に返事するんじゃねえ!」
いつものようにノックをしたがいつもとは違う反応だった。誰か女性がいるようだ。ジェイスさんリア充なのかよ! いや、わりかしいい歳だし当たり前か……でもあの人エルフ萌えじゃなかったけ?
「あれ? 君はさっきのゴブリンと戦ってた子じゃん!!」
「アンリエッタさん!? ジェイスさんと知り合いだったんですか?」
ジェイスさんの部屋にいたのはアンリエッタさんだった。意外な再会に俺たちは驚いた。世間はせまいものだ。
「お前ら知り合いだったのか?」
「さっき話した僕を王都まで道案内してくれたのが彼らのパーティーなのさ。ゴブリン相手にもいい戦いをしてたと思ったけど君の生徒だったなんてね、さすがジェイスだよ、いい先生してるじゃん」
ジェイスさんの疑問にアンリエッタさんが嬉しそうに答えた。仲いいんだろうな。アンリエッタさんは俺たちといた時より楽しそうだし、ジェイスさんも心なしか柔らかい表情をしている気がした。
「よし、アンリエッタ今日はもう帰れ、俺はこれからヴァイスと話がある」
「ええー、ひどくないかい? 僕はわざわざ君に会いに来たんだよ」
「それはそうだが本来会う予定は昨日だったろう? 誰かさんが遅れたせいで会えなかったがな」
「うう……ジェイスの意地悪……」
「あの……俺の話はそんな急ぎじゃないんで今度でもいいですよ」
泣きそうなアンリエッタさんがかわいそうだったんで俺は思わず助け舟を出した。この人の顔をみてるとなんか可哀そうになってきた。
「構わんよ、生徒の話を聞くのが教師の仕事だからな」
「僕が構うんだよ!! ジェイスのばかー、机の角に足をぶつけてもだえて苦しんじゃえー!!」
ジェイスの言葉がとどめになったのかアンリエッタさんは泣きながら部屋を出て行ってしまった。
「追いかけなくていいんですか? 泣いてましたけど……」
「いつものことだからいいんだよ、それに遅刻したくせに反省してなかったようだったからな。話があるんだろう、座れ」
俺はジェイスさんに促され椅子に座った。ん? 椅子を引いた時になんか付箋がたくさんついた本が落ちたようだ。拾ってみると題名は「おすすめデートスポット」と書いてあった。
「あのこれって……」
「お前は何も見なかった。いいな」
「でも……」
「お前は何も見なかった。いいな」
ジェイスさんは無表情のまま俺から本をひったくった。これ以上は触れないほうが良さそうだ。てか怖くてからかえない……
しかしジェイスさんもアンリエッタさんと会うの楽しみにしてたのだろう、それを道に迷ったからってデートが中止になったら怒るか……
「で、話っていうのはなんだ?」
「気になったことがあるんです、例えば主人公の攻略ルートから外れたヒロインとかってどうなるんでしょうか?」
俺はようやく本題に入った。そしてエレナとの会話について感じたことを説明した。ゲームでは彼女の過去の話を聞くのはもっと先だったのだ。あきらかにゲームの時と展開が違うことを説明した。
俺の話を聞くとジェイスさんはようやく気付いたかと言ってうなずいた。
「ゲームとかやってて疑問に思ったことはないか、別のルートを選ぶと登場しなくなるキャラたちはどうなったんだろうって。この世界ではな、ゲームの流れから解放されるんだ。でもゲームの時と同様にイベントが発生しているときもある。俺の時もそうだった……あるルートでは主人公のオーキスと協力をして村を襲う魔物を倒して、村の英雄となり村長の娘と結婚するっていうキャラがいたんだが、この世界の俺たちは他のルートにいったためそのキャラとオーキスは会うことはなかったんだ。ある日ふと気になって俺だけでその村に行ったらそのキャラは死んでたよ……魔物と刺し違えて英雄にはなっていたがな……ゲームでは語られないだけでルートから外れたキャラもそれぞれの時間を過ごしているんだよ」
「ってことはルートから外れたキャラは……」
最悪死ぬ場合もあるってことだ。街で会った時の様子を見る限りシオンはおそらくメインヒロインとのルートに進んでいるのだろう。そのルートでは俺とハロルドはこの後シオン達に絡んで退学になるというイベントがあるがティアとエレナの出番はなかったはずだ……ちなみにティアはエレナルートのサブキャラなので基本的にセットである。
思い出せ!! エレナルートに進んだ場合におきるイベントと彼女たちにおこる災いを!!
「やばい……次の強化合宿で二人がドラゴンに襲われて死ぬかもしれない……」
「いや、何言ってんだお前、ゲームじゃねーんだぞ。ドラゴンなんぞそうそう会ってたまるか」
いや、ゲームだったんだよ。この世界は!! 思わず脳内でつっ込んでしまった俺だったがジェイスさんの反応も当たり前だろう。ドラゴンとはかなり希少な生き物であり、この世界でも中々遭遇できないのだ。そんな生き物が魔法学校の合宿するような所にいたらもっと大騒ぎになるだろう。
「実はシオンが魔王の生まれ変わりでその魔力に反応して眠りから覚めてしまうんです、ちなみにここから魔王の力に目覚めて。魔王の側近の四天王とかともたたかいますよ」
「なんだよそれ……もう、シオンを退学にした方がいいんじゃねーか……」
ジェイスさんが頭を抱えながら呻いた。もっともな意見だし俺も大賛成だがそうはいかないだろう。ゲームの通りに進むというならなんだかんだシオンは退学にならないだろうしな。
例えばシオンと仲良いレイドが庇えば一介の教師にすぎないジェイスが何かいっても退学にするのは難しいだろうし、魔王の生まれ変わりとか言っても信じてはもらえないだろう。
「久々にドラゴン殺しの準備をしとくわ。もしもドラゴンに遭遇したら助けを呼んですぐ逃げろ。そんくらいならできるだろ。間違っても戦おうとするんじゃねえぞ」
「もちろんです。勝てない戦いはしませんよ」
てかドラゴンと戦ったことあんのかよこの人……と思ったが、エミレーリオの冒険譚にドラゴン退治の話があったな……倒してたな……
ちなみにドラゴンとの遭遇イベントは強化合宿の最終日におきる。エレナルートではドラゴンが目覚めるところに遭遇してしまい、メインヒロインのルートでは暴れているドラゴンと遭遇するのだ。ゲームでは語られなかったが目覚めたドラゴンにエレナは殺されていた可能性もある。
俺は嫌な考えを頭から振り払う。仮にそうだったとしても今はゲームではない。俺がいるかぎりそんなことはさせないし、絶対阻止してみせる。
「あのなルートを外れるって言っても悪いことばかりじゃないんだぜ。さっき会ったアンリエッタいたろ。彼女ゲームだと死ぬんだよ」
「え? でも……」
「そうだ、今も生きているよ。なぜかわかるか? 彼女のイベントはゲームだと死んで終わりだったからな。そのあと蘇生アイテムを使ったんだ。そして蘇生が成功し今も生きている。つまりゲームでの役割が終わった人間は生きるも死ぬもゲームの展開に縛られることはないんだよ」
ゲームだったら蘇生アイテムはパーティーメンバーには使えないが、この世界はゲームのようでゲームではない。縛りはあるが抜け道もあるということだ。俺も覚えがある、イベントで死んでしまったお気に入りキャラになんで蘇生アイテムが使えないんだよ!! って思った経験が……
俺は少し安心をした。ようはこれからの俺の立ち回りでなんとかなる可能性があるということだ。ならば俺はできることをやるだけだ。
「ありがとうございます、色々参考になりました」
「気にすんな、でも後悔だけはするようは生き方は選ぶなよ」
ジェイスさんにお礼を言って部屋を出た。あれ? でもこれだと俺の退学っていうフラグはどうあがいても避けられないんじゃ……
「やあ、お話は終わったかな?」
自分の部屋に戻る途中に中庭を考え事しながら歩いている俺に話しかけてきたのはアンリエッタさんだった。月明かりに浮かぶ顔は美しいこともあり神秘的だった。ヘッポコだけど。
「ええ、お二人の時間をお邪魔して申し訳ありませんでした」
「君が謝る必要はないよ。悪いのはジェイスの馬鹿だからね!」
「馬鹿だなんてそんな……」
あれは馬鹿というよりツンデレではないだろうか?
「馬鹿なんだよ、あいつは! あいつが告白してきた時のことなんだけどね、僕も誇り高いエルフだからね! 『君たち人間とは寿命が違うんだ、簡単に付き合うなんてできないよ』っていったらなんて返したと思う? 『ああ、そうだな、じゃあ不老の薬を作るわ』っていったんだよ! 馬鹿じゃないかな! 寿命なんて関係ない愛してるんだ! って言ってくれたらいいだけなのに! おかげで何年もおあずけなんだよ!そろそろ彼とイチャイチャしたいんだよ! 僕は!」
ごめんジェイスさん馬鹿だわ……てか先生の恋愛事情とか聞きたくなかったな……
「それとも気持ちが変わって遠まわしにふられてるのかなぁ……」
「いや、そんなことないと思いますよ!」
俺は椅子にあった本の事を話した。ジェイスさんがいかにデートを楽しもうとしていたか、本気で不老の薬を作ろうとしているかも伝えてあげた。
「本当かい? 君はいいやつだなぁ! 1つのすれ違いカップルを救ったんだ! 君は僕らの救世主だよ!」
アンリエッタさんは目を輝かして俺に抱きついてきた。あ、なんかいい匂いが……しない! 3日間森で迷ってたからか草の香りと魔物の血の匂いがする。あんま嬉しくない。
おれは必死にアンリエッタさんを引き剥がした。
「もう、照れ屋さんだなぁ。君にはお礼をしないとね。この笛をあげよう! 困った時に吹くといい。僕が助けにくるよ! ただし一回しか使えないから注意してね」
とりあえず受け取っておくがアンリエッタさんが来てなんか解決するのかな……ってかジェイスさんに渡した方がいいんじゃ……
そう伝えようとしたがアンリエッタさんはもうジェイスさんの部屋へ向かって駆け出していた。
なんか疲れたな……早く寝よう……真剣にドラゴンと遭遇したらどうしようと考えていたが気が抜けてしまった。まあ、ひとりで考えても仕方ないだろうしちょうどよかったのかもしれない。
ふと視線を感じたような気がしたが気のせいだろうか? 俺は部屋へと帰宅した。
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