24.正義の味方
木々が覆い茂った森からかすかに漏れる太陽光が心地よい。これがピクニックとかだったら最高なんだけどな。
「薬草取りって結構大変なんですね……正直舐めてました……」
「特に今回は苗でほしがっているからな、根っこも傷つけないようにしないと」
長時間同じ姿勢で疲れたのかエレナが珍しく弱音を吐いていた。ずっと中腰だからな。気持ちはわかる。授業でならっていたおかげで薬草採取もスムーズに進んでいた。これなら近いうちに終わるだろう。ちなみにハロルドとティアはもう一つの薬草を採取しているため少し離れたところで作業している。そんなに離れてはいないし、おたがい魔物が出たら空に魔法を打って応援を呼ぶように打ち合わせているので問題はおきにくいだろう。
「ヴァイスは私がなんで孤児院の子たちに優しいか聞かないんですか?」
「まあ、気にはなっているけどな、誰にでも知られたくないことはあるだろ」
「最初は不審者だとおもってましたが意外と気を使ってくれるんですね……」
エレナがほほ笑んだ。まあ、本当はゲーム内で語られていたから理由を知っているんだが余計なことをいったらまた不審者に戻ってしまうしな。
聞いてくれますか? と目で訴えた彼女に俺はうなずいた。
「私ね、子供の時に人さらいにさらわれたことがあるんです。おそらく父の政敵が首謀者だったんでしょうね。乗っていた馬車が襲撃されて気づいたらせまい部屋に腕を縛られて閉じ込められていました。その部屋にはもう一人子供がいたんですが,その子も怖いだろうに私を励ましてくれたんです。彼女は孤児院にいたらしいんですが口減らしのために売られてたそうで……私はそんな話は物語の中だけだろうと思っていたので驚きました。でも彼女がいてくれて本当に心強かった……彼女がいなければ私は恐怖でおかしくなっていたかもしれません。あのときの私にとって彼女は正義の味方でした」
俺の表情をみて彼女は何を感じたのだろう。彼女は一息ついて続きを語ってくれた。
「人さらいが先に部屋から連れて行ったのは彼女でした。彼女も怖いだろうに私にむかってほほんで大丈夫だよって言ってくれたんです。そんな彼女に私はなんにもできなかったし、なんにも言ってあげられなかったんです……助けが来たのはその少し後でした。不思議な仮面をつけたエミレーリオという冒険者が人さらいのアジトを襲撃して助けてくれたんです、でもその時には彼女がどこに連れていかれたのかははわかりませんでした……」
「そんなことがあったのか……」
悲痛そうなエレナに俺はありきたりな返事しかできなかった。内容を知っていても本人からきくとつらいもんだな……しかし、この話を聞くのはゲームだともう少し後のはずだったのだがなぜ今話してくれたのだろう。それともシオンの攻略ルートから外れたのでゲームのルートとは流れが変わったのだろうか。
「多分私はリオと彼女を重ねているんでしょうね……リオの……彼女の話を聞いたときに私は彼女を助けたいなっておもったんです。自己満足かもしれませんが私を救ってくれた彼女のように私も誰かの正義の味方になりたいなって…そう思ったんです」
そういって彼女は空を見上げた。彼女は昔救ってくれた少女の事をおもっているのだろう。
「すいません、変な話をしてしまって……スリにあった時も一緒でしたし、依頼を受けるか迷っていた時も助け舟を出してくれたので話したほうがいいかなって思ったんです。まあ、自分でも自己満足かなとは思ってるんですけどね」
エレナは恥ずかしさをごまかすように笑った。確かに自己満足かもしれない。彼女が救いたかったのはリオではなく助けてくれた少女だ。主人公のシオンもゲームではそれは自己満足だと言っていたな。平民であるシオンは貧しくとも必死に生きているリオを自己満足で救うことに疑問を持っていてエレナの過去話を聞いた時少しもめるのだ。まあ、そのあとエレナがシオンが思った以上にリオの事を本気で助けようとしていることを知り和解するのだ。だが俺はそんな面倒なことをする必要はない。
「いいんじゃないか? 仮に偽善や自己満足でもエレナのおかげでリオが救われるのは事実だしな。それに俺にはエレナが軽い気持ちで助けようとしているようにはみえないからな。俺もできるかぎり手伝うよ」
俺は彼女を肯定した。これには本音も含まれていた。この後彼女はリオのために命をかけるのだ。そこまでの行動を偽善や自己満足だけとは言えないし、仮にそうであってもそこまできたら本物だと俺は思ったのだ。あとはここで協力するといっておけば彼女が勝手にピンチになるということもなくなるだろうという計算もあった。
「てっきりヴァイスは偽善だ!! っていうと思いました。ありがとうございます」
「お前の中の俺のイメージはどんなだよ……そういうこというのはハロルドじゃないか?」
「確かにそうですね、いいそうです」
俺とエレナは向かい合って笑う。さっきよりも距離が縮まっている気がした。なんだろう胸がどきどきしてきた。これは恋ではないと思いたい。今は同い年とはいえ十五歳の少女に恋するのはまずいだろ。きっとすべてを知っているのに知らないふりをしている罪悪感に違いない。
俺は空気を変えるために気になっていたことを聞いたみた。
「そういや、呪文の詠唱いつもやっているけどあれってなんでだ?」
「え? だって正義の味方の必殺技みたいでかっこいいじゃないですか」
聞かなきゃよかった。あとちょっと胸のどきどきが収まったね。やっぱり気のせいだったようだ。薬草を摘み終わり俺たちがハロルドたちと合流しようとしたときだった。空に土が浮き上がったのがみえた。あれはハロルドが風の魔法で土を打ち上げたか。
「ヴァイス」
「わかっている。すぐいくぞ」
あいつらのほうで何か問題が発生したのだろう。俺たちはすぐに二人のところへ向かった。
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