17.初めての授業
「昨日は夜中にどこいってたんだい?」
「ちょっと散歩にな」
昨日のジェイスさんとの話が盛り上がりすっかり寝不足だった俺だが、なんとか座学を乗り切った。
「やっぱり初めての授業楽しみで眠れなくなるわよね」
「君たち二人そろって眠そうな顔していたからすっかり先生ににらまれたじゃないか……ティアよだれふいたほうがいいよ」
「え? うそでしょ? なんもついてないじゃない!! だましたわね」
手鏡片手にティアがハロルドを追い回す。すっかり見慣れた風景だ。そう、この風景こそが俺の今の日常である。俺は昨日ジェイスさんと話したこともとに考える。あの人は変えれることもあったし変えれないこともあったといった…… ならばゲームの大筋のような出来事は変えられなくても小さいことは変えられるのかもしれない。またゲーム内での選択肢の中で俺の有利な様に選択肢に誘導するくらいのことは可能なのかもしれない。俺がシオンに負けるのでなく引き分けたように。というよりそうでもおもわなければあの鍛錬は何だったのだと思うし、がんばって結果多少未来が変わったと思いたいものだ。
次の授業は実技である。俺たちは動きやすい服に着替え訓練場で並ぶ。周囲を見回してそこまで強そうな人間はいないといいなぁ願う。成績良ければ多少問題を起こしても退学は免れるかもしれないからだ。シオンとレイドは別のクラスなので基本授業はかぶらない。あいつらには勝てないからよかった。どうでもいいが最初にシオンに絡んでいた金髪もいるようだ。
ふと、視界に長い黒髪の少女が入る。彼女の名前はエレナ。無表情だが整った顔をしている。すらりとした長身と相まって冷たい印象を感じるもののあまりの美しさに少しドキッとしてしまった。
彼女はゲームのメインキャラでありルートによってはシオンとくっつくのだ。うわ、みたくねー。俺がシオンと同じことをすればフラグ立つかなと一瞬思ったが仲良くなるきっかけが彼女のピンチを助けるというかませキャラの俺には手に余る方法なので早々にあきらめることにする。
「よし、そろったな。おまえらのクラスの実技を担当するジェイスだ。よろしくな」
あんたかよ!! 整列をした俺たちを前に眠そうに挨拶をするジェイス。確かにあの人がなんの担当とかそういう話はしてなかったな…… 一瞬目が合うと意地の悪そうな笑みを浮かべていた。あんまりうれしくないサプライズだ。
「ねえ、あの人って……」
「そうだねぇ……昨日のおっかない人だよ」
まあ、おれも含めて二人は昨日たっぷり説教されたしな。いい印象はないだろう。ハロルドが半泣きになっていたのはここだけの話である。
「まずはおまえらの実力を知りたい。入学早々問題おこしたそこの三バカ前に来い」
悲しいことに視線が俺たち三人に集中する。昨日の騒動はクラスのみんなにも知れ渡っているようだ。
「さっそく目立ってんな……」
「誰が三バカよ……」
「まったくだ……ティアならともかく僕はバカじゃない……」
「あ? なんですって」
俺たちは文句を言いながら前へ出た。周囲の視線が痛い。
「お前らの実力がみたい。ティアとハロルド俺の前でたたかってみろ。ルールは……そうだな。昨日の騒動と同じ寸止めな。当てたら負けだ」
「はい!! わかりました」
「げえ……ティアとだって?」
ジェイスが皮肉気に笑う。ギロチンに向かう死刑囚のような表情でティアと向かい合うハロルド。ティアは勝利を確信した笑みを浮かべていた。まあ、ティアが負ける姿は想像できないな。
案の定勝負は一瞬でついてしまった。本当に強いな……
「ふむ、優の中と並みの下ってところか……ティアお前は相手が格下だからって雑になっている。油断するな。ハロルドお前は最初から負けるとおもって腰が引けてる。格上相手でもなんとかできるよう考えろ。あともう少し足腰を鍛えるんだ。それで少しはましになる」
二人の戦いをみてジェイスが感想を述べる。勝ったティアも油断していたのは事実だったのだろう。バツが悪そうにしていた。まあ、いつも勝ってるし油断するのもしかたないだろう。
「次にヴァイスだが……ちょうどいいお前が相手をしろ」
「え、俺っすか? いいですけど……」
ジェイスに指名された少年が俺と向かい合う。彼は昨日シオンに絡んでいた少年だ。俺たちは互いに剣を打ち合う。くっそこいつ強いな。貴族の中には幼少の時から先生に剣術をならっているやつもいる。こいつもそのタイプだろうか? ちなみに俺はわざわざ専門の教師を雇うような金がないのでセバスに習っていた。彼も通常業務もあるのでついでだったけど。まあしょせん地方貴族だしね。
「そこまで!!」
俺の剣が相手の首元でとらえて勝負は終わった。勝てたのは俺が訓練用の剣に慣れていたからだろう。次は勝てないかもしれない。ってかこいつ意外とつよいのか……
「二人とも並みの並みってところか……ヴァイスお前本当にモブなんだな……」
あれで並みの並みかよ!! 俺的にはキラーベアーと戦った時くらい必死だったのに……そして俺の実力は並みの並みらしい……
少しへこんだ俺だったがそんなことはおかまいなしに授業は進んでいった。全員の評価が終わったようだ。
「お前らの実力は大体わかった。次は魔法の実力をみるぞ。適当にペアを組め。あ、魔法の属性はばらけたほうがいいぞ」
ジェイスさんの言葉に俺たちは顔を合わせる。俺たちは三人。つまり一ペアしかできない。学生時代のトラウマが……いや、今も学生なんだが。
「私が抜けるわ。私魔法は苦手だし足をひっぱちゃうだろうから」
「いや、ティアはハロルドと組んだほうがいい。ハロルドは魔法得意だからフォローしてあげてくれ」
「僕は構わないが……でもペアのあてはあるのかい?」
大丈夫だよと俺は微笑んだ。試験内容も知っているし相性の良いキャラも知っているしな。問題はペアを組んでもらえるかだがさすがに友達グループもできていない今なら大丈夫だろう。
「すまない、もしよかったら俺とペアを組んではもらえないだろうか?」
「別に構いませんが……」
俺が声をかけたのはエレナだ。彼女の魔法は氷。今回の試験とは相性が良いのだ。それにかわいい子と組みたいなっていう下心もある。まあ、この後シオンと仲良くなる可能性もあるんだけどね。そんときはそんときである。
「俺の名前はヴァイス。魔法はあまり得意ではないがよろしく頼む」
「ええ、かまいません。私はエレナです。よろしくお願いします」
会話が終わってしまった……確かゲームでもあまりしゃべるタイプではなかったな。しかし近くでみると綺麗だな。俺は緊張しているのを実感する。
エレナの能力は確か魔法よりだったはず。さっきの試験は剣術の評価も並みの上だった。まあ、俺よりは上なんですけどね。彼女のゲーム内のステータスを思い出す。
「全員ペアを組んだな。じゃあそれぞれの方法でこいつを倒してもらおうか。魔法の試験といったが倒せるならどんな方法でもいいぞ」
そういってジェイスさんは俺たちがペア決めをしている最中に持ってきたかごを配った。中身をあけるとゼリー状のサッカーボールほどの生き物がいた。スライムである。とあるゲームのおかげで弱いイメージではあるがこの世界のスライムは厄介だ。物理攻撃はほとんど効かないし、やつの体液は強酸になっておりふれれば大惨事である。ちなみに脳はないため「僕は悪いスライムじゃないよ」とかいってきたりはしない。
なかなか厄介な敵だが中にある核を傷つければ倒せるし魔法耐性は弱いので魔法さえつかえればなんとかなる。核は体内を移動するため中々狙いにくいので剣だけでは倒しずらいので主に魔法で液体を減らしてから核を狙うのが基本となる。俺の魔法に威力があれば体液すべて蒸発させて核を焼けるのだがまだ威力は足りないだろう。
「じゃあ、スライムの可能な限り体液を凍らしてくれ。核は俺が焼くよ」
この方法はシオンがゲームでやった方法である。あいつは一人でやっていたが俺にはそんなことできないので氷の魔法使いを探していたのだ。あと即座に倒し方をみつける俺をみてエレナがちょっとかっこいいなと思ってくれないかなって考えたり……
「ん? どうした。スライムははじめて?」
彼女はなぜか返事をしない。俺の下心がばれたのか?
「いえ……別にいいんですが……あなたはなんで私の魔法が氷って知っているんですか? 最初に組もうって言った時も魔法の属性を聞いてきませんでしたし……」
「え……?」
やらかした……俺はゲームの知識で行動してしまった。彼女の目には不信の色が強い。どうすればいい……?ミスを自覚して困惑している俺をみる彼女の表情はまるで氷のように冷たかった。
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学校編メインキャラ出そろいました。一気にキャラ増えましたが覚えていただけるようがんばります