13.魔法学園入学
ついにきたのだな…… 目の前にそびえたつ石造りの建物。噂によると何百年も前につくられた由緒正しい建物だそうだ。俺は魔法学校の制服に身を包み思いにふける。俺の本当の人生はここから始まるといっても過言ではない。なんとかしても退学を避けこの世界での人生を謳歌してみせる。
「ハロルド、前も言ったが平民出のシオンという同級生がいる。そいつには手を出すなよ」
「ヴァイスは馬鹿だなぁ、平民が魔法つかえるわけないじゃないか」
「そうね……ちょっと考えにくいのよね……」
俺が未来を知っているというのは二人には打ち明けたが全然信じてもらえなかった。二人ともメインキャラではないため、ハロルドは名前自体転生してから知ったし、ティアも趣味くらいしか俺の知っている秘密はなかったのだ。
あとは学校でこれからおきる出来事くらいしか知らないのであってるかどうかを証明することができなかった。オーキス様はよく信じてくれたもんだ……
「すごい人の数……私たちクラス一緒だといいわね」
「ふっ、まったく寂しがり屋だなぁ。偽お嬢様は……僕らとそんなにはなれたくないのかい?」
「こいつは……」
「そうよ……わるいかしら?」
余計なこといってまたたたかれるぞ……と頭を抱えていた俺だったがティアの反応は意外なものだった。顔をうつむいたティアにハロルドがあわてて声をかける。
「もちろん僕だって離れたくないに決まってるじゃないか。なあ、ヴァイス」
「ああ、もちろんだって」
「ふふ、ひっかかった。でしょー、素直に言えばいいのよ」
「僕の心配をかえせー」
新パターンのやり取りだな。何だかんだ俺も魔法学校楽しみだし彼女も浮足立っているのだろう。てか二人とも仲良よくなってるよね、最近。
今日は入学式ということでちょっとした顔あわせだ。ゲームでみたキャラがちょいちょいいるのをみて俺は懐かしいような奇妙な気持ちを感じる。まあ、モブキャラにすぎない俺はかかわることもないだろう。
入学式でありがたい話を聞いた後俺たちはそれぞれのクラスが発表されている掲示板へと向かった。
「よかったー、私たちみんな同じクラスよ」
「これからも長い付き合いになりそうだねぇ、魔法でわからないことあったら聞くといい。格安で教えてあげるからねぇ」
「ハロルド……素直にうれしいっていえよ……」
一足先に俺たちの名前をみつけたティアが嬉しそうに報告してきた。全員一緒のクラスって結構な確率だけどオーキスさん裏金とかつかってないよな?
「え?貴族なのにこんなこともできないんですか?」
「なんだとてめえ、喧嘩うってんのか?」
クラス発表でざわついている掲示板でひときわ大きい怒鳴り声が響いた。声のほうを見ると黒髪の少年が金髪の少年になにかいったのかからまれている。やべえ、黒髪の少年はシオンじゃないか?
「入学早々変なことにからまれたらまずい、早く教室へ行こう」
「何言ってんのよ、喧嘩なんだから止めなきゃだめでしょ」
俺の制止もむなしくティアが騒ぎの中心へと向かいハロルドもそれを追う。俺もいかなきゃいけないよなこれ……
「僕のことを平民ってバカにするわりにはこの程度なんですね、貴族様は」
「くそっ、少し魔法ができるからって調子に乗りやがって。火が氷より強いのは当たり前だろう」
騒動の中心で俺がみたのは黒髪の少年の魔法で作り出した火が金髪の少年の魔法で作り出した氷を溶かすところだった。
「勘違いしないでほしいな…僕はあえて火を使ったんですよ……風よ」
「多属性使用者だと……」
そういって黒髪の少年は風を生み出した。その光景に周りが先ほどとは違う意味でざわつく。
『多属性使用者』一般的に魔法は一人一属性を使用する。それはそれぞれの属性によって使えるようになる方法が違うからだ。大抵の貴族はそれぞれの家に伝わる属性を子供に継承させるのだ。実際いくつもの属性を覚えることはできるが、どれも中途半端になるのがおちである。だがごくまれに天才はいて歴史上には二つの属性を使いこなす人間もいた。だがそれはあくまで例外である。
まあ、この黒髪の少年シオンに関してはかつてこの世を滅ぼしかけた魔王の生まれ変わりだからすごい才能を持っているんでただの人間と比べものにはならないほどの魔力を持っているのである。さすが主人公チートである。その出生が原因で色々まきこまれるのだが今の俺には関係ない。
「へー、あの平民なかなかやるじゃん」
騒ぎの中心から少し離れたところで端正な顔立ちの少年が興味深そうに覗いている。彼の名はレイド。ゲームではシオンの親友となる人物であり我が国の王子である。やべえな……役者がそろってきたぞ。
「僕は確かに平民です。でもそれだけで馬鹿にされるのは気に入らない!! ぼくだってちゃんと試験を受けて入学したんです。文句があるなら実力で語ってください!!」
シオンが宣戦布告ともいえる好戦的な言葉を吐く。あー、たしかゲームだとおんなじように何回もからまれてていらいらしてんだよな……
「そこまでいわれたら黙ってられないねぇ。僕ら貴族だって伊達や酔狂でここにいるわけじゃないんだよ」
いや、黙っててくれないかな…… 俺は挑発に乗ったハロルドをみて頭をかかえた。これからどうなるんだろう……
--------------------------------------------------------------------------------
ここから魔法学園編に入ります。よろしくおねがいします