12.エミレーリオの冒険譚
「オーキス様本気ですか……なにがおきるかわからないのですよ……」
「ふふ、君にはこの服と仮面をあげよう、懐かしいだろう。ティアたちが町に行く前に先回りをしないとね」
上機嫌に鼻歌をうたいながら外出の準備をしている私にセバスが声をかけてきた。もちろん本気である。かわいい子には旅をさせろというじゃないか。
実際わざわざ別荘地まで来たのに外出をしてやることなどない。だが娘の事だ。私たちが外出したときけば友達と町へ繰り出すだろう。使用人たちにも娘たちの外出はきづかないふりをしてほしいと命じてある。
本当はいけないことだし妻にばれたら私も怒られるかもしれないが今は彼女の自由にさせてやりたいと思う。若い日の友人とも思い出というのは本当に大切だから……
私とセバスは町へとついた。市場には活気があり領民たちの表情も明るい。直に町の雰囲気を味わうと私の仕事はまちがってはいないのだなと実感できてよい。こうして町へ繰り出すのはこういった一面もあるのだ。決して娘の様子をみにきただけでない。
「オーキス様、意外とこの格好も目立ちませんね」
そう私たちは今『エミレーリオの冒険譚』のエミレーリオとその仲間のハミルトンの恰好をしているのだ。この町は聖地だからだろう同様の恰好をしている人間もちらほらいる。それはさておきセバスには注意をしなければな。
「セバス……いやハミルトン、この格好の時は昔のようにエミレーリオと呼んでほしいな」
「エミレーリオ冒険譚の復活ですな。あの人も呼べばよかったですね」
「残念だね、やはり仕事が忙しいようだ」
なにを隠そう『エミレーリオの冒険譚』は実話である。魔法学校を卒業した後の私たちの冒険を領主の仕事の合間に書き留めていたらある日友人に出版してみたらどうだといわれ出版したら意外と売れたのだ。
この町が聖地なのも単に私の別荘地から近いので冒険の拠点にしやすかったからである。正直娘がこの本を嬉しそうに読んでいた時は何とも言えない恥ずかしさに襲われたものだ。ちなみに娘はエミレーリオが私ということには気づいていない。
「おっとようやくきたね。いやー楽しそうだねぇ、ハミルトンはどっちがティアのお婿さんにいいと思う?」
娘たちを見つけたので気づかれないように距離をとりついていく。彼女たちは変装しているつもりかもしれないがわかる人間がみれば貴族とわかってしまうだろう。変なやつに絡まれそうになったら助けないとね。
「普通娘の結婚相手を嬉しそうに探す父がいますか……ちなみにヴァイス様は我が家の跡取りなのでだめです」
「ならハロルド君かぁー、彼はちょっとヘタレだけど魔法の才能があるよね」
そうはいっても結婚相手くらいは選ばせてあげたいじゃないかと思う。私の子供はティアしかいないから必然的に彼女の旦那が跡取りになる。そして結婚した彼女は領主の妻として生きることになるだろう。そう、彼女の夢である冒険者になるというのはかなうことがないのだ。かつて自分も冒険者を……エミレーリオであり続けることあきらめたように……
考え事していたら一瞬ヴァイス君と目があってしまったのですぐに移動する。意外とするどいね。
かつての常連の店は相変わらず繁盛しているようだ。店主は私たちの正体に気づいたらしく、ありがたいことに勝手に飲み物がでてきた。ここの麦酒はあいかわらずおいしいね。
娘が友達と楽しそうにイノシシの丸焼きを食べている。娘が最近楽しそうにしているのは彼らのおかけである、感謝してもしきれない。それにこの光景をみていると私も昔にもどったような錯覚に襲われる。
「誰かお兄ちゃんを助けてください!!」
私たちが楽しそうにしている娘たちと昔話を肴に酒を楽しんでいると少女が入ってきた。少女の話に店がざわつく。冒険者たちが集まる店なので助けをもとめにきたか。だが受けるもの好きはいないだろう。案の定冒険者たちは断っている。
あの山には魔物がいるし、ここで格安で受けてしまったら冒険者のギルドから恨まれてしまうからね。まあ、これも何かの縁だ。娘の護衛はハミルトンに任せあとで私が助けに行くとしよう。
「あんたたちそれでも冒険者なの!? 女の子がかわいそうだと思わないの? みそこ……んんっ」
娘が冒険者たちにからもうとしたのを二人が止めてくれた。ありがたい。正義感の強い子に育ってくれたのはいいが今回の冒険者たちは悪くない。彼らには彼らの生活があるのだから。直接話す予定はなかったが仕方ないね。
「はっはっは、威勢のいいお嬢さんだね、無償で助けろっていうのかい? 君はなにやら私たち冒険者を正義の味方かなんかと勘違いしているのかな? そんな存在は冒険譚の中の住人だけだよ」
私は精一杯馬鹿にしたように笑う。娘の視線が痛いが仕方ない。冒険者と喧嘩になったら洒落にならないからね。
口論した結果、娘たちが少女の兄を助けに行くことになってしまった。少し言い過ぎたか。山には数は少ないが魔物もいる。一応鍛錬はしているが戦力不足の可能性もある。
「ハミルトン」
「わかっていますよ、エミレーリオ様」
みなまでいわなくともわかっていとばかりにうなずくハミルトン。私たちは娘たちの後を追いけることにした。
山を登り薬草をとっていた少年と娘たちが合流したのをみてほっと一息をついた私たちだったが獣のうなり声に緊張が走る。
「キラーベアー……なかなか強敵ですね」
巣穴にいるゴブリンならともかく野にいあるはぐれゴブリンくらいなら娘たちでも倒せるだろうが、キラーベアーはまずい。娘たちは一般的な冒険者と違い貴族なので魔法が使えるし鍛えているので普段通りの力がだせれば勝てるだろうが経験が少なすぎる。自分が出れば瞬殺できるがどうすべきだろう。
私は娘たちをみる。勝気に相手をにらみつける娘、冷や汗をかいているハロルド君、困惑気味のヴァイス君。これはまずいか。
「おまちください、今行っては彼らの成長につながらないかと……いざとなったら魔法で援護しましょう。」
助太刀しようとした私をセバスが止める。娘たちの鍛錬をずっとみてきたのはセバスだ。彼が大丈夫というなら大丈夫だろう。
いつでも魔法をだせるように精神を集中する。ヴァイス君が一瞬固まった隙をつかれひやっとしたがなんとか受け流したようだ。
「沈め」
娘がキラーベアーの腹から剣を抜こうともたついている間にするどい爪がせまる。ヴァイス君がかばおうとしているのをみた私は援護としてキラーベアー足元を沈める。これで少し時間が稼げるだろう。ヴァイス君が間に合わなそうだったら土の槍を作り出して串刺しにしてやるところだった。
そのあと体制を立て直した娘たちは魔法を駆使してなんとかキラーベアーを倒した。しかし、ただみているだけってのも気分は楽じゃないね。
「さすがにハラハラしたな……」
「そうですね……何回か危ない時もありましたし今後の鍛錬の内容を考え直しましょう」
結局私たちは娘たちが子供を酒場に送っていくのを見届け先に屋敷に帰った。そしてそ知らぬふりをして外出に関して二人で説教をして一日が終わった。悪くない一日だったと思う。
色々危なかったが彼女たちの冒険は無事に終わってよかった。彼女の自由が許される時間までなるべく色々な経験をさせてあげたいものだ……
こうして私の……エミレーリオとしての冒険譚は終わった。願わくば三人に明るい未来が待っていますように。
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次回から学校編へ入ります。




