11.俺たちの冒険譚その4
キラーベアーと俺たちは向かい合って対峙していた。やつは俺たちを警戒しているのか、それとも俺の持っているたいまつが功をそうしているのかはわからないがなかなか攻めてこない。
その間に俺たちは体制を整える。俺とティアが前衛にまわりハロルドが後衛だ。少年はハロルドが手を握っている。
「グルルルルゥゥ」
「ひぃっ……」
少年の悲鳴を合図にするかのようにキラーベアーがうなり声とともにこちらへと向かってきた。俺はけん制とばかりに手に持っていたたいまつをやつに投げつけた。やつはうっとおしそうにそれをするどい爪ではじく。俺とティアがその隙をついて左右から攻撃をしかける。
「いくわよ」
ティアが浅いがやつの腹を切りつけ、腹から血が噴き出た。俺も続けとばかりにやつに斬り掛かろうとしたがやつの殺気に満ちた目とあってしまった。初めてのむき出しの悪意をむけられた経験に俺の体が一瞬こわばる。
「ヴァイス大丈夫か!! 風よ!!」
金属のきしむ音が森に響く。やつの爪を剣で受けることができたのは偶然か鍛錬のたわものか。とにかく命びろいをした。
そしてハロルドの風魔法がやつの顔を襲う。やつがうっとうしそうに両腕で風魔法をうけとめている間に俺は体勢を立て直した。爪をうけとめた俺の右腕はいまだにしびれているが戦闘には支障はなさそうだ。
「大丈夫? 動ける?」
「ああ……心配かけた」
俺は自分が甘かったことを思い知らされた。どこかゲーム感覚なのもあったのかもしれない。だがその認識は捨てる必要がある。今俺たちは生死をかけた戦いをしているのだ。
俺とティアでやつの爪を交互にさばいて隙をみて切りかかるが致命傷はあたえられない。
「ティア!! やつの爪は受け流せ。多分正面から受け止めたら力負けする」
「わかったわ。ハロルドなんとか隙を作れない?」
「まかせるといい、僕の魔法はスカートめくりだけじゃないのさ。風よ!!」
今度は風の刃ではない。小さい竜巻が発生して砂をまとってやつの目にむかう。目つぶしだ。目に砂が入り混乱しているやつの両腕をかいくぐり俺とティアはきりかかる。
「くらえぇぇぇl」
ティアの剣がやつの腹を貫き俺の剣はやつの肩を傷つけた。くっそまだ暴れんのかよ。剣を引き抜こうとしたティアだが剣が抜けない。腹にちからをいれて剣を抜けないようにしてるのだろう。
「なによ、これ!!」
やつの爪がティアに迫る。その瞬間地面が沈み、やつの動きが少し遅れた。ティアの土魔法か。おかげで俺の剣は間に合いやつの爪を受け流す。けがや視界不良であまり力が入らないのだろう。さっきよりも多少だが勢いは弱い。
ティアは剣を抜くのはあきらめ一旦距離をおく。
「グルルルルゥゥ」
俺たちとやつは三度対峙する。まずいな……手負いの獣ほど恐ろしいものはないと聞く。傷ついている今なら逃げれるか……?
おそらく子供を置いていけば助かるだろう。だがそれでいいはずはない。
「ヴァイス、ハロルド……行くわよ」
ハロルドから剣を借りたティアと目があう。想いは同じようだ。それに俺たちは魔法学校に行くという未来が確約されているはず……などと甘い考えをいだいている余裕はない。
「風よ!!」
「土よ!!」
ハロルドがやつの顔にめがけて竜巻をはなつ。やつはうっとおしそうにそれをふりはらいこちらへと襲いかかろうとしたが急に体制を崩しこけた。
ハロルドの風魔法に注意をむけティアの土魔法で足元に段差をつくったのだ。普段ならかからないであろう作戦も相手が傷をつけられ怒っているのもあり有効だったようだ。
「ギャルルルルルルル」
倒れたやつの頭に思い切り剣を振りおろす。体重の乗った一撃はやつの頭蓋骨を打ち砕き血と脳漿がとびちった。思ったよりもえぐい光景で気分が悪い。
「やったわね!!」
ティアそういうフラグみたいなこというのやめてくれるかな。さすがに頭蓋骨を砕かれたやつが再び動くことはなかった。
「薬草もとったし町にもどろう」
「え? これからこいつをはぎ取らないの?」
「この偽お嬢様はなにをいってるんだい……そんな余裕ないだろう……」
ゲームでもあるように冒険者が倒した魔物の皮や爪をはぎ取り売ったりするのは定番である。しかし今の俺たちにそんな余裕はないだろう。もう一体同じ魔物がきたら多分全滅する。
「わかったわよ……とりあえずこれだけ……」
そういって彼女はやつの爪をボキッと折った。なんていうかパワフルすぎない?
町に戻った俺たちは薬草とともに無事少年を送り届けることができた。少年の妹が少年をみると抱き着きながら泣いていたのが印象的だった。後日別荘のほうに届いた少年の手紙によると無事少年の母の体調はよくなったらしい。
こうして俺たちの冒険譚は終わりを告げた。内容は薬草を探しに行った少年を助けるというゲーム序盤のお使いイベントのようなものだったし、エミレーリオの冒険譚からすればしょぼい冒険譚かもしれない。でもこれは俺たちにとっては今までの人生最大のイベントだった。
初めての実戦は楽しさより恐怖が勝ったし、下手をすれば死んでいたかもしれない。この世界はゲームのようでゲームではない。俺はそれを改めて認識したのだった。
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更新遅れてもうしわけありません。また前回のペースにもどります