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魔法少女と鎧の戦士  作者: 森ノ下幸太郎
第1章 蜘蛛怪人編
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第8話 出動


 一方、童話に登場する魔法使いのような格好をした人々が研究所の外で段ボール箱を運んでいく中で、久遠彼方という少年もまた同じように段ボール箱を運んで黒い制服の人々に手渡していく。


 手渡された箱は黒い制服の人々がパトカーに乗せていくと「ご苦労様です。」と言って車へと乗り込んでいく。

 金髪の少女、ルル・フィリアはアルミ製のツールケースを渡しながら「念の為に溶解弾と銃を用意しましたが、基本的には量産した鉄砲注射で投与する様にして下さい。それと専用の銃は実弾なので、数に限りがあるだけではなく、街中での使用には十分に気を付けて下さい。」と説明をした。


 するとその時、

 ルルの懐から「ピリリリリ…」と電子音が鳴り響くと薄型の端末を取り出すと男性にケースを渡しながら「すいません…失礼します。」と一言声を掛けながら表面に取り付けられたボタンを押して耳元に添えた。


「はい。フィリアです。」

 応答するルルは「はい。先程完成しました。」と言返事をすると制服の人々が荷積みを終えていく様子を見渡しながら「既に輸送準備も出来ていますので…。」と言った。


 ルルの話す内容にケースを持った男性は耳を傾けながら同じように辺りを見渡すと「えっ…?はい。まだ出発していませんよ。代わりますか…?」という言葉に再び視線をルルに戻した。

 男性が視線を向けている様子を見て頷いたルルは「…分かりました。では代わりますね。」と返事をして男性に端末を両手で渡しながら「警部からです。」と伝える。


 端末を受け取った男性は耳元に近づけながら「はい。ワタライです。」と応答する。

 ワタライという男は「はい。…はい。北区……はい。」と何らかの指示に返事をしていると「…えっ…?」と声を漏らした。


 するとワタライが持つ端末から中年の男性の声で「おい!君!!!ちょっと待ちなさい!!!!」と大きな声が聞こえた。


 思わず一瞬だけ耳から端末を離したワタライは「ど、どうかしたんですか!?」と動揺した様子で訊ねると「えっ…!?…さっきの男の子ですか…………?」と訊ねると「そうですか…。分かりました。一先ず私の方から共有を掛けておきますので。」と答える。


 その大きな声とやり取りに荷物を積んでいた一同が一瞬だけ視線を向ける中で、

 箱を渡し終えた久遠彼方という少年は心配そうに男性を見詰めた。


 ワタライは「はい。では、すぐに向かいますので。…失礼します。」と言って通話を終えるとルルに端末を返しながら「フィリアさん。ありがとうございました…!」と礼を言う。


 それまでのやり取りを見ていたルルは「あの…何かあったのですか?」と訊ねる。

 そわそわとした様子のワタライは「はい…、実は…北区の部隊が怪人の蜘蛛の糸で拘束された後に、現場に居合わせた男の子の母親が怪人に浚われてしまったようでして…。」と説明をする。

 その話を聞いたルルは「えっ…?その男の子は今…どうしているのですか?」と聞く。


「どうやら拘束されている警部から離れて怪人の後を追ったそうです。」

 頷いてそう答えたワタライは「こちらも直ぐにその親子の捜索や隊員の救助と警備体制の強化に努めなくてはならないので…失礼します。」と伝えて一礼をすると辺りで注目する制服の人々の元へと駆け寄っていく。



 ルルはワタライがパトカーの前で制服の人々に指示を始める様子を見詰めていると、

 横から彼方が話し終えた少女に声を掛ける。


「ルルさん…。

 今の話の男の子って………まさか…タクヤ君のことじゃないですよね?」

「……………。」


 彼方の質問に俯いて黙り込んでしまったルルは静かに「それは…分かりません。」と答える。

 しかし、直ぐに顔を上げたルルは「でも…、その可能性は高いと思います。」と答えて話を続けた。



「実は…さっきの男の子の…。

 タクヤ君の場合は…少し複雑な事情があるようでして…。


 帰り際にタクヤ君のお母さんから聞いた事なのですが、

 あの子があんなに一生懸命に呼び掛けていたのは………。


 半年前にあの子のお父さんが…怪人に殺されてしまったからなのです。」

「…………………!」



 幼い少年タクヤの父親が殺されたという話を聞いた途端に、彼方は硬直した。


「だから…あの子の場合は、

 自分と同じ思いをして欲しくないという、

 純粋な気持ちからなのだと…タクヤ君のお母さんから聞きました。」


 自分と同じ思いをして欲しくない。

 その言葉を聞いた時、タクヤという幼い少年の言葉が脳裏を掠めていた。





(「でもこのままじゃ!皆の家がなくなっちゃうよ!建物が壊れちゃうよ!


 そうしたら…街も人も滅茶苦茶になっちゃうよ!!!!


 僕、こんなの嫌だよ!!!

 怪人が出る度に皆の住む町で戦争が起きるかもしれないのに…!

 そんなの見ているだけなんて嫌だよ!!!!


 だって…!!!逃げたって何の意味もないんだもん!!!」)





 その時の不安そうな顔で必死に伝えようとする、

 タクヤの真っ直ぐな瞳が印象的だった。


 感情的に伝えたい事を必死に言葉にして、

 訴え掛けるその姿が過り思わず呟いた。


「皆には…、自分と同じ思いをさせない為に………。」

「私達の星では、戦争があった影響で家族がいない人は珍しくはありません…。

 

 ………ですが…。

 あのぐらいの年頃から親を亡くしてしまったショックは、

 とても大きいものだと思います………。


 それに時期も悪く怪人が目撃されてから、

 頻繁に姿を現すようになりましたので…。


 だから尚更、自分の気持ちを他の人と置き換えて考えてしまうと、

 居ても立っても居られないのかもしれませんね…。」



 そう言ったルルは俯きながら言った。

 

 自分の気持ちを他人と置き換える。

 彼方はその言葉に妙に引っ掛かりを覚えていた。





(「私たちみたいな親と離ればなれの子供に安心させてあげたり、

 楽しいことや嬉しいと思えることを沢山教えてあげられる人になりたいんだ。」)





 脳裏にある少女の言葉が過るからだ。

 夢を語るカチューシャの少女の姿を。



「………何だか俺、あの子が凄く心配になってきました。


 だってあの子…。

 街や人が滅茶苦茶になっているのに、

 見ているだけなのは嫌だって…言っていたんです。


 そう考えると怪人が出る度に同じ事を繰り返して………。

 このままじゃ…あの子も怪人に殺されるんじゃないかと思うと………。」



 俯いていたルルは頷きながら「はい…。」と返事をしながら、

 どこか考え込む様子で補足する様に言った。



「先程の…。

 タクヤ君の家がある住宅地は丁度北区の中心にあたる場所なので…。


 そこで怪人による騒動が起こったのなら、

 またタクヤ君が現場に出て行ったと考えられます………。」


 その返事に彼方は青く強張った表情で「そんな………。」と狼狽えた様子を見せると、

「そんなのあんまりですよ…!タクヤ君は怪人にお父さんを殺されているのに…今度はお母さんまで狙われて…!」と慌てた様子で感情的に言った。


 必死に思いを伝えようとする様子の彼方に対して落ち着いた様子でルルは「…私もそう思います。」と頷きながら言った。

「だから私、今から少し様子を見てきます。

 恐らく怪人を発見次第に道路の封鎖も行われると思いますので、

 その間だけでも探しに行ってきます。


 直ぐに戻りますので、カナタさんは研究室で待っていて貰えますか?」


 待っていて欲しいという問いに彼方は「えっ…?」と一瞬戸惑った様子を見せるが、

 直ぐに「俺も…!俺も、探しに行きます。」と真剣な表情で答える。


 時間と伴に切迫する状況の中で彼方は懲りずに幼い子供の捜索を望んだ。

 所詮は一方的な感情に過ぎない。


 しかし彼の記憶を見て行動理念を理解しているルルは躊躇った様子で、

「しかし…これ以上、カナタさんを巻き込む訳にはいきません。」と確りと目を見て言った。


「貴方は地球人ですから…。

 私達の不祥事に巻き込んでしまった以上は、

 私にも貴方の身の安全を守る責任があります。


 それに私がタクヤ君を心配して探しに行くのは彼の心を守るためです。


 これ以上…あの子の心に傷を付けてしまえば、

 今度こそあの子はこの世界で怪人が出る度に苦しい思いをしながら生きていかなければならないのです。


 それだけじゃなく…自分のせいで誰かが死んでしまったのだとしたのなら、

 あの子はこの…心という精神的な状態を大切にする世界の中で一生悔やみながら生きていくしかなくなります。


 そうならない為にもこの世界では怪人がいることによって、

 自分の命を顧みないことだって必要になっているのですよ。


 だから…カナタさんの心や命を守るためにも、

 関係のない貴方にそこまでして貰う訳にはいかないのです。」


 自分のせいで誰かが傷付くという痛みは、

 心を大切にする人間にとっては精神的な障害となる。


 他人を蹴落とさなければ社会に適応出来ない地球では必要のない感覚だろう。


 だがしかし、綺麗事の中で生きていく事が行動原理の狂った少年には通用しない価値観でもある。

 それ故に彼には自分の夢を叶える為に行かなければ生きている意味がない。


 説得をするルルに彼方は「それは分かっています。」と返事をした。


「いや…。分かっていないと言われても仕方の無い意見ですが、

 俺にも…似た様な経験があるんです。

 それが悔しくてどうしようもないから、

 自分が関わった人達には同じ思いをして欲しくないんです。


 だって、誰だって悲しい思いをしながらずっと生きていくなんて出来ないから!


 だから、俺は行きます!

 今ここでルルさんに止めて貰ったのに行くのは可笑しいことだし、

 申し訳ないですけれど…それでも行きます!


 もう誰かが悲しむところを見たくはないから!」


 そう。彼は気違いだ。地球人として必要のない部分を持った狂人なのだ。

 心を慈しみ、社会に反する行動理念を持つ過激な思想を持つ離反者だ。


 彼はパトカーが向かった方向へと駆け出そうとすると、

 ルルは「待って下さい!それならせめて私と一緒に行きましょう!念のために準備も必要ですから。」と呼び止める。


 しかしそんな彼の思想はこの心を大切にする世界では受け入れられる。

 だからこそ彼女は彼を呼び止めた。


 その声に直ぐに足を止めた彼方は「すいません。でも宜しくお願いします。」と言って頭を下げると、ルルは一息吐いて「いいえ…。カナタさんの記憶を見てしまった以上、その気持ちは分かりますから。」と言う。


 そして身体の向きを研究所の方向に戻したルルは「それでは直ぐに準備をしましょう…!

 付いてきて下さい!」と振り向きながら彼方に言う。

 頷いて確りと「はい!」と返事をする彼方は駆け出したルルの後ろをついて行った。





 研究所の横にある倉庫に移動し、

 ルルはプラスチック製の大きなケースを背負っている来ている。


「入りましょう。」

 そう言って倉庫の鍵を開けながら言ったルルの後についていく彼方は中へと入る。

 ルルが壁際にあるスイッチを押すと暗い倉庫の中が照らされて辺りを窺えるようになる。


 思わず彼方は辺りを見渡すと倉庫の中には数台のバイクが停めてある。

 一目でそこがガレージに成っていることを理解した。


 壁際にあるアルミ製の棚に向かって歩み寄るルルは「ここにあるバイクは怪人の攻撃に対抗できるように開発された試作機です。」と説明をする。


 部品や工具のある棚から鍵を取り出したルルは、

 フルフェイスのヘルメットを片手に掛けると彼方に差し出して「では、行きましょう。」と言う。


 受け取った彼方は「はい。」と返事をすると直ぐにヘルメットを被る。

 ルルが側車付きのバイクに跨がると彼方は魔法使いの三角帽子を見て問う。


「あれ…?ルルさんはヘルメットを被らなくてもいいんですか?」

 その問いにルルは「えっ…?」と不思議そうに首を傾げて自分が被っている帽子のつばを触ると思い出したかのように「ああ…!えっと、私達のような研究者や魔法使いの制服には魔法の力が備わっているので大丈夫なのですよ。」と答えた。


 ヘルメットよりも頑丈な魔法の帽子。

 その回答に彼方は「えっ…?えっと………そうでしたか。」と不思議そうな顔をしながらも返事をして納得したという意思を伝えると、ルルは「はい。では行きますよ。」と呼び掛ける。


 彼方は慌ててサイドカーに乗り込んで席に着くと、

 ルルはバイクを走らせてガレージを抜け出した。





 一方。

 青いヘルメットを被る魔法使いの少女アヤ・アガペーが街中をバイクで走行する中、

 ホルスターに収納してあるトランシーバーから「こちら中央区!北区に出動した部隊が怪人の能力によって拘束され、民間の女性が攫われたとの伝達を受けました。怪人は中央区の広場の方面へ向かった模様。」と発される。


 アヤはバイクに急ブレーキを掛けながらUの字に大きく転回すると「たった今研究所から溶解弾を受け取りましたので、これより北区の部隊の救助に向かいます。付近の魔法使いは至急中央区に向かった怪人の捜索を要請します!」という伝達を聞きながら前進した。


 すると遠くに見えた景色の中で建物と建物の間に巨大な蜘蛛の巣が垣間見えると、

 その間を潜り抜けるように宙を移動していく影を見た。


(あれは…。)


 アクセルを回したアヤは移動する陰を注視すると、

 バイクが加速する度に陰の形が人型へと変わった。


 それは建物の間を縫うように糸を先の屋根からまた先の屋根へと飛ばしてサーカスの空中ブランコのように巨大な蜘蛛の巣の方向に向かって移動していく。


 住宅地を駆け抜けていくバイクが徐々に接近していくと、

 アヤは片手でヘルメットの側面部に備え付けられたヘッドセットのスイッチを押すと「こちら中央区遊撃班。怪人を発見しました。」と連絡をする。


 情報の共有を掛けるアヤがハンドルに片手を戻すとヘルメットの片耳に備え付けられたインカムから「場所は?」と男性の声で返事がくる。


「中央区の住宅地から噴水広場に向かっています。」

 そう言って間を措いて怪人の様子を伺ったアヤは背中に蜘蛛の糸の塊のようなものを発見すると拘束された女性が担がれている様子を見て言った。


「人質と思われる女性も発見できました。

 狙撃班による迎撃よりも先に被害者の救出が優先と思われます。」

 アクセルを回して漸く蜘蛛の怪人の姿がはっきりと見える位置まで接近すると、

 片耳の装置から「こちら中央区!溶解弾が届きました!これより蜘蛛の巣の撤去作業に掛かります!」と別の男性の声で伝達を受ける。


 その連絡に「よし…。」という安堵した声が聞こえてくると「では、蜘蛛の巣の撤去後、狙撃班はそのまま待機。遊撃班はそのまま怪人の動向を随時報告し、中央部隊と合流してくれ。」という伝令を受けるとアヤは「了解!」と短く返事をする。


 怪人の接近していたアヤは指示を受けると、

 空中を移動していく怪人に気が付かれない程度の距離をとって走行をした。


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