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魔法少女と鎧の戦士  作者: 森ノ下幸太郎
第1章 蜘蛛怪人編
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第7話 戦慄と勇気


 噴水から水が流れている広場があった。

 その広場の近くでバイクを停車させている魔法使いアヤ・アガペーは黙って空を眺めている。


 空には巨大な蜘蛛の巣が出来上がっており、

 その蜘蛛の巣の糸が張り巡らされている端から中心まで視線を送る。


 するとその時、

 ベルトの側部に取り付られたホルスターから「ピー」という音声が鳴った。

 直ぐさまそのホルスターからトランシーバーを取り出す。


 手に持ったトランシーバーから「こちら北区、異常なし。只今狙撃魔法銃の配備完了。中央から…状況は?」と男性の声が聞こえてくる。

 側面のボタンを押したアヤは「こちら中央区。異常ありません…。」と返事をする。

 アヤの返事に続き「西、異常なし。」、「東区異常なし。」、「南区、異常ありません。」と各々の人物が応答する。


 再び聞こえてきた男性の声は「よし…じゃあ、中央区は溶解弾が届くまで待機。その他、東西南北に分かれた各班の中で………」と声が途切れる。

 そして途切れた声の男性は間を措くように「ん?どうした…?」と訊ねる声が聞こえた途端。

「バンッ!」と何かが叩き付ける音が聞こえてくると「ドン!バン!」と再び鈍く何かを叩く音が聞こえてきた。

「バタバタバタ」と忙しない足音と「ガタガタガタ」と振動する音がトランシーバーから籠もったような音声で聞こえてくると漸く男性から「こちら北区!例の民家の屋根から怪人が現れた!各区に分かれた遊撃班に応援を要請する!狙撃隊はその場で待機!怪人の逃走に備えて迎撃準備に掛かってくれ!」と指示が送られると「ドタバタ」と足音と鈍く何かに衝撃が与えられた音が籠もると「…っ!がぁっ…。」と悲鳴が聞こえた。


 トランシーバーからは「ザーッ…ザザザッ………。」とテレビのホワイトノイズのような音が一瞬だけ聞こえた。

 その後、何の伝達もない様子に東区と名乗っていた人物が「警部?警部!?無事ですか!?応答願います!」という慌てた口調で訊ねる。


 トランシーバーをホルスターに収めたアヤは急いでバイクに駆け寄るとハンドルに掛けていたヘルメットを被って車体に跨った。

 キーを素早く回してエンジンを入れると素早くクラッチとアクセルと噛み合わせながら発進して噴水の広場を抜けて住宅地へと入っていく。





 住宅地の中。

 路地で首を絞められて持ち上げられた中年の男性が「がぁっ…。っ…ぁぁっ!」ともがき苦しみながらも髑髏の様な仮面を睨み付けている。

 男性が両手で首を掴んだ怪人の片腕を掴む中で、

 怪人は床に落ちたトランシーバーを踏み付けて粉砕する。


 すると怪人の後ろから「止めろ!」という声が聞こえてくると、

 異変に気が付いた制服の人々が銃を構えて駆け付けていた。


 振り向いた怪人が確認した制服の人々の人数は5人だった。

 向けられた銃口を見て怪人は持ち上げている中年の男性を盾にするように翳すと「どうした…?撃たないのか?」と挑発する。


 人質を取られた1人の男性は「な…何!?何をふざけたことを…!」と言いながら銃口を震わせると怪人は「ふははっ…!そうだ!お前らはそうやってただ見ていればいい。」と愉快げに笑った。


 狼狽えて銃を震わせる男性が先頭に立つ中で、

 隣の男性は「くそぉ…!」と悔しがりながら銃を下ろしてホルスターに差し込むと、

 ぎゅっと目を瞑って歯を食いしばりながら意を決して走り出した。


「…ぬあぁあああああっ!!!!」

 大声を上げながら怪人に向かって跳び掛かる男性は一目散に怪人の腕に掴み掛かって押し倒そうとする。


「……な…んっ!何だ!?」

 武器を持たずに腕を掴まれて体重を押し掛けられた怪人は「何だこいつ!?」と驚きながらも両脚を踏み張って重心が崩れないように力を入れる。


 その行動を見ていた4人の男性の中の1人が「今だ!!!抑えろ!!!」と呼び掛けると、制服の男性達は銃を仕舞って一斉に怪人に向かって駆け出した。


 雪崩れ込むように男達が突進してくる様子を見た怪人は舌打ちをして「ふざけているのか…?こいつ等ぁ…。」と不機嫌そうに呟くと大きく口を開いて素早く白い糸を吐き出した。


 真正面から吹きかけられる蜘蛛の糸を見て思わず4人の男性は「うわっ…!」と驚いた声を上げながら両腕で顔を覆い隠す。

 怪人はその間に素早く掴んでいる男性の手を振り解いて蹴り付けると、その反動で掴んでいた中年の男性の首から手を放した。

「ぐぁぁ…!」

 蹴られた男性と中年の男性は路面に叩き付けられて声を上げる。


 蹴り飛ばされた男性は民家の壁に頭をぶつけると「うっ…!」と声を上げてそのまま動かずに崩れ落ちる。


 糸を顔や腕に疎らに吹きかけられて引き剥がそうとする4人の男性に視線を向けた怪人は両手を翳して再び糸を発射した。

 4発飛ばした糸は4人に1つずつ糸のくっついた両腕に付着すると、

 4人の男性は「うっ…!」、「くぉぉ…!」と各々に声を上げて両腕を粘ついた糸に塞がれてしまった。


 路面に倒れ込んだ中年の男性はホルスターから銃を取り出すと、

 怪人の背中に目掛けて銃口を向けて引き金を引く。

 直ぐさま振り返った怪人は中年の男性の発砲と同時に振り向いて光の弾が腹部に着弾すると、怪人は一瞬で焼け焦げた腹部を左手で抑えながら「…っ!くぅ…!!!」と漏れそうな声を堪えて右手を翳した。


 その間に仰向けに倒れて背中を丸めた体勢をとっていた中年の男性は、2回連続引き金を引いていた銃から光弾が発射されて怪人の抑えた左手の甲と胸部の中心を一瞬にして炭化させた。

 高熱の塊を撃ち込まれて怪人は「あがっ…!…っぁぁあ…!」と悲鳴を上げて悶えながらも翳した右の手の平の穴から糸を噴射した。


 すると3発連続で発射された糸は中年の男性が向けた銃の銃口部に纏まって付着すると、

 引き金を引いていた中年の男性の銃の銃口は僅かに重なった糸の塊を黒く焦がすが光弾が出ることはなかった。

 何度もカチカチと引き金を引く男性の銃は銃身から黒く焦げ臭い煙を上げながら女性の声の様な機械音で「ENERGY LOST」という音声が鳴った。

 その音を聞いて中年の男性は「何っ!?」と声を上げて何度も引き金を「カチカチカチ」と音を鳴らしながら引く。


 焼かれた右手と胸部から煙を上げながらゆっくりと近づく怪人は「どいつもこいつも…なめた真似しやがって………。」と呟きながら右手の鋭く尖った5本の指を束ねると駆け出しながら「まずはお前からだ…。」と言って仰向けに倒れている中年の男性の首に目掛けて突き出した。


 するとその時「止めて!!!もう止めてよ!!!!」と幼い子供の声が聞こえてきた。


 立ち止まった怪人と仰向けの状態で身構えた体勢の中年の男性は、

 その聞き覚えのある声のする方向に視線を向ける。


 住宅地の奥から路地に入ってきたタクヤという名前の少年が息を切らせながら不安そうな表情で「何でこんなことをするの!?僕たち何もしていないのに!!!皆、幸せに生きていたいだけなのに!!!どうしてこんなことをするの!!?」と大きな声で怪人に向かって叫んでいた。


 それを見た中年の男性は「駄目だぁあああ!!!!帰りなさい!!!!こっちに来ちゃ駄目だぁああ!!!!」と叫ぶと、怪人は仰向けになった男性に向かって「うるせえ。黙れ。」と言って口から糸を吹き掛ける。


 吐き出された糸が銃を持った男性の両手と片足に付着すると「うわっ…!?」と声を上げて、べっとりとくっついた糸を急いで引き剥がそうと腕の力や足に力を込めてじたばたと暴れる。


 中年の男性が唸り声を上げながら糸を剥がそうとしている間に怪人がタクヤの方へと歩み寄ろうとすると、背後から一人の女性が駆け付けて言った。


「タクヤ!!!止めなさい!!!家に入っていなさい!!!」

 叱り付けるように言って駆け寄った女性はタクヤの手を引きながら怪人を見てその場から離れようとする。

 しかし、手を引かれるタクヤは「でも!!!あのままじゃあ…!魔法使いさんが殺されちゃうよ!!!」と不安そうな声と表情で言った。

 必死に子供を連れて行こうとする女性は「いい加減にしなさい!!!!」と怒鳴った。


「タクヤ!!!見て分からないの!!?

 魔法使いさんは戦えない人のために命懸けで戦ってくれているのに!!!

 どうして無駄になるようなことをするの!!!」


 叱られた子供は「だって…!だって!!!皆の命だって大切なんだもん!!!!皆にとっても魔法使いさんの命だって大切なんだもん!!!!」と必死に意思を伝える為に言った。


 2人の母子の正面まで歩み寄る怪人は「態々自分から来てくれたのか…。」と呟くと右手を翳しながら立ち止まった。

 それを見た女性は幼い子供を抱き寄せながら庇うように背中を向けて言った。


「止めて下さい!!!

 こんな小さな子供にまで暴力を振るうつもりなんですか!?」

「あんた…、何か勘違いしてんなぁ…。」

 そう言った怪人は右手から糸を噴射すると女性に背中にべっとりと糸がくっついた。

 異質な怪物から飛んできたものに驚いてぎゅっと目を閉じた女性は怪人の声を聞いて「何が…!?何が勘違いだというの!?」と問うと幼い子供の背中を押して「タクヤ!!!逃げなさい!!!隠れていなさい!!!!」と叫んだ。


 背中を押されて振り向いた少年は母親の背中から糸が怪人の手の平まで繋がっている様子を見ると「母さん!!!!」と叫ぶ。

 糸を剥がせずに路面に張り付けられた中年の男性は「止めろ!!!!殺すなら俺達だけにしろ!!!!無抵抗の人間を…!!!巻き込むなぁ!!!!」と叫ぶ。


 しかし怪人は周囲から聞こえてくる声を無視して左手で右手から伸びた糸を掴みながら「最初に殺されるのはなぁ…あんたからだよ。」と言って糸を力強く引っ張った。


 身体を引き寄せられた女性は「タクヤぁ!!!!逃げて!!!!逃げなさい!!!!」と叫びながら怪人の元へ手繰り寄せられる。

 自分の母親が目の前で乱暴に引っ張られて血を流しながら地べたを引き摺られていく光景を目の当たりにして「母さん!!?母さん!!!!母さんが!!!!止めて!!!!お願いだから止めてぇええ!!!!」と喚く。

 怪人は目の前で倒れ込んだ女性に向かって口から糸を数回噴き掛けると、

 女性の上半身と膝の辺りまで糸を巻き付けられたような状態になった。


 まるで芋虫のような体勢された女性を怪人は左腕で担ぐと、

 今度は上を向いて頭上に見えた屋根に向かって左手の穴から糸を発射した。


 思わず駆けだしていたタクヤは「待って!!!待ってよ!!!!お母さんまで殺さないでよ!!!!止めてよ!!!!止めてよぉお…!!!!止めてぇえ!!!!!」とパニックに陥ったかのように喚き散らす。


 天井に付着した糸を見て左手の穴から牽引ロープのように屋根の接着部を目掛けて引き上がっていく怪人はそれを見て「いいぞぉお!!!それだよ!!!それ!!!その必死に懇願する姿が見たかったんだよ!!!!」と愉快げに笑う。


「よく見ておけよ糞ガキ!!!まずはお前の母さんをバラバラにして吊し上げてやるよ!足から一本ずつ丁寧にもぎ取って!!!悲鳴を上げさせて足から一本ずつ見えるように吊してやるよ!!!!」


 見せ付けるように片手で母親を担ぐ怪人は屋根を昇る。


「お前のせいで母親が死ぬんだ!!!!

 お前が余計なことをしたせいで!!!!

 この街の奴らは俺に殺されるんだよ!!!!


 その次はお前を殺して!!!!

 この街の戦えない人間から見せしめにしてやるよ!!!!

 何もできないお前のような奴らからを、な!!!!」


 屋根の上から見下ろした怪人はそう吐き捨てながら姿を消した。



「嫌だぁ…。そんなの嫌だ…!何でお母さんまで殺されないといけないの!!?

 僕たち何も悪いことをしていないのに…!!!何で…!?」

 悔しそうに涙をぼろぼろと流し始めたタクヤは見上げていた屋根から真下へと視線を降ろして嘆く。


 その声に張り付けにされて身動きの取れない男性は「あきらめちゃ駄目だろ!!!!」と叫んだ。


 今にも泣き喚きそうだったタクヤは中年男性に視線を向ける。


「このままお母さんが殺されるのは悲しいだろ!?

 街の皆が傷付くのは悔しいだろ!?」


 涙を拭いながら「う、ん…そんなの嫌だぁ…!」と返事をするタクヤに、

 中年の男性は「よし…!じゃあちょっとおじさんの胸ポケットの中に携帯電話があるから取ってくれないか?仲間の魔法使いを呼んであいつを止めるんだ!」と頼み事をした。

 素直に頷くタクヤは「うん…分かったよ…!」と言って仰向けに張り付けにされた中年男性に駆け寄ると制服の懐を探り始めた。


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