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魔法少女と鎧の戦士  作者: 森ノ下幸太郎
第1章 蜘蛛怪人編
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第5話 怪人


 母子とルルはパトカーが横行する住宅地を駆けていく中で、

「ここです!」と言った女性の声に立ち止まる。


 女性はルルに一礼をしながら「わざわざ送って頂いてありがとうございました…!」と礼を言った。


「いいえ!怪人に遭遇することなく、無事に来られて何よりです!」


 にこりと人当たりの良い笑顔を向けたルル。

 その笑顔とは対照的に俯いて思い詰めたような暗い表情を見せるタクヤは、

「あのお兄ちゃん…大丈夫なのかな?」と呟いた。

 屈んだルルはタクヤと視線を合わせて「きっと大丈夫ですよ!あの時、魔法使いさんが来てくれたていましたから!だから今頃、魔法使いさんに助けて貰っている筈ですよ!」と微笑みかける。


 タクヤは「魔法使いさんが…?」と呟いて顔をあげると、

 ルルも頷いてにっこりと笑みを浮かべながら言った。

「はい!

 いつも皆の心のために戦うことが出来る魔法使いさん達なら、

 きっと大丈夫です!」


 2人の横顔を眺める女性はその言葉に付け足すように「そうだよ。タクヤが怪人から逃げてこられたのも魔法使いさんがいつも皆を守ってくれているおかげなんだからね?タクヤだって誰かが怪人に傷つけられているところを見るのは嫌でしょう?」と宥める様に言う。


「うん…。」


 そう短く返事をするタクヤに女性も屈みながら顔を見て諭すように話を続けた。


「魔法使いさんは皆の心が傷をつかないように戦っているの。


 それなのに魔法使いさんが戦っている場所でタクヤみたいな戦えない子が出て行って、

 怪人に傷つけられたら魔法使いさん達はどう思うか分かる?」

「………悔しい。魔法使いさんも悲しむと思う。」


「そうでしょう。


 皆の街が壊されて、苦しむ人が増えて悔しいのは分かるけれど…。

 タクヤが魔法使いさんを信じて待っていることだって、

 魔法使いさん達の心を傷つけないことにもなるんだから。


 だから皆のためにタクヤも怪人が出た時には外に出ないように協力しよう。」

「うん。分かった………。」


 何処か納得のいかない様子を見せながらも、

 目を見て返事をするタクヤに嬉しそうに笑った女性は「よし…!じゃあ、母さんはこの人と少しお話しするから先にお家に入ってなさい!」と言い聞かせる。

「はい。」

 短い返事をするタクヤは家の扉を開けてルルに「お姉ちゃんありがとう。ばいばい。」と手を振ると、ルルは手を振りながら「はい!さようなら!」と笑顔で返事をした。


 扉が閉まると女性は申し訳なさそうに頭を下げながら「本当に、家の子がご迷惑をお掛けしました…!」と言うと、ルルは慌てて両手を前に出して「いいえ!そんな!とても勇気があって、優しい子です。それにきっと皆さんは迷惑だなんて思っていませんよ。」と宥めた。


 頭を上げた女性は困ったように苦笑して言った。

「そう言ってくれるとありがたいのですが………。

 でも実は…あの子がああいったことをするようになったのは、

 あの子の父が怪人に殺されたからなんです…。」


 思わずルルは「えっ…?」と声を漏らして表情を曇らせると、

 女性は「半年前からなんですよね…。」と言って話を続けた。


「私の旦那が………。

 あの子の父は…魔法使いだったので、

 よくあることだから仕方ないことだとは思うのですけれど…。


 怪人が頻繁に現れるようになって以来、

 あの子は怪人の邪魔をしに行ったり、

 街の皆に知らせに行くようになって…。


 きっと…自分と同じ思いをして欲しくないという純粋な気持ちからなんだと思います。

 でも…親としては危険な真似はして欲しくないですし…、

 私にとってもあの子はたった1人の家族ですから。


 こんな時だからこそ、無事に帰ってきてくれるだけでも嬉しいんです。」


 そう言って笑った女性は心底嬉しそうに笑みを浮かべると、

 ルルは何かを返事をしようと口籠もるが言葉に出来ず躊躇ってしまった。

 すると先に女性は「すいません…!こんな変な話まで聞かせちゃって…!」と言うと、

 ルルは慌てた様子で「いいえ!そんなことないです!」と言いながら両手を振って否定した。


 しかし、首を振る女性は「でも、どうしてもお礼が言いたかったんです。」と微笑みながら礼を言った。


「だから、本当にありがとうございました…!

 あのお兄さんにもそう伝えておいて下さい。」


 礼を言う女性に短く「はい。」と返事をしてルルが微笑むと、

 女性は再び一礼をしながら扉を開けて家へと入って行った。


 その背中を見送ったルルは振り返って来た道を戻ろうとすると、

 路地から駆けてくる足音を聞いた。

 近付いてくる足音の先に視線を送ると、

 背の高い少年が走ってくることが分かった。


 久遠彼方という少年であることが分かったルルは手を振って「カナタさん。」と呼び掛ける。

 彼方もその金髪の少女を見て「ルルさん!」と名前を呼びながら駆け寄ると、息を切らせながら「すいませんでした…!」と謝った。


 息を整えながら謝る彼方にルルは「えっ…?」と不思議そうに声を出した。

 確りと立って目を見る彼方は「病院を出た時に、勝手に現場まで向かってしまって…!」と付け加えると、ルルは納得した様に「ああ…そういうことですか。」と頷いた。


「ルルさんは止めようとしてくれたのに、

 俺が勝手な行動をとったせいで巻き込んでしまって…。


 でもあの時…!

 あの男の子の声が聞こえて…、

 どうしても行かなきゃいけない気がして!


 …兎に角、すいませんでした!」


 必死に謝る彼方を見たルルは「謝ることないですよ!」と言って微笑んだ。


「寧ろ、私はカナタさんの行動を尊重しただけですから。

 まあ…でもやっぱり訳を話して貰ってからの方が安心できるのですけれどね。」

 苦笑して付け足すように言ったルルを見て彼方は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をして言う。

「え…?

 い、いやでも。話を聞かずに飛び出して、

 ルルさんまで危険に巻き込んだのは俺のせいで…。


 ………こうして…何度も謝るのも可笑しいのですけれど、

 ちゃんと謝りたかったんです。本当にごめんなさい。」


 再び深々と頭を下げた彼方にルルは宥めるように言う。


「いえいえ!

 結果的にタクヤ君も無事に帰って来られたのですから!


 それに人を助けるためにはやむを得ないことばかりなのは当然のことです。

 それでも大変な状況の中で人と人が助け合って誰かのためになれたのなら、

 それってとても素晴らしいことじゃないですか!」

「…はい!

 それは…俺も、そう思います!」


 その言葉に思わず彼方の顔は綻んでいた。


 人として当たり前なことを言っているとは理解していても尚、

 彼方にとってその言葉を聞くにはあまりにも新鮮味を帯びていたからだった。


 肯定的な反応を得られて嬉しそうに頷いたルルは話を続けていく。


「はい!だから気にする必要なんてありませんよ!

 私もタクヤ君のお母さんを安心させることが出来て良かったと思っていますから。


 それよりも一度、

 きちんと説明しなくてはならないことが多いので、

 私の研究室で御話しましょう。」

「はい!」


 確りと返事をする彼方はルルの行く先に着いて行きながらその場を後にした。



 2人が去って行く住宅地の屋根には蜘蛛の糸が張り巡らされていることを知らずに。


 それは屋根の陰に隠れるように後ろ姿を眺める赤紫色の蜘蛛の怪人が腹から血を流しながら息を潜めていたからであった。


 息を殺していた怪人は大きな呼吸を繰り返して「ぜぇはぁ…ぜぇはぁ…」と荒い呼吸を漏らし始める。

 そうして怪人は再び2人が去って行く背中に視線を送ると、

 今度はタクヤという少年が入っていった民家を眺めて呟いた。


「くそがぁぁ…。

 あんなガキ一人の言うこと1つでこんな目に遭っているのか…俺は…!」


 両手で痛みを抑えるように傷に触れながら呟く怪人は、

 込み上がる怒りに両手に握り込んだ拳を見詰めて身体を打ち振るわせていた。


「本当に、訳が分からなねぇ…。この世界の連中は………。

 俺は…あんな星で………。あんなゴミみたいな国のせいで…!

 大人達に人生を奪われた、ってのに…!」


 怒りという感情が溢れ出す度に怪人は身体だけではなく声まで震わせると、

 次第に怪人の赤い目から滴が屋根の上に零れ落ちていた。


「よりにもよって…!あんな平和呆けした苦労知らずの連中なんかに………!


 折角生き返って…漫画みてぇな魔法の世界にこられた、ってのに…俺はぁ…!

 あんな努力の努の字も知らない様な…恵まれた連中に…。

 叶えたい願いも叶えられずに邪魔ばかりされて………。

 

 俺はぁ…!何のために…生きているんだ…!


 俺はいつまで…こんな惨めな思いをしながら生きていかなければいけないんだぁ…!?」


 自身の悔やみに思わず怒りの矛先をぶつけるかのように母子の入っていった民家を睨み付けるが、目の前の道路でパトカーが赤いランプとサイレンを鳴らしながら横切っていく様子を見て思わず身を潜めるように顔を伏せた。

「…っ!」

 周囲にサイレン音が鳴り響き、

 パトカーが巡回している様子を見ると「畜生…!」と吐き捨てて歯軋りをさせた。


 追い詰められた状況下にいる怪人にとってその光景は、自身の自由を奪う為の存在が横行するようかのようで、自分以外の目に見える全てのものが敵であると錯覚に陥ってしまうかのような切迫した状況下にあった。

「くそっ!あのガキの邪魔さえなければ!

 今頃俺は…!俺の願いは…!!!」

 身動きの取れない蜘蛛の怪人は、

 怒りと悔しさに苛まれながらその場を離れるようにと片腕と遠くの建物に向けて糸を飛ばそうとする。


 するとその時、

 ふと怪人の横から男性の声で「惨めだねぇ…。ゆとり世代って奴は…。」という言葉が聞こえてきた。

 振り向いた怪人は声の聞こえた右方向を見ると、

 そこには真っ黒い怪人が立っていた。

 背中から羽毛のない飛膜でできた大きな翼で全身を包み込み、

 大きな耳のような角のある兜で顔を覆っている。


 足元には鋭い5本の爪が伸びていることから、

 それはまるで蝙蝠のような姿をした怪人が蜘蛛の怪人を見下ろすように佇んでいた。


 サイレンが響き渡る中で、

 ゆっくりと腕を降ろした蜘蛛の怪人は苛立った口調で「何だ…またあんたか…?惨めなのはお互い様だろう。就職難で落ちぶれたおっさんが何言っても説得力がないんだよ。」と吐き捨てるように言った。


 邪険な態度をとる蜘蛛の怪人に対して可笑しそうに笑う蝙蝠の怪人は「お前の場合、精神年齢が低い糞ガキだろうが…!」とゲラゲラと笑いながら言う。


 挑発的な態度をとられた蜘蛛の怪人は「何だと…?」と怒りながら握り拳を作ると「他人の揚げ足取りに来るだけの中年にガキ扱いされる道理はねぇんだよ!」と怒鳴るように言った。


「プライドだけは高いなぁ…。

 だからお前等の世代は我慢が足りないだの、幼稚だのと言われるんだよ。」

「ああ?何だ?喧嘩売ってんのか?」


「喧嘩?ふははははっ…!お前等の世代なんてまともに喧嘩なんてしたことないだろ?


 あのな…?

 いつまでもそんなんだからこうして生き返っても失敗ばかり繰り返してんだろ?


 お前は1人で何もできない子供のくせに、

 そうやっていつまでも他人のせいにして生きてきたから、

 身体だけは大人で精神的には子供の儘なんだよ。


 人間関係だとか…自分以外のことに何かするのも我慢することができないから、

 俺達と別れて、自分1人だけで願いを叶えようとしているんだろう?


 …で?結果はどうだ?願いを叶えるどころか、何もできていないじゃないか?」


 黙って話を聞いていた蜘蛛の怪人は、

 蝙蝠の怪人が言い切る前に怒鳴り声を上げながら言った。


「ねちねちねちと…!うるせぇえんだよ!!!


 お前等みたいな老害の価値観を引き摺った世代はいつもそうだ!!!

 平気で人の邪魔をするわりには結果ばかり求めて…!

 挙げ句に結果を出さなければ何もできない子供だと決めつけて!!!


 人の失敗ばかりに付け込んで自分たちがさも偉くて優位な存在であるかを誇示したいだけなんだろう!!?


 そうやって人の失敗を否定し続けて、

 何も出来ない若者を自分の都合の良い奴隷に仕立て上げたいだけなんだろ!!?


 お前等だって自分等では何もしないくせに、

 人に失敗ばかりを押し付けるだけの能無しじゃねえかよ!!!!」


 散々に怒鳴りつけて息の上がった蜘蛛の怪人を見る蝙蝠の怪人は「はぁ…。あんまり大声出すなよ?また蜂の巣にされたいのか?」と呆れたように溜息を吐きながら言った。


「あのな…。確かにお前の言う通りだよ。

 俺達だって何もできない能無しだから、

 こうしてまたお前を連れ戻しに来たんじゃないかよ。」


 深く溜息を吐く蝙蝠の怪人は身体を覆うほどの大きな翼の中から鋭い爪の生えた手を出すと人差し指を立てながら「いいか。少し落ち着け。」と言って話を続ける。


「お前はさ…。

 そうやって自分の嫌なことから現実逃避することで、

 現状を維持することに精一杯なんだよ。」


 人を見透かすような発言に蜘蛛の怪人は「だからそうやって決めつけてんじゃねえよ!!!」と逆上して拳を振り上げると、指を立てていた蝙蝠の怪人は手を広げて蜘蛛の怪人の顔面に手を翳しながら「だってそうだろぉお?」と言う。


「今のお前は…この世界の連中に撃たれて逃げてきただけで何もできていないってのに、

 自分の失敗をあんな子供のせいにしているんだろう?


 …ってことは俺の言っている通り、

 お前は1人じゃ何もできない癖に、

 他人のせいにして我が儘言っているだけの子供なのだろう?


 これは紛れもない事実だろう?

 それともそんな単純なことも受け入れられないほどお前は子供なのか?」


 蝙蝠の怪人が落ち着いた口調で「戻ってこい。俺達といた方が効率も良いだろ。」と言うと、

 蜘蛛の怪人は怒った口調で静かに言う。


「…俺が何の計画や努力もなく蜘蛛の巣を作っていたと本気で思ってんのか?


 この世界の連中は命よりも心を大切にするとかいう、

 メンタルの弱い人間しかいないんだろう?


 俺はそれを利用してあの糞ガキを見せしめするために努力してたんだろうが。

 邪魔すんじゃねえよ。黙って見ていろ…!」


 すっかり頭に血が上ってしまった蜘蛛の怪人に蝙蝠の怪人は「ほんと…キレやすいな…。ゆとりだか、さとりだか知らねえけどさ…。」と吐き捨てながら言う。


「こんなんなら無気力に生きているだけの奴の方がまだましだよ。


 今、この世界の連中は俺達のことを勝手に怪人だとか言って未知の生物扱いしてんだぞ?


 目的を知られないからこそ恐怖心を煽ることが出来るのに、

 お前は人間の言葉をべらべらとしゃべった挙げ句に、

 あの魔法少女みたいなのに自分語りまでしてさ。


 自分から情報提供しに言っている癖に俺達を邪魔者扱いは可笑しいだろ?

 邪魔しているのはどっちなんだよ。」

「………っ!俺の何が分かるんだよ…!

 こっちが黙りゃべらべらと!


 あんたはさっきから何が言いてえんだ!?」


「…お前さ。

 自分のことが一番正しいと思っているだけで、

 本当は何もできない勘違い野郎なんだよ。


 俺達がこの世界に来て直ぐに人間を襲わなかったのは何故だ?

 この世界の人間がどういう連中なのかを勉強する為だろ?

 鎧の姿の儘だと正体がばれるし能力的にも何の取り柄もないから、

 生物の能力と姿を組み合わせられるようにこの世界の研究をしていたんだろ?


 それが本当の計画と努力だろうが。

 お前の場合はただ与えられた能力を、

 自分だけのものだと勘違いして勝手に空回りしているだけだろう。


 本当なら実行よりも先に計画を練る方が先だろう?

 あんな蜘蛛の巣張るだけの作業が何になるってんだ?


 確かにこの世界の人間はメンタルが異常に弱いが、

 ただの馬鹿じゃねえんだぞ?

 あいつ等の場合は魔法を利用した科学兵器だって使えるんだ。

 本気で連中が抵抗できないまま恐怖だけで支配されるとでも思っていたのか?」


 説教を続ける蝙蝠の怪人までとうとう怒ったような強い口調で捲し立てると、

 蜘蛛の怪人は今までの行動に図星を付かれて黙り込んでいた。

 ただ、舌打ちをしながら反抗的な態度で言いくるめられていた。


「お前等はまともに喧嘩もしたことがない御利口さんの世代だから分からないかもしれないがな。


 暴力が伴わなければ人間なんてのは完全に支配できないんだよ。


 分かるだろ?

 何で虐待や戦争がなくならないのか。


 相手に抵抗させないように無気力にさせる為には暴力を振るわないと、

 人間ってのは思考停止してくれないんだよ。


 精神的にだけではなく、肉体的にも苦痛を与えないと、

 人間の脳や体力ってのは完全に疲れ果ててくれないんだよ。


 だから俺達はブラック企業っていう奴隷社会の縮図の中で生きていたんだろ?

 疲れた人間をわざと増やして、世の中の人間を思考停止させる為に。


 その為に力を誇示させる方法が、お前には全く出来ちゃいない。」


 そう言った蝙蝠の怪人は蜘蛛の肩に手を置いて「戻ってこい。俺達のされていたことが、どれほど単純なものだったのか、ちゃんと教えてやるからよ。」と言いながら蜘蛛の怪人の耳元に顔を寄せると囁くように言った。


「いいか?


 疲れ果てた人間ってのは…自分が楽をすることしか考えなくなるんだよ。

 だから抵抗することもしない。

 ちょっとした不幸があってもすぐに絶望してくれるようになる。

 無気力だから大したこともしていないのにすぐに疲れてくれる。


 何が言いたいかもう分かるよな?


 自分以外のことに関心を持たない人間ほど扱いやすいものはないんだぜ?」


 耳元で囁いて怪しく笑う声に蜘蛛の怪人は歯軋りをすると、

 肩に置かれた手を払いのけて蝙蝠の怪人を突き飛ばして言った。


「それが嫌だって言ってんだろうが!!!

 あんたらのやろうとしていることは老害と同じだ!!!


 虫酸が走るんだよ!

 何でもかんでも自分の思い通りにしようとするその考え方が!!!


 お前らはいつもそうだ!!!


 何が俺達のされていたことが…だ!?

 結局は感情論や根性論に結びつけて自分が都合の良いように他人に仕事を押し付けたいって魂胆なんだろ?


 何が戻ってこいだぁあ!!?ふざけんじゃねえ!!!

 お前等が口うるさく説教しかしないのは、

 自分等がいつでも責任転嫁して楽するための口実を作りたいだろうが!!!


 お前らの方がよっぽど思考停止してんだろうがよ!!!!


 見え透いているんだよ!!!」


 吐き捨てるように怒鳴り散らした蜘蛛の怪人は、

 遠くに見えた建物に向かって蜘蛛の糸を飛ばすと「今に見てろ…!俺は願いを叶えてこの世界も…!地球も…!自分勝手な人間を支配してやる!お前らみたいに他人を蹴落とすことしか能が無い人間のいない世界を創るんだ…!次に邪魔をすればお前らから殺す…!」と呪詛のような言葉を言い残すと遠くの建物までぶら下がり屋根の上を移動していく。


 パトカーが見えない方へと。

 赤いランプとサイレンの音が聞こえない方へと糸を伸ばして去って行く。


 その背中を見送って鼻で笑った蝙蝠の怪人は「ふふっ………っ…。ふっ…はははははっ!」と可笑しそうに腹を抱えて笑った。

「次なんて無いからこの世界に来たんだろうが…。これだからゆとりは…。」

 そう呟いた蝙蝠の怪人は翼を広げると同じ方向へと飛び去った。

 蜘蛛の怪人の後を追うように翼をはためかせて。


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