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魔法少女と鎧の戦士  作者: 森ノ下幸太郎
第1章 蜘蛛怪人

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エピローグ 守り続ける心





 メルフィオナ学院付属病院 8階 呼吸器外科306号室。


 一人の少年が病室のベッドで眠る母親を眺めている。

 点滴を打ち、胸腔ドレナージにより、脇腹辺りに細い管を留置されて安静に寝かされている。


 だがそれは、刺された腹部の痛みを惑わす為の麻酔によるもの一時的なものだった。


 腫れた顔はガーゼで覆い、顔の傷に貼られた絆創膏に触れて痛みを思い出す少年。


「……ぅぅっ……。」


 思わずその突き刺さる様な痛みに手を放すが、彼は目の前の母親に視線を戻した。


 怪人によって彼は父を失った。

 そして今度は目の前で母を傷付けられた。


 自分を守ってくれたその母が包帯を巻かれて寝込んでいる。


 当然、目の前の現実は心の傷を忘れさせない。心の傷は、治ることなど有り得ない。


 だが、彼は現状を受け止めた上で母親の前にいる。


「……ごめんよ。母さん。


僕がもっと母さんのことを考えてあげていれば…………こんなことにはならなかったね。」


 独り言を呟く彼だったが、薄っすらと目を見開いた母親は子供の顔を見て弱弱しく微笑んだ。


「っ……!母さん!……起きていたの?」


息子の声に、目を覚ました母親は絆創膏を張られた彼の腫れた頬に手を触れて笑った。


「カズラは、皆に知って欲しかったんでしょう?」


 静かに名前を呼んで、そう問い掛ける母の姿に思わず椅子から立ち上がる彼は、

「母さん…………!」と安堵した様に小さな声を漏らす。


「皆を守る為に……、カズラが出来ることをしていたんでしょう……?」


 額に巻いた包帯に、腫れた瞼で薄っすらと目を開けている母親を見て、徐に涙を流す彼は静かな声で謝った。


「いや…………僕が悪かったんだ……。


 僕が、母さんの言う事を聞けなかったから、……母さんに。苦しい、思いをさせたんだ。


 ごめんなさい……。」


 身体を震わせて今にも泣き出しそうに唇を噛み締めて気丈に振る舞おうとする少年。


 袖で溢れた涙を拭いぐい、感情と涙を抑え込もうとする。


 そんな子供の姿に母親は再び弱弱しく微笑んだ。


「でも…………カズラは、正しいと思ったから来てくれたんでしょう……?


 怪人に捕まっても……母さんのところまで来て、1人で頑張っていた。」


 その問いにカズラは「う、ん……。」と唾を飲み込んで小さく頷いた。


 反省して視線を下げてしまった子供の様な仕草に母親は、

 点滴の打ってある腕をゆっくりと伸ばすとその頭をそっと撫でながら言う。


「母さんは怪人に襲われたけれど、魔法使いの人が助けてくれたのは…………。


 それは、カズラが魔法使いの人に呼び掛けてくれていたからでしょう?」


 頭を下げてしまった彼はその言葉にそっと顔を上げると、今度は黙って小さくコクリと頷いた。


「それなら、カズラが魔法使いを呼んでくれたから、母さんが助かったってことなんだよ。


 それって、カズラが本当にやりたかったことだったんでしょう?


 だったら、カズラは自信を持って胸を張って良いんだよ。

 だってきっと、助けてくれた魔法使いの人達もカズラに感謝している筈なんだから。」


 それを聞いた彼の脳裏には、黒い制服を着た魔法使いの人々の姿が過った。


 今までその子はずっと呼び掛け続けていたのだ。


 それに応えた三角帽子を被る金髪の少女と地球から来た少年。

 代わって対応したのは茶髪の少女。


 襲われた人々の代わりに母親の救出の為に電話を掛けて尽力したのは、

 魔法使い達に指示を出す立場の中年男性だった。


 今にも命を奪われてもおかしくない状況の中で、

 避難誘導をしてくれたのは若い女性と青い宝石で変身する少女。


 そして最後には彼の声で集結した魔法使い達が怪人を倒したのだ。


 それに対してはあの場に居た誰もが異存のないことであった。


 何故ならば、たった1人の呼び掛けで集まった人々の力が悲しみや苦しみを乗り越えたのだから。


 思わず彼は、真っ直ぐに目を見詰めて「うん。」と大きく頷いて笑顔を見せた。


 それを見て満足気ににこりと笑う母親は、嬉しそうに言った。


「じゃあ、カズラが笑顔になったところを魔法使いの人達にも見せに行かなくちゃね……!


 せっかく助けてくれたのにカズラが泣いていたら、皆がもっと悲しむからね。


 母さんはもうちょっと時間が掛かるけれど皆、辛くても、苦しくても、最後まで頑張ったんだもの……!」


 口元を緩ませて優しく微笑む少年は「……母さんに話したかったことがあるんだ。」と真っ直ぐに目を見て語った。


「僕……今日のことで、大人になるまでは母さんとずっと一緒にいるって決めたよ。


 今まで僕は父さんの代わりに、魔法使いの人達みたいに皆の為になることをやろうとしていた。


 皆に同じ思いをさせたくないから……。

 でも、それはやっぱり違うんだって分かったんだ。


 魔法使いの人達は皆の心を守る為に戦っていたけれど、

僕にとってはいつも傍にいる人達を守ることの方が大切なことなんだって、分かったんだ。


 父さんの代わりに母さんを守ることは、僕には出来なかったけれど、

僕にとって母さんは魔法使いじゃなくてもいつまでも守りたい大事な人だって気付くことが出来たから。


だからこれからは、父さんみたいな魔法使いじゃなくて、

僕は僕にしか出来ないやり方で母さんを支えていきたんだ。


皆が僕に力を貸してくれたみたいに、皆と助け合っていける人になりたいと思ったんだ。」


 黙って話を聞いていた母親は薄く開いていた目を確りと見開いて彼を見詰めていた。


 改まった様子で語る少年は再び申し訳なさそうな顔をして言った。


「今日は、皆にも迷惑を掛けて、大変な思いをさせてごめんなさい……。


 でも……これからは、皆と協力して誰かを助けられる様に頑張っていくよ。

 今日、助けてくれた人達みたいに。もう1人で出って行ったりしないよ。


 母さんのこともずっと見守っているから。


大人になっても母さんを支えていけるように、

皆の力で母さんのことも守れる人になるから……!


 だから……ずっと1人で出て行って、

 母さんに心配させて……今までずっと迷惑かけて、ごめんなさい。」


 真摯に謝罪しようとする少年に対して、母親は目に涙を浮かべると一筋、頬に流した。


 そして彼を見て微笑んで見せた彼女は「良いんだよ。いつまでも迷惑を掛けたって……。」と言った。


「…………どうして?母さん……、泣いているじゃないか…………。」


 優しく微笑む母に弱弱しく心配そうに眉を顰めて呟いた。すると彼女は再びクスリと笑って言った。


「カズラは、やっぱり父さんの子なんだなって……思ったから。


 父さんは自分が魔法使いだから人を守るなんて一度も言った事なんてないの。


 父さんはね。自分の周りの人達が皆を守ってくれていることを知っていたから、魔法使いになった人なの。


 誰かが守るんじゃなくて皆が守っているから、っていつも言っていたのを覚えている?自分に言い聞かせるみたいにね。


 カズラも今日、色んな人たちに助けられてやっとその意味が分かったんだな……、って思ったら。安心した。


 カズラが父さんの事でずっと悩んでいたけれど、父さんとは違うって事を分かってくれたみたいで、嬉しかった。


 これからはカズラがカズラとして生きていくことが出来るんだなって、考えたらカズラはもう独りじゃないんだって。


 これでカズラも、自分の幸せの為に皆の中で生きていくことが出来るんだと分かったから…………。


 本当に良かった…………父さんがカズラの心の傷になるきっかけにならなくて……。」


 溜息でも吐くかの様な安堵すると、

 少年は「やっぱり、心配させちゃったんだね。僕が傷付けば、父さんが原因になるから。」と小さく言った。


「それはそうだよ。それだけは仕方のないことだからね。

 でもね。それはカズラと母さんが忘れちゃいけないことでもあるの。


 最初はカズラも父さんの事を忘れない為に皆の為に成ろうとしていたのかもしれない。


 その為に今回みたいに大勢の人に迷惑を掛けたとしても、

 父さんがやっていたことは正しいことだから他の人にも同じことをする必要があったと思ったからでしょう?」

「うん…………でも、もう同じことはしないよ。母さん傍にいるって決めたからね。


 それにもう、母さんに苦しい思いはさせたくないよ。僕のせいで母さんが狙われたんだから。」


 その言葉に小さく首を振る素振りを見せる母親は「それは違う。」と彼を見て静かに言う。


「自分が我慢すればそれで良いだなんてことは有り得ないんだよ。


 誰にも迷惑を掛けないで生きていける人なんていないよ。

 大人になっても誰かに迷惑を掛けるのは当然。


 これからもずっと、迷惑掛けないといけないんだよ。


 さっき、カズラは皆と助け合える人になるって言ったばかりでしょう?

 ならその分、誰かの助けになる為に、皆に迷惑掛けることが出来る人にならなくちゃね。


 そうじゃなくちゃ、誰も助けることなんて出来はしないよ。」


 真面目な顔付きで話していた母親は彼の顔を見ると優しい笑みを浮かべて言った。


「だからもう……父さんと母さんのことで後悔しないで……!


 独りで抱え込んでまで頑張ろうとしないで!


 いつでも皆が守ってくれているから!」


 その言葉に彼は確りと頷いて「…………うん!分かったよ。」と小さく返事をした。


「ありがとう!母さん!」


 安堵して綻ばせた様な優しい笑みを浮かべ2人は静かに笑い合った。


 その親子には現実を受け入れる強さはあっても、繰り返される不条理に向き合う術を失ってしまっていた。


 事件が解決し、現状を知ることで、再び同じ状況に立たされても彼はもう同じことを繰り返す必要が無くなった。


 だが、決して彼の心の傷が癒えた訳ではない。

 心に負った傷は治るものではない。


 それに勝る思い出が彼の心を支えになるのだと。


 これからそれを知る事となるのだろう。


 きっとそれはこれから始まる物語の中で息衝いていくこととなるのだから。





 それはいつかの近未来。


 異世界スフィアという星に突如として怪人が現れた。

 その怪人達はそれぞれの欲望を胸に様々な方法で願いを叶えようとする。


 だが、そこには魔法使いという心を守る人々が存在し、

 人は生きる為に生きるのではなく、心という感情を慈しむ為にあるのだという。


 彼らは人の命よりも貴い心を守る為に、

 怪人に対抗し得る1人の少女を筆頭に立ち向かうこととなった。


 そしてまた1人、夢という純粋な願いを胸に人の心を守ろうとする者が現れた。


 全ては心の思う儘に、命を懸けるのだと。


 これは平和や幸福を求める物語ではない。心と命を慈しむ為の物語である。









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