03 「此処はどこ?」
「此処は……?」
さっきまでの何も無い空間とは、違う様子だった。周りは薄暗く、建物にも感じるし洞窟にも感じる様な場所だった。転移とサヨリは言ってたな……
「安心せい、我の転移の能力は、移動先を念じれば行くことが出来るところなら何処へだって行ける――まぁ、元の世界は無理だったが…此処は安全な場所というのは確かだぞ」
「そうか…助かった、ありがとう」
「我も少し焦ってしまってたからな、本来の我の力ならアレくらい何とかなったかもしれん」
少し残念そうな物言いだったが、サヨリのおかげで何とかなった。もう少し遅ければイースに殺されていたかもしれない。そう思うと恐怖が湧き上がってくる。俺は無力なのだと、実感せざる得なかった。俺達はこの時、逃れた恐怖から安堵して近くにいる存在に気づいてはいなかった。
「あのぅ……」
突如として、後から聞こえたか細い声に驚きを隠せなかった。安全だと言った本人も、まさか人がいるとは思ってもみなかったらしい。ピクリと肩が動いたように見えた。
「誰じゃ!」
まぁ、当然の反応であろう。突然後から声を掛けられたら、誰だって身を構えるだろ。
「チビーネですぅ…」
すっかりと、サヨリの問い詰めるかのような大声に震えている少女そこにいた。サヨリと同じくらいの背丈だ。中学生の平均身長くらいはある。
「チビーネちゃんでいいか?念のため聞いておくが敵じゃないよな?」
何だかずっと震えているいるので、怖がらせないように聞いてみた。
「はいぃ…えっとですねぇ…チビーネは…この辺り周辺の…守護神なの……」
最近、神という言葉が流行っているのだろうか?偽物を入れると、この短期間で3人も登場しているのだか――
「よく…邪神…から…逃げてこれましたね…」
「邪神って、あのイースとかいう女か?」
「はいぃ…邪神は…気まぐれに…この世界と…対になる…貴方達のぉ…世界から…人を…連れてくるの…最近だと…100年ほど前にも…人が連れてこられたの…」
しっかりと話を聞いていた俺の横では、おそらくずっと震えている少女にイライラしてきたのであろうサヨリが腕を組み睨んでいるように見えた。これはこれで恐ろしいな…
「こっち…付いてきて…歩きながら説明…するの…」
そう言うと、遠くに見える明かりの方に向けて歩きだした。まだ少し震えている。そんなにサヨリの声に驚いたのか?と思いつつ付いて行く。
「自己紹介がまだだったな、俺はユータ、倒れてる2人を運んでるのがサヨリ、神様らしい…倒れてる2人がショーヤとサクラだ」
「おぬし、我のこと疑っておるな」
不満げにサヨリがこちらを見た。疑うのは当然だ。ついさっき騙されたばかりなのだから――まぁ、サヨリからは何故か嫌な感じはしないが――
「よろしくなの……倒れてる2人なんだけど…貴方達が来る前に…魂だけが…飛んでいたから…邪神の手が届かない…安全なとこに…逃がしてあげたの…」
サヨリが言っていた無事ではないとはこの事だったのか。そう話していると明かりが大きくなってくる。
「もう…外に着くの」
明かりに飲み込まれる気がした。久しぶりに普通の景色を見た気がする。
「おぉ―」
思わずに声がでた。辺りには広大な草原があり、出てきた所は、やはり建物だった。遺跡か何かだろうか、随分と歴史を感じさせる建物だ。神殿に住居、銅像…あれは何だ?何だか精密機械のような建物まである。
「此処は…およそ2000年前に…栄えた文明…シャンバラの遺跡なの……多分…」
「多分じゃと?」
サヨリのイライラは続いているようだ。また怖がらせたんじゃないかと心配でたまらなかったが、心配無用だった。
「チビーネは…100年前に…此処の守護神になった…新参者なの…」
神様が、どうなって誕生するかなど俺が知る由もない。だから、サヨリの方を見たが意外な答えが返ってきた。
「我は10年ほど前の記憶がないから、よく分からぬ」
さっきまで震えていたチビーネが、少し気になったような顔でサヨリを見ていた。
次回もお楽しに!
ありがとうございました。