表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

第二回企画「キーワード短編企画」

ある日の英雄と

作者: 悠染 零

今日は年に一度のフェスティバル。

国をあげての大きなフェスティバルだ。


王都もその熱気の最中にあった。もう夜の10時は回っているのに街はまるで昼のように明るく至るところで歓声があがっていた。空には大きな花が咲いたかのように花火が上がっている。


そんな様子を王都の外れにある小高い丘から眺めている男がいた。

男は王都の様子を満足そうに見ると背を向けて歩き出そうとした。

すると、


「おい、サム!!」


そんな彼を呼び止める者がいた。


サムと呼ばれた男はゆっくり振り返って、


「どうした?今日は祭りだ。こんなところで何してる。....楽しんでないのか?」


王都から駆けてきたであろう男にいった。


「どうしたじゃないよ!今日はお前が主役だろ?なにしてんだよこんなとこで。」


どうやら男はサムが祭りに参加していないのが気にくわなかったらしい。

だがサムは首を横に振ると、


「主役、ね。....俺は...ちょっと用事があってな。」


そしてすぐ近くにある小さな教会を見た。

サムの視線に気づいた男は、


「ああ...んじゃあ終わったら戻ってこいよ?」


男はサムに手を上げて挨拶をした後、丘を下っていった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



ギィ


バタン



相変わらず重たい扉を開けて俺は教会の中に入った。

中は薄暗いが綺麗にされていた。


そのまま真っ直ぐ教会の中を進む。

すると突然、


「あら?あなたは誰?」


声をかけられた。

見ると十字架の下に腰かけている少女がいた。


ステンドグラスから差し込む月明かりが彼女だけを照らしている。

俺は膝を立てて自己紹介をした。


「サムです。サミュエル・ローランド」


俺の名前を聞くと彼女は迷うような表情をして、


「サム....どこかで........ううん、ごめんなさい、わかるような気がするけどわからないわ。」


悲しそうに呟いた。だがすぐに彼女は頭を振って笑顔に戻ると、


「あ、私はアリシア!よろしくね、サム!...ところでサムは何をしにここに来たの?」


小首を傾げて聞いてくる。


「少し、お祭りの雰囲気にやられてしまいまして。」


嘘ではない。酒を飲んで食い物を食って。嫌いじゃないが続くのは好まないのだ。


「そうなんだ!...ん~、ねぇサム?」


「なんでしょう?」


「昔話をしてくれないかしら!」


「昔話...」


するとアリシアは俺の顔を覗き込んでいった。


「私ね、昔の記憶がないの。記憶喪失ってやつかしら。だから、あなたの知ってる『昔』を教えて?」


「なるほど......では一人の少女のお話をしましょうか。」


するとアリシアは、ぱぁっと笑顔になって、


「女の子のお話ね!!楽しみ~。」


足をパタパタさせて喜んだ。

俺は咳払いを1つした。


「....昔々、あるところに....」



ーーーーーーーーーーーーーーー



一人の少女がいました。

一人、といっても彼女は人気者でいつも回りには誰かがいました。


スキップをすれば友達が、鼻歌を歌えば近所の大人が。

彼女は誰にでも笑顔を配るような、そんな存在だったのです。


そんな少女も小さな子供な訳ではありません。

好きな人がいました。恋を、していたのです。

みんなに笑顔を振り撒く彼女も大好きな彼の前ではことさらに、太陽のようにまぶしく笑うのでした。

あなたのお嫁さんになりたいの!なんて、今は恥ずかしくて言えないようですが、小さい頃は恥ずかしげもなく彼に言っていたことを周りの大人はよく知っていました。


だけど平和なんて永遠に続くものではありません。


魔王、それはこの世界において討つべき悪でした。


悪を討つ正義、それは勇者。

その勇者に、彼女の愛する彼が選ばれてしまいました。


町のみんなは大喜び。なんていったって自分の町から勇者が誕生するのです。この上のない名誉、だけど彼女は嬉しくありませんでした。


大好きな彼が遠いところにいってしまう。

それは少女にとって耐えられないことでした。




勇者任命式。

ついにやって来たこの日に期待が高まる町の人達。

国のお偉いさんが読み上げる文書が聞こえてきます。


「.....えー、そしてここに貴公を勇者に任命いたします。えー、ここにいるものはあなたの仲間となり貴公の魔王討伐の手助けをするものです。えー、それでは契約の言葉を...」


「ち、ちょっと待ってください!!!」


高まる町の興奮が最高潮に達する、その直前、少女の声が響きました。

訝しげに大人たちが振り返ります。


少女は人の壁を掻き分けて前に進み出ると、


「わ、私も!仲間に、加えてください...」


静寂が流れました。

そんな少女に国のお偉いさんは、


「ふむ、君、魔法の適正は?」


「え、Aランクです...」


「ああ、君が噂の。」


そう、少女に自覚はありませんでしたが、16歳という若さにして魔法適正がAランクという類い稀な存在でした。

端的にいって優秀だったのです。


国のお偉いさんは少し考えたあと


「よろしい、君の加入を認めよう。....では、改めて、契約の言葉を。」


町の熱気は最高潮に達しました。



ーーーーーーーーーーーーー



数週間後


「ほんとによかったの?」


馬に乗った彼は後ろの少女に聞きます。


「ええ、大丈夫よ!」


「そう、それじゃいくよ?....魔王討伐隊、出発!!!!」


勇者となった彼の掛け声により門が開かれます。

町の皆からの歓声のもと、一行は旅だったのです。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「ねぇねぇ!」


アリシアが前のめりに聞いてきた。


「その少女の名前、何て言うの!?」


「名前、ですか。そうですねぇ、それじゃあ物語が終わったら教えますよ。」


「やったー!」


ーーーーーーーーーーーーーー



旅はとても順調でした。

途中、幾度となく魔王の配下に襲われましたが、さすが勇者一行。難なく退けました。


旅の途中の野宿で満天の星空を見たり、焚き火を囲んで談笑したり。

目的のわりには楽しい旅でした。



そんな旅が数ヶ月、ついにそのときがやってきたのでした。



ーーーーーーーーーーーーーー


目の前にそびえる古城。


「ここが、どうやら目的地みたいだな。」


盾を持った女性が言いました。

彼女はとても勇敢で時に自らを皆の盾としました。


「ああ、情報とも一致している。」


彼はこの討伐隊の頭脳で魔法適正は最高ランクのAAAでした。多様な魔法でここまでの道を切り開いてきました。


「んじゃあ、いっちょ殴り込むかぁ!!」


スキンヘッドの男が手をポキポキならします。彼は非常に真っ直ぐな男でどんな状況でも自分の素手ひとつで打開してきました。仲間はその度、肝を冷やしましたが。


そして一行は勇者を見ます。


「みんな、ここが最終決戦だ。俺達がここで勝てば残るはただの残党ばかり。

俺達がここで負ければそれは俺たちの死を意味し、同時に人類の敗けを意味する。...準備は、いいな?」


「「「「おう!!!!」」」」


「いくぞ!!」



気合いを入れ直した一行。

と、同時に勇者を愛する彼女は祈りました。

願わくばみんなで勝って、そして...


ーーーーーーーーーーーーーー


「そして何を願ったの?」


アリシアは興味津々といったところだ。


「では、物語が終わったら、」


「もう!そればっかり!!」


拗ねたように頬を膨らます。俺はそんなアリシアの頭を撫でてなだめた。


「もうじき終わりますので、もう少しだけ我慢願えますか?」


アリシアは仕方ないという風に座り直した。


再び俺は物語を語る。


ーーーーーーーーーーーーーー


戦いは熾烈を極めました。



「てやぁぁぁぁぁ!」


勇者が剣を振りかざし魔王に迫ります。


「愚かな。」


魔王がどす黒い魔法を放ちます。

それを勇者がどうにか展開した光の盾で弾きました。


「このチャンスぅ!!!」


スキンヘッドが目で追い付けない程の速度で魔王に迫り高速で殴りつけます。


「ぐぅ...!」


魔王は後ろに飛んで間合いをとりました。


一進一退の攻防戦でした。


戦いが始まって数時間。


相手は魔王です。無尽蔵の体力、破壊的な強さ。

対して一行は複数いますがやはり人間でした。力にも限界があります。


交代で突撃しては退いて少女に回復してもらっても、もはや限界でした。


スキンヘッドが交戦している間に4人で手短に作戦会議をすることにしました。

その間も攻撃は飛んできましたが、盾の女がことごとく守りきって見せました。



参謀が口を開きます。


「もうこれ以上の長期戦は無理だ。短期決戦でいく。おい、あれ、使えるか?」


話を振られた盾の女が頷く。

あれとは盾の女の一家に伝わる秘術でした。

鋼のごとき硬さを肉体が手に入れる代わりに長く使い続けるとやがて心臓までもが硬化してしまう、まさに秘術でした。


「よし、作戦はこうだ....」




それから皆が持ち場についたのを確認して、魔王の前に躍り出た盾の女が吠えました。


「ここだぁぁぁぁぁぁ、私が見えんか魔王!!!!!!」


スキンヘッドに翻弄されていた魔王がニヤリと牙を剥き出しにして女に剣を繰り出しました。


とどめの一撃。

だったずの神速の一撃があろうことか女の素肌に弾かれました。


魔王と言えど一瞬動揺の表情を見せました。



「今だぁぁぁ!!」



勇者の一声と共に皆が動き出します。


参謀が紡いだ魔法により魔王の足元に大きな魔方陣が展開されました。そこから出た極太の鎖が魔王の自由を奪います。


スキンヘッドは作戦を知りませんでしたが持ち前の勘で悟って魔王への総攻撃に参加しました。

血まみれの拳で的確に急所を穿っていきました。


勇者は味方が攻撃を行っているのを横目で見ながら自分の最大の攻撃を溜めていました。


魔王を縛っている鎖にヒビが入ります。


まだ勇者は動きません。


魔王が赤い目で勇者を睨み付けます。


まだ勇者は溜めます。


魔王が一際大きく吠えました。

それと同時に鎖にも限界が来たようです。


バリィン


大きな音を立てて鎖が砕け散りました。

魔王が何事か呟くと回りの禍々しい障気が急速に集まっていきました。

魔王がニヤリと笑いました。


「愚かな人間どもよ!!!」


そしてようやく勇者も動き出しました。

光を放つ剣を携えて魔王に向かっていきます。


「これでおしまいだぁぁぁぁぁぁ!!」


光と闇。

二つの巨大な力がぶつかっ


ーーーーーーーーーーーー


「たのね!?」


アリシアが楽しそうに言った。


「それで?勝ったんでしょう!?」


そんな様子がつい可愛くて俺は微笑んだ。

だが、この昔話はそんな終わり方じゃないのだ。


「ええ、勝ちましたよ。」


「やっぱりそうでしょ!!うわー、勇者様かっこいいなぁ。」


「ですが、」


「...?」


アリシアが不思議そうに俺を見た。


「代償は....大きかったのですよ。」


「それは、どういうこと?」


アリシアの声が一段低くなる。


俺は結末を言うのを躊躇った。だってそれはあまりに残酷だから。


だが、昔話である。それだけのことだ。

俺は意を決して再び口を開いた。



ーーーーーーーーーーーー



「やったか!?」


俺は叫んだ。


回りには砂ぼこりが立ち込めている。


「おいやったな、サム!!!!」


スキンヘッドのジェイが笑っているのが聞こえた。


俺は魔王の骸を確認しようと砂ぼこりのなかを一歩進む。

前方に横たわる影。


「はは、ははは!やったぞ!!!やったぞ、アリシア!」


俺は勝利を分かち合うためいつも側にいた幼馴染みを振り返った。

きっといつもの笑顔で笑ってくれている。そう思った。


だがアリシアは俺の横を全力で駆け抜けていった。


「アリシ....」






ザシュ





ドサ






「....ア?」


目の前の光景が信じられなかった。


倒したはずの、魔王の、最後の足掻きが。

俺を狙ったはずのその剣撃が。


目の前でアリシアに突き刺さっていた。


「サム!!!なんだ!?何の音だ!?」



未だ晴れぬ砂ぼこりの向こうでキースが叫んでいる。

だがそんなことは俺の耳には届かなかった。



ーーーーーーーーーーーーー



俺たちは帰りの道を無言でひたすらに走り続けた。

一刻も早く、ただそれだけしか無かった。

俺はアリシアを腕の中に抱いて名前を呼ぶことしかできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー



たどり着いた王都。それはもうお祭り騒ぎのように歓迎ムードであった。魔王が倒されたのだ。勇者一行よりも噂は早くたどり着く。


だがそんな中、俺は抱いたアリシアの顔についた砂を拭って叫んだ。



「誰か!!!最高の医者を呼べぇぇぇぇぇ!!!!」




明らかな温度差。広場は一瞬で静寂に包まれた。そんな人だかりに向かって俺は叫び続けた。


「早く、早く呼べよ!じゃないと.....アリシアが........」


仲間が止めようとするのも構わず俺は医者が来るまで泣き続けた。


ーーーーーーーーーーーーー


何人もの医者がアリシアを診に来た。

だが首を横に振るばかり。


しばらくして様子を見に来た国王がいった。



「勇者サミュエルよ、これ以上死者を冒涜するものではない。もう......」



「でも!!!......でも.......」



俺は認めたくなかった。

アリシアが、俺を庇って死んだなんて。



「...では、勇者サミュエルよ。死者の願いを叶える、というのはどうであろうか。」


「願い......」


「人は、誰しも思いを秘めて旅たつものだ。ならば、その願いを叶えてやってはどうであろうか。死者も......英雄アリシアも、安らかに逝けるであろう。」



願い.....

アリシアの、願い。


思い返してみればアリシアはいつも俺の側にいてくれた。辛いときは慰めてくれて、楽しいときは一緒に笑って。

小さい頃は結婚しましょう!なんて言われたなぁ....あの頃は結婚の意味なんてわからなかった。

そうだ、俺はアリシアが大好きだった。

これからも、きっとそうだろう。

....なぁ、アリシア。お前の願い、きっとこれだよな。


「国王、アリシアの....いや俺たちの願いは....」



ーーーーーーーーーーーーーー


俺は懐から懐中時計を取り出した。

もう夜があける。


視線をあげると、そこに少女の姿はなかった。

いつものことだ。


変わりに彼女が座っていた箱だけがあった。


それは棺桶であった。

今も彼女が眠っている、棺桶だ。



俺はステンドグラスを見上げて呟いた。



「そう言えば、質問に答えていなかったね。彼女の名前はアリシア、何を祈ったかは.....もうわかるだろ?」


俺はふっと笑って、棺桶に背を向けた。


「また、くるよ。」





ギィ





バタン



.............。





月明かりに金のネームプレートが輝いた。



『アリシア・ローランド』

この度企画に参加させてもらった悠染(ゆうぜん) (れい)と申します。普段は『最小で最大の恋』をなろうにて連載していますので、興味がありましたらそちらも併せてご覧ください!!

企画があれば積極的に参加したいので是非是非お話があれば持ってきてください!

それでは!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  いや。お見事です。世界観に惹き込まれました。短編なのに。  サークル内の人間です。だからブクマも評価も出来ないので、せめてひと言残させて頂きました。  そして……はじめまして(笑  前…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ