魔熊さん、やってくる
拙いものとなりますが、宜しくお願いします!
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誰もいない、静かで爽やかな夏風が吹く学校屋上。
放課後、僕は誰もいないこの場所で命を終えようとしていた。
暁の夕暮れが照らす中、落下防止の柵の向こうに立ち、この三階建ての校舎のてっぺんから身を踊らそうとしている。
僕は、生まれた時からろくな目に遭わなかった。
この世に生を受けたとき、僕は片目の色が違った。
所謂オッドアイという奴だ。
黒い髪と黒い目、どこからどう見ても日本人である見た目に似合わない左だけの碧。
どっかの中二病患者なら喜ぶかもしれないが、僕からすればこれは潰してしまいたいほどだった。
保育園幼稚園小学校そして今中学校、この目のせいでずっと回りから距離を置かれ、拒絶されてきた。
そして内の中学校は、所謂エリート校。
中二病の奴なんかいなかった。
それ故に、そんなエリート共の餌にされた。
小学校の奴らにも同じことをされていた、だからこそあいつらとは違う、あんな奴らが来れないこの学校へ死ぬ気で勉強して入学したのに…
待っていたのは同じこと。
そう、【いじめ】だ。
やはりと言うべきか、中学に上がってから【いじめ】のレベルは跳ね上がった。
金を取られ、テストでいい点を取ったら殴られ、かといって機嫌が悪くても殴られ、机の中にまち針を仕込まれたことも、靴が無くなったこともあった。
親には話していない。
母さんは看護師で、父さんはトラックドライバー。
よく2人ともいないことの方が多かった。
それにいたとしても話したくなかった。
ただでさえ忙しい2人に心配なんかかけたくなかった。
それで、ずっと耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて……そして疲れてしまった。
もう生きていたくない。
自分なんか価値のない人間なんだと。
ならもうここから飛び降りてしまえば。
全部、命さえ捨てて楽になってしまえば。
そして今日、ここにいる。
視線を下ろせば、淡い黄に染められた校庭が僕の視界いっぱいに広がる。
ああ、そうだ僕はこの黄のキャンバスに赤というインクとなって付けられるんだ。
明日の朝にはかき消される、真っ赤な赤いインクに。
さあ、飛び降りよう。
どうせ生きていても辛いだけだ。
母さん父さん、こんな僕を生まれさせてごめんなさい。
足を、踏み出した…
しかし、慣性に従って地面に叩きつけられる筈だった僕の体は、僕自身の意思により留まった。
先まで僕は飛び降りる気満々であった。
でも踏みとどまらざるを得なかった。
だって仕方ないだろう。
後ろからいきなり爆音が響けば誰だって振り返るはずだ。
まるでコンパスのように急旋回し、自身の背後で起こったことを確認する。
なんということでしょう、屋上では絶対に有り得ない土煙が大量に巻き上がり、辺り一面黄土色をペンキで塗ったくったようにさせていた。
「いったいですぅ〜」
可愛らしい声が、そんな爆音と土煙に混じり、響き渡る。
心臓が高鳴る、一体何が起きてこうなっているのかと。
この声の主は一体何なのだと。
やがて土煙は晴れ、それは姿を現した。
艶やかなウェーブのかかった小紫色の髪。
思わず生唾を飲むほどの豊満な胸、そして現代日本では、生で決して見ることの出来なさそうな露出の多いゴシックドレス。
だがそれらよりも目を引くのは頭部にある耳だ。
そう耳だ、熊のようなフカフカしていそうな垂れた耳だ。
人間ではない、そんなあり得ないだろう回答が僕の中に駆け巡る。
だがどう見てもその垂れた耳は付け物には見えなくて…
「ん?あ、初めまして〜」
やがて僕が混乱している間に、その女性は声をかけてくる。
初めましてじゃないよあんた何者だよ、そもそもさっきの爆音なに、それからあんた人間なのか。
等などの言葉が僕の頭の中を駆け巡る。
混乱はまだ収まっていなかった。
遂に僕が何も言わないことに違和感でも覚えたのか女性が不審がり、やがて…
「あっ!そうですよね〜私まだ名前言ってないですものね!」
と言い出した。
「失礼いたしました、私はベル。ベル=フェルトゴゴールと言います、ベルって呼んでくださいね」
沈黙。
彼女の、ベルの唐突な自己紹介に何をコメントすればいいと言うのか。
やはりこの沈黙にも困惑を覚えたのか、遂には…
「あらやだ私のバカ、自己紹介の前の挨拶を忘れているじゃないですか!こんにちは〜」
「違うそうじゃない」
あまりにも的外れ過ぎる言葉の連続に、口からつい出てしまった。
それを聞いてか、彼女の翠の瞳が大きく開かれ、しかしやがて誰もが見とれそうな満面の笑みとなり。
「やっと話してくれましたね!お名前、お伺いしても?」
名前、この状況で聞くの?
えぇ…という反応しか僕の中には出てこない。
だけれどもまた、何も言わずに暫くいると、何故か彼女は泣き出しそうになっていき、僕は罪悪感にいたたまれなくなり仕方なく名乗った。
「湧一郎、悟楼湧一郎」
「悟楼さんですか、いい名前ですね」
いやそんなことよりも君は何者だよ。
名前なんかよりずっと気になるよ。
口に出さなくともどうやら顔に出ていたようだ。
彼女が暫し不思議そうな顔になった後。
「あ、自己紹介足りませんでした?では私のスリーサイズでも…」
「だからちがぁぁう!!」
こんな自ら命を断つ事しか考えてなかった僕の目の前に現れたベル。
彼女との出会いが、僕の人生を大きく変えていくことになるなんてことは、まだ僕は知らない。