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深く潜るために…

初探索の翌日を描いています。そこから成人までの閑話です。

 翌日、戦闘に慣れるまでダンジョンは母か精霊を同行させることが義務付けられた。

 ルーク自身も納得せざるを得なかった結果だったのでそれは了承した。

 だが光精霊のエンさんの人避けの結界でダンジョンは事実上のルーク専用となった。


 それと母の取計いで冒険者の訓練を老人ズにお願いしてくれるという。たぶん村の子で老人ズに指導をしてもらえるのは僕くらいだろうとルークは内心ほくそえんでた。老人ズは今や見る影もないが過去の実績はなかなかのものだったと村の人は褒めているからだ。


 今日は話をつけるからと母に言われ畑の管理をしたら自由だということでサラさんと一緒にダンジョンへ来ていた。


「ねね地下2階ってどんな感じだったの?」

「ネタバレしてもいーんすか、楽しみが減るっすよ」

「うぐ…」


 暗いと精神が摩耗すると感じたルークは【純粋なる光球(ライトマジック)】をダンジョン中に展開していた。煌々としたダンジョンはその明るさから何処かの地下商店街のような雰囲気を醸し出していた。


 地下2階への階段まで魔物と遭遇することもなく到達した。


 大量の【純粋なる光球(ライトマジック)】を階下へ流し込み光源を確保してから下がり始めた。様相はそこまで変化はしていないが、ここからは罠や仕掛けがあったりするので本当の意味での探索はここからだ。


「いきなり三叉路ではじまるの?」

「たまにあるっす。五叉路とかじゃないだけマシっすね」


 サラさんは母と長年旅をしてきているのでルークの探索のお目付け役には適任である。万が一怪我をしても【召喚解除(リターン)】すれば完全にリセットもされる。緊急時には盾になれてしまうのだ。


 ルークは左へと進む。小さく絞ったピンポン玉くらいの【純粋なる光球(ライトマジック)】を前方数mの床をこするように走査させる。

 それは盗賊スキルが知識としてしかなく罠を見逃す可能性が高いので《身代わり》としていた。罠は体系的に《仲間を足手まといにする》か《ブービートラップ(即死罠)》が大局を占める。どちらも単独(ソロ)のルークには致命傷になる。飛行しつづけて回避するという手段もあるのだが、瞬発力に欠けるのでまだ未使用だ。


「もっと魔物が出ると思ってたから拍子抜けしちゃうな」

「まあ《一つ星》というより、低層階だと種類も数も微妙なんすよ。坊ちゃんも慣れたら10階くらいまでは階段探ししかしなくなるっす」

「基準がサラさんだから強すぎて普通なのかそうでないのかわかんない」


 単独(ソロ)はよほどの手練れでないかぎり《二つ星》探索を日課とし、魔石や宝箱を目当てに日々の糧を得る。ボスを討伐するのは戦士系の割合が高い。

 直接戦闘も魔法もそこいらの探索者より強く経験も豊富であるサラさんだと参考にならないときがある。


「やっと魔物がいた、ゴブリンだねあれ」

「あれ魔法でやらないんすか?」


 ルークはショートソードを抜刀すると歩きながら接近した。ゴブリンは尖った歯をむき出しにして突撃してくる。昨日よりはるかに落ち着き払っているルーク。


 ギャギャッ!


 体当たり気味のゴブリンに対してスッと左に身体をさばき、渾身の力を込めてゴブリンの手首を叩き落とした。ぼたりと落ちる手に気づいていないゴブリンはその違和感に気づいて立ち止まる。確認しようとした時にはルークの二刀目が頸動脈をかきとる。

 吹き出す血吹雪と肉を斬る感触がまだ慣れないルークだが、倒れる緑の子鬼を視認してから納刀した。


「坊ちゃんお見事っす。惚れぼれしました」

「ありがとうサラさん。かなりドキドキしてたんだけどね実際」


 まだ慣れきらぬその手は微振動しているが昨日に比べれば格段の進歩だと自分に言い聞かせた。足も震えてないし固まってもいない、上出来だ。

 地図を描き足していく。すると後方から地鳴りのようなリズミカルな震動が聞こえてきた。光魔法で後方を確認しているルークは首をかしげながら魔法の準備をした。


「イノシシ…だよね」


 私たちの想像するイノシシの(ツノ)をもっと前方に突きだしている凶暴なそれは迷うことなく真っ直ぐに突進してきた。


たたきつける光球(マジックボルト)


 慣性の法則を無視するように真横に吹き飛んだイノシシは壁にぶち当たるとそのまま意識を失った。ルークはショートソードの先端でつんつんと突き刺してみる。呼吸していることから生きているのが窺えた。もっとも肋骨の幾本かは手痛いダメージを負ってはいるだろう。


「トドメを刺したほうがいいっす」

「え、でも魔物じゃないんだよね?」


 自然界の動物は往々にしてダンジョンへと侵入する。ダンジョンから排出される濃密な魔力が居心地良いと感じたり、その特異な環境が適していたりと理由は様々である。

 ただ共通してその身体や知性が向上するという傾向がある。そして人に怪我を負わされた手負いの獣。また会う可能性も高いがその時はさらに凶暴化しているだろう。


「僕以外ここに入らないから心配ないよ。見逃してあげよう」

「他のダンジョンでそれやったらヒンシュクっすからね坊ちゃん」

「その時はきっちりやることやります」


 フロア全部をまわり地図を作り上げたルークは地下1階へと続く階段へと戻ってきていた。とりあえず敵になりそうな魔物はおらず、幸いなことに現在まで罠もなかった。ついでと言ってはなんだが、宝箱までなかった。そこは残念なルーク。


「サラさん休憩するーにしても広いねー」


 ただ2階から急に広いなという実感があった。部屋数15 、探索時間2時間弱。

 休憩を必要としないサラさんが首をかしげていた。


「やっぱ坊ちゃんも広く感じるっすよね…そうっすよね」

「なんか変なとこでもあるの?」

「たまたまかもしれないすけど、これだけ広いのは《五つ星》みたいっす」

「だったら嬉しいけどねー」

「アリー様に探索禁止にされるっすよ」

「…うぐ、それは困る」

「それと【祈祷】か【創造】スキル持ちでメシ出せなきゃ餓死するっす」


 深く広大なダンジョンほど兵站確保が重要になってくる。その他にも罠を発見する《盗賊(シーフ)》と《地図製作者(マッパー)》、それから解毒やダメージ回復を担う《治癒術士(ヒーラー)》が大型ダンジョン攻略には必須とされている。そのため《四つ星》以上はパーティー以上推奨の由縁になっている。


「でも母さんが石版見てたし残念ながら《五つ星》はないかな」

「そうっすね」


 だんだん慣れてきたルークは休憩も早々にきりあげて地下3階へと歩を進めた。


「今度はナニコレ」


 いきなり部屋があり奥壁に通路が3つ。選べということだろう。


「坊ちゃん…これは全部罠のパターンっす」

「えっ、そこまでわかるの!?」

「通路が狭いっす。解除するか罠にかかるしか進めないパターンっすね」

「飛んでいけばいいかな」


 ルークは発光しふわりと足が地を離れはじめる。浮遊して通路を抜けようという案だ。


「待つっす坊ちゃん」


 パーカーの帽子をむんずと掴まれて空中首つり状態になる。


「うぐぐ…サラさん?」

「魔法で感知するタイプだったらグシャ―てなるっす」

「え!じゃあどうするの?」

「上位の盗賊とか魔法技師とかいればいいっす」

「僕無理なんだけど」

「あーさっきのイノシシを連れて来れば身代わりになるっすけど?それでも道一本分なので階段を発見できなければ…」

「帰って対策しよう。行こうサラさん」


 初見殺し、ルーキートラップなどと呼ばれる罠である。一度解除されれば問題ないが初アタックをかける探索者にとって命とりになることが多々ある。そのためこれを回避するために単独(ソロ)攻略者は開拓済みのフロアしか探索しない者もいる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「地下3階で罠とは運が悪かったわね」

「どうすればいい母さん?」


 昼食後の紅茶を飲みながらルークは母に泣きついていた。エンさんは皿洗いを、サラさんは廊下の掃除をしているようだ。


「どうしようもないんじゃないのかしら?」

「え……うそ」


 さらりと告げられた母の言葉にルークはつづく台詞を失ってしまった。母はこういう結果になると予測していたような口調。


「《二つ星》を1人でクリアできたら…」

「ルゥちゃんそれは探索がある程度されているダンジョンとかならわかるけど、単独(ソロ)で一発攻略なんて難しいよぉ」


 台所のエンさんが皿洗いを終えて手を拭きながら会話に割り込んできた。カチャカチャと皿を拭きながら戸棚にしまいつつ繋げる。


単独(ソロ)ならせめて《盗賊(シーフ)》スキルかなにかしらの魔法使えないと厳しいですぅ」

「そうね、そしてルークはどっちも才能ゼロ。あきらめなさい。そのうち自分のパーティーでもつくって再チャレンジしにくることね」


 そこへサラさんも会話に参加しようと席についてしまった。ここまで自由な【精霊】はたぶん我が家だけのような気がする。


「それと広さが《四つ星》《五つ星》クラスでした」

「んーでも私が調べたときは星二個で配列も《偶数パターン》だったから間違いないとは思うのよねー」

「とりあえずゴンじーさんとジョージじーさんに修行つけてもらえるように頼んでおいたから、午後に顔だしてね。それと手土産に棚のお菓子持って行ってね」

「食べるかなぁ」


「それよりも成人したらどうするのルーク。旅に出るの?」

「とりあえず色々まわってみようかなって思ってるよ。あー当分、王国内にはいると思うけどね」

「なら、夜からまた母さんと修行ね」

「え!?」

「とりあえず、そろそろ顔出しに行きなさい」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 はじめに老人ズの二人を紹介しよう。

 ドワーフのゴンじーさんことゴンザレス。肉塊の髭(失礼)であるゴンザレスは現役時に1.5m角の盾をもって防御職のひきつけ役であるタンカーをしていたことから『不落(ふらく)の角ゴンザ』の異名をとっていた。


 次にジョージじーさんことジョージ。かつては『技巧の魔法使い』の二つ名で通っていた。枯れ木のような体でベッドごと浮遊している『生きてる?』といいたくなるほうだ。


「ルーグ、アリーさんがら鍛えでけれっでお願いされだども、ほんどーに冒険者になるだが?」

「うん、ゴンじーさんとジョージじーさんなら間違いないって母さんが言うから」

「おーんだがんだが、それは嬉しいごど言ってけるでねーがあ、なあジョージ!」

「ひゅールーク……ひゅー……ひゅー…来月…ひゅー成人」


 相変わらず瀕死だが、ルークが子供のころからコレなので意外と大丈夫なのだろうが心配だ。あとあまり話させると悪い気がしていたたまれない。


「はい。それで旅に出ようと思ってます」

「んだがんだが、生きでればどこさ行ってもいい。それよりも時間がねえがらスパルタでいぐど」


 するとゴンザレスから鉄の棒を渡された。ジョージからは青い腕輪がふよふよとルークへ浮遊してくるのでそれと受け取った。


「この腕輪をして素振りすればいいの?」

「それを…ひゅー…つけてゲホッゲホッ…カーッペッ…【純粋なる光球(ライトマジック)】を常に出しつつ…でええか…ひゅー」

「これをつけて魔法を出しながら素振りをすると、いうことですね」

「あそごまで真っ直ぐ走ってがら100回だな」


 ゴンザレスはずんぐりとした人差し指で《裏山の大木様》を指さした。

 大木様はルークがよく上る一番高い木の愛称。

 ただ、《まっすぐ》という言葉に恐怖を覚えた。そのルートは勾配のきつい坂と崖のコラボレーションで普段なら避けていく。徹底的に鍛えられそうだ。


「じゃあさっそく行って…」


 腕輪をつけた途端に体中から力がぬけて虚脱感に襲われる。《魔力封じ》の腕輪だと気づいたときには魔力の漏出がはじまっていた。青い腕輪がうっすらと光っている。魔法使いを捕まえるためのものを改造したものだろう。もたもたしていたら立ちあがれなくなる。


「いってきまーす!」


 事実上の魔法解禁なので堂々と【純粋なる光球(ライトマジック)】をひとつ打ち出した。昼間でもなかなかの明るさだがいつまで保てるだろうか。 


 鉄棒を担いで大木様にむかって走りだすルークの後姿を見送り、ジョージはゴンザレスを散歩しないかと誘った。もちろん喉が風のふきすさむ音を出しているが、長年組んでいたゴンザレスには言いたいことがわかっていた。


「んだな、そいだばあっちの様子でも見にいぐが」


 ジョージのベッドがすーっと小さい教会へと流れていく。その後ろをどすどすとゴンザレスがついていく。


「なんだいジジ―どもきやがったのかい。アレなら中でやってるから邪魔するんじゃないよ」


 老人ズのひとり、マーガレットばあさんだ。古びた修道服を纏っている海賊みたいな老婆で、この村唯一の癒し手である。平日は教会の掃除をして、昼間っからバーボンを片手に葉巻をくゆらせるとんでも婆さんである。村では一度はお世話になるので誰も頭があがらない人物でもある。


「ヒュー……間に合いそうかゲフゥ…ゲフッゲフッ」

「あとひと月で成人したら出でぐど言ってるどルーグは」

「あーそうかいそうかい。こちとらクソガキの都合は関係ないんだよ」

「んだども一緒に出した方がいぐねえが?」

「…ペチャッ……」

「ジョージまでそう言うのかい?」


 得てして老人の話というのは世界共通で長いものだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その夜、ルークは疲労困憊して帰宅した。無言でお風呂にはいり、食事をするとそのままベッドへつっぷした。そこへ精霊コンビがやってきて、今に至る。


「サラさん、もうちょい上、あ、うん、そこ、気持ちいい」


 筋肉痛が限界を周回して痙攣しているため、【火の精霊】サラさんにマッサージをしてもらっていた。


「こうやって坊ちゃんの背中をマッサージするのも久しぶりっすね」

「ルゥちゃん思春期なってからかまってくれないしねー」

「…別にそういうわけじゃなくてたまたまだよ」


 実はベッド下から足裏を【光の精霊】エンさんが揉んでいた。エンさんの足裏マッサージは天国に逝ってしまうことうけあいだ。小さい頃にもまれたときは激痛だったのが慣れれば極楽である。


「そういえばシャル嬢ちゃんとはチューしたっすか?」

「ニヤニヤ」

「擬音が声にでてるエンさん」


 火照るからだを冷やしたくて窓を開けながら会話しているが、聞かれていないかルークは気が気でない。まあシャルロットの家は距離があるから聞かれるはずもないのだが心配だ。そういえばダンジョンの件あたりから誰とも遊んでいない。


「告白しておかないと帰ってきたときに誰かにとられちゃってるかもよぉ」

「シャル嬢ちゃんも最近めっきり綺麗になってきてるっすからね」

「みんなも働きはじめる準備で忙しいっすからほんとはそんな余裕ないっすけどね」


「みんな何してるんだろう」


「直接聞きにいけばー?」

「そうっすよ坊ちゃん。旅に出たらあえなくなるっすよ」

「………………」

「寝ちゃった」


 サラさんが窓を閉めて、エンさんがタオルケットをかけて部屋をでるころにはルークの部屋からイビキが響きはじめていた。


「「おやすみなさい」」


 ―ぱたんっ、と扉が優しく閉められた

力不足の主人公でした。マルチプレイヤーになることはやはり難しいと判断したルークは専門職に力を注いでいく方向性に考えを変えていきます。

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