優先順位を忘れずに
魔法の下りがグダグダと続きましたが、今回よりギルドへ入ります。
尚、"救う"要素は後々取り入れていきたいと思います……。
――まずは属性魔法の確認をしようかな
まず、本で例となっていたような火属性の魔法を行使してみる。魔火石の時と同じように、右腕に魔力を発生させ掌に集中すると何やら半透明の靄が出てきた。空想上だけだったこの光景を今、現実として見ている。実に不思議なものに感じるな。
「――ここまでは同じだ。こっから火の発生するイメージを……」
本に書いてある通り、魔力が空気に反応して火が出るイメージを浮かべると靄が橙色へと変色した。
次に魔法名を発声するのだが、魔法名をどうするか少し迷ってしまう。たしか俺が自由に決めていいんだったよな?だったら……
それは何の気なしだった。「初歩的なやつだから……《火球》とかでいいか」となんとなく独り言をつぶやいただけのはずだったが――刹那、サッカーボール程の大きさの火球が掌に突然現れた。
「――おわぁ!? ……こんな小さい声で発動すんのかよ!」
一旦集中を切らしてしまうと、火球は元からそこになかったかのように消え失せた。無論、掌に発生していた橙色の靄も消えてしまう。戦闘中、不意にアクシデントが起こった時を考えるとこの失敗は命にかかわるかもしれないな。
「なるほど、集中が切れるとこんな風になるんだな。
よく分かったわ。……本当によく分かった。あぁ怖ぇ」
次は驚かないように、しっかりと身構えてから発動する。……今度は驚かずにしっかりと発生させることが出来たようだ。火球の発生までは問題なかったから、今度は射出してみよう。一応危険性を考えて、草も生えていない土の山にぶつけてみることにする。
「いくぞ……《火球》!」
火球は真っ直ぐ飛んでいき、土に当たると弾け飛んだ。その着弾部分は若干黒く……焦げたのかな? 取り敢えずは成功と見ていいだろう。魔法の発動に関してはとりあえずこれで一安心だ。
ちなみに「射出されるまで」をイメージすると、その通りに玉が飛んでいくが、単に「火の玉」をイメージすると飛ばずに手に残るようだ。その後に射出のイメージを追加することで玉が飛んでいく。
次に《水球》も試しに使ってみたが、これも問題なく使うことが出来た。一応矢の形や壁状に形成することも出来たが、ただの球状と比べたら心なしか難しい。
――まぁ適性があるからって、手足のように使えるわけじゃないか。
当然のことを確認した俺は次に回復魔法の練習に移るが、そこである問題が生じる。回復というのは"対象の人間"がいてこそ発動できるということだ。となると――やるしか無いな。
……俺は持ってきたナイフを取り出し、顔を顰めながらではあるが指先を少し傷つける。傷口からは血液がポタポタと地面に落ち、足元に小さな染みを作った。
「痛っつ……《ヒール》! 」
今度は靄が黄緑色に変わり傷口へと吸い込まれるように入っていく。傷口が薄く光るとみるみるうちに傷口が塞がった。
「おぉ! 痛みもすぐ消えたし跡も残ってない」
ヒールなら問題なく使えるようだ。ハイヒールとかレイズとかはさすがに自分では確認できないな。どちらかと言うと確認することが無いほうがとても平和でありがたいのだが……
――取り敢えず魔法の確認はこんなものでいいか。
属性魔法の中級や上級とかもあるのだろうが、今はまだ勉強しなくていいだろう。応用に手を付けるのは基本を使いこなせるようになってからだな。
――さて、ここまで来て何か重要な事を忘れているような気がする。
そもそも魔法を勉強することになったのは何故だ?
「なんかまた腹が減ってきたな。また何か食……」
そこで俺は気付いた。思わず冷や汗が出て――
「金が無いから仕方なく狼を食ったんじゃねぇか!
何か金を稼ぐ方法を探さないとこれからヤバイだろ!?」
俺は急いで部屋に戻り地図を手に取る。何か良さそうなところはないかと目を血走らせていると、"ギルド"という場所が目に入った。きっと、よくゲームとかに出てくるアレだろう!
「これだ! ここなら稼げるだろ!」
そうと決まると、俺はバッグを肩に掛けて一目散に走りだした。
――少し道に迷いながらもギルドへと辿り着く。
ゆっくりと建物の扉を開けると、大きな剣を持っていたり杖を持っているなど様々な人が目に入った。それを横目に、まっすぐカウンターらしき所に向かうと受付が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
「すみません、ギルドへの登録をしたいのですが」
「登録ですか! ではこちらの用紙に必要事項をご記入下さい」
書類には名前・性別・魔法使用の有無・使用武器などの記入欄があった。一通り記入した後に受付へと差し出す。受付はそれを一つ一つ丹念に目を通し――
「――確かに確認致しました。レスクでの身分証はお持ちでしょうか? 仮の身分証の場合は手数料が掛かってしまうのですが……」
「持っていますよ。……これでいいですか?」
「はい! では早速登録いたしますので少々お待ち下さい」
そう言うと受付の女性はカウンターの奥へと向かっていった。受付が帰ってくるのを待っていると、一人の男が俺に話しかけてくる。まだ若い……青年といったところだろうか?
「やぁ。お兄さんは新規の登録者かい?」
「えぇ、ちょっと生活が厳しいので少し稼ごうかと思いまして」
「そうか! ギルドの仲間が増えるのは喜ばしいことだし歓迎するよ。これから共に頑張っていこう!」
男は笑みを浮かべながら握手を求めてきた。随分と気さくな人だし、何故か俺はこの人なら仲良く出来るだろうなと思った。俺は握手を返しながら自己紹介をする。
「私はシアといいます。これからよろしくお願いします」
「おっと、自己紹介がまだだったな。僕の名前は"フェイ"だ。これからよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ」
そんな会話をしているうちに受付が戻ってきた。フェイに「受付が来たからこれで」と告げて別れ、俺はカウンターへ体を向ける。受付はその手に持っているカードを差し出しながら……
「――お待たせ致しました、こちらがギルドカードとなります。もし紛失してしまった場合には再発行に料金がかかるので、くれぐれも無くさないようにお気をつけ下さい」
「はい、了解しました」
「では、これからギルドの説明を致します―――」