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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
シア、異世界に立てり
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空腹と成長

 ――窓から差し込む光が優しく顔を照らす。



 寝ぼけ眼を擦りながら、俺は窓を開け放った。

 澄んだ空気が部屋を駆け巡り、刹那的に室内の淀んだ空気を一掃していく。爽やかな空気は次第に俺の意識を覚醒させた。なんとも清々しい朝だ。この空気に包まれてこそ、一日が始まると言っても過言ではない。それに、朝の調子が良ければ一日中頑張ることも出来るしな。それにしても良い()だ。



 ――そう、今はもう"朝"なんだ。


 どうやらあのまま眠りこけていたらしいが、そのおかげか疲れは無くなった。些か眠りすぎた気はするが特にやることもなければ急を要する出来事も発生していない。眠ったからといって支障はないはずだ。



 ……そんなことを考えていると、突然腹が鳴った。よくよく考えればずっと物を口にしていない。



 そういや昨日から何も食ってない。さすがに腹減ったしそろそろ何か食べに行こう。……そう思って体を起こしたとき、俺はある重大なことに気付いた。


(ちょっと待て、俺って金持ってたか? 手紙に

 金のことは書いてなかった気がするんだが……)



 急いでバッグを手元に引き寄せ、中身に金銭の類が無いか確認する。中に入っているものを想像しながら手を突っ込めばその手に求めるものが掴めるらしいが、元より無いものは不可能なわけであって――


「――金がないのは流石にマズイぞ?!……そ、そうだ! 家の中に保存食とかが置いて」



 ――結果から言うと、そんなものはなかった。



 この家に入った時にあれだけ埃が積もっていたのだから、この家が空き家になってから結構な時間が経っているのだろう。そこから考えても食品のたぐいは無いだろうな。もし食べ物があったとしても今食べられるとは到底思えない。確実に腐っているだろう。



「どうする? 食えそうなものは無い……し」



 そこで俺は思い出した。不慮の事故(・・・・・)によってその生命を刈り取った狼が居るじゃないかと。狼肉はさすがに食べたことはないが、このまま空腹に苦しめられるよりはましだろう。


「そういや、あの狼は食えるんだろうか? まぁ、食えるとしてもあんまり気は向かないが……。」



 ――背に腹は代えられず、俺はバッグを持って庭へと向かった。




 ティアーウルフをバッグから取り出し地面に置くと、昨日と同じように辺りに血の臭いが立ち込める。その臭いに加えて獣臭さが俺の鼻を刺激したため、思わず顔を顰めてしまった。



「そういや血抜きとかしてなかったな……まぁできるような状態じゃなかったし仕方がないか」



 庭にあった井戸から水を汲んできて、狼の前に立つ。念の為に水を鑑定をしたが特に問題はないようだ。もしかすると井戸の水が腐っていたり、何か毒物が混入しているかもしれないと思っての行動だ。まぁさすがに毒はないと思うがな。


「さて、何処から手を付けようかねぇ……」


 生まれてこの方、動物の解体なんかしたことがない俺は戸惑う。やったことがあるのは、せいぜい魚を捌いた程度の経験しかない。鳥なんかも処理したことはないし、動物系の解体は初めてだな。


 取り敢えず表面の血を洗い流す。次は内臓の処理だ。その後の皮の剥ぎ取りや肉の切り分けの作業などを通し、ずっと血の匂いを嗅いでいるせいで気持ち悪くなった俺は一旦休憩することにした。


「……やっぱ慣れないことはするもんじゃないな……気分が悪くなって仕方がない」


 そうして一旦休んだ俺は慣れない作業を再開するのだった。




……一時間ほど奮闘して、やっと解体が終わった。



 取り敢えず毛皮は木にかけて干しておき、内臓を庭へと埋めると俺は肉を持って台所へと向かう。解体が終わったのだから次は調理だ。もしかするとこの皮や肉を買い取ってくれるところがあるかもしれないが今は食事が最優先だ。



「――さてと、じゃあ調理すっかな。そういや火ってどうすりゃ良いんだ?

 まさかこっちの世界にガスコンロとかある訳ないだろうし――お? なんだこりゃ」



 (かまど)の中を見てみると、朱色の石のようなものを見つけた。



「なんだこれ? 赤い……石?」


俺は一つ手に取り、鑑定を掛けてみた。



【 =魔火石=


 魔力を流すと数秒後に発火する石。

 魔力を流すとに内部の核に吸収され、火に変化し放出される。


 一定以上使用すると劣化で核ごと割れ、使用が不可能となる。】



「なるほど、これで火を起こすわけね。それにしても魔法かぁ――」



 思えば魔法については何も知らないな。"使える"ことは知ってるが"使い方"は知らないんだよなぁ。ギフトの中に魔法適性があったから使えるとは思うんだが……これは勉強が必要だな。


「――確か掃除した時に本があったような……探すか」


 取り敢えず、まとめて片付けた本棚を見ると『魔法の基礎』という本があった。題名からして今の俺にちょうどいい本だろう。取り敢えず一ページ目を開き――


「何々? "魔法の基礎について"か。実にわかりやすくて良いじゃないか。内容は――」



……どうやら魔力単体なら放出するのはさほど難しくないらしい。属性魔法については後で見ておこう。



端的にまとめると、


①空気中にある「魔素」とやらを呼吸によって体内に取り込み、それを循環させる。

②その次に使用したい部位に意識を集中することで、局所的に魔素を圧縮。

③圧縮すると"魔力化"するため、それを"放出"する。


 とまぁこんな感じだ。放出に関しては、各個人の想像の仕方で変わってくるらしい。よく言う"魔法はイメージ"ってやつだな。



――深呼吸して右手に集中する。


 腕の血管や筋肉を通って魔素が手のひらに向かって流れることをイメージをすると、次第に手から半透明の靄のようなものが出てきた。魔火石を手のひらに載せて魔力を送り込むようにイメージすると、突然魔火石が煌々と輝く。驚いて落としかけたが、なんとか堪えた。



 竈に魔火石を戻すと、5秒ほどで発火し始める。魔火石本体から火柱のようなものが立つが如くの火力だ。これだけの火力があるなら肉を焼くことも出来るだろう。



「ふぅ……これでやっと飯にありつけそうだ」



――飯を食ったらさっきの続きで魔法を勉強しよう。

お読み頂き有難うございます。

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