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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
プロローグ
3/40

邂逅と旅立ち


――気付くと何故か俺は辺りが全て真っ白な空間にいた。


 真っ白というかクリーム色というか、なんとも言えない色合いだな。ただ確かなことは空間以外に何も存在しないことだ。とにかく、何故こんな場所にいるのかが全くわからない。記憶が少々混濁しているようにも思えた。


 ただ、なにか重大なことを忘れているような気がする……


 (大学でアイツの試験勉強手伝って……、そんで帰る途中に婆さんの荷物が重そうだったから代わりに持って歩いたっけな。んで、電車でいつも通り近くにいる爺さんに席譲ってやって……)



 そこまでははっきり覚えている。その後がはっきりしていない……



 (あぁ、俺の家の近くまで来て、歩道が赤信号だったから立ち止まったんだ。その時に周りがなんか道路を指差してたんだっけ)



 なんか変な走行してる車が目に入って危ねぇなって思ったな。これも記憶に間違いはないはずだ。


(でもそんときに一人だけ普通に渡ろうとした子供がいたっけ。それでその女の子が……ッ!)



 そこまで来て俺は鮮明に思い出した。



 (そうだ! あの時女の子に車が突っ込んできて、俺が助けようと飛び出したんだ。それで、あの子を助けようとして俺が代わりに車に突っ込まれて……)


 ――あぁ、俺はあのまま死んだのか。


 女の子が助かったのが救いだな。もしあの子が助かってなかったら悔やみきれなくなるところだった。この手で、救うことができたんだ。死んだことに悔いはない。


 ……俺はおそらく即死だった。


 あの勢いで突っ込まれたらさすがに生きてはいられない。血に濡れているであろう俺の姿が、あの女の子のトラウマにならなければ良いが……まぁ、それはあの子次第だ。これから先の人生を楽しんでくれ。



 それはともかく、ここは死後の世界なのだろうか?


 よく言う三途の川とかじゃないのか。三途の川を渡ったら、もとの世界には戻れない……みたいな。まぁ、川らしきものすら見えないから、死んだはずの人が手招きしてる……なんてこともない。



 そんな事をつらつらと考えていると、突然目の前に椅子が現れた。何もない空間の中に椅子がぽつりと置かれている様は実にシュールだ。しばしそれを眺めていると――俺が瞬きをした瞬間女性が現れて徐ろに椅子へと腰掛けた。


 思わずその突然の光景に俺は目を瞠ってしまう。俺が驚いて固まっていると、女性がクスクスと笑いながら俺に話しかけてきた。



「もう一つ椅子を用意しましたので、どうぞ腰掛けてください」

「へ? あ、あぁ、はい。ではお言葉に甘えて……」



 彼女が指を指している俺の横を見ると、何もないところから突然椅子が現れた。さっきと言い今といい、本当に何処からこの椅子は出てきたんだよ。



 ……俺が椅子に腰掛けると、女性は話し始めた。


「さて、話を始めましょうか……私はここを管理している者です。まぁ貴方の世界で言うなら"神様"ってところですかね。こちらでは少々呼び方が異なりますが、認識の違いは仕方がないことです」



 俺が驚いて閉口していると神様? はそんな俺を気にすることなく、また話し始めた。



「とりあえず、貴方は自分の状況を理解できていますか? 出来ていなければ今から私がこれまでのことを説明致しますが」

「は、はぁ。……えっと、私は死んでしまったのでしょうか? 正直に言って、あんまり実感がわいていないんですけど……」

「そうなりますね。ご愁傷さまです。……あぁ、別に口調は気になさらずとも結構ですよ。私は気にしませんから」

「……お言葉に甘えて。それでここは死後の世界ということ?」


「少し違いますね。死後の世界っていうのは別に存在します。そうですねぇ…ここは神様との面会ルームとでもいいましょうか」



 ……なんか茶目っ気の有る神様だな。



「生前に"徳行"を特に重ねた人だけがここに来れるんです。まぁ、他の神が特に気に入った人間が来る場合もありますが、それは滅多にありません。因みに貴方は……前者、ですね」



 そこまで話して一息入れると、神様はこう切り出した。


「これからの貴方にはニつの道があります。一つはこのまま成仏して天国へと旅立つこと。ニつ目は異世界に赴くことです。どちらかをお選びください」



――異世界だって?


 あのゴブリンとかスライムとかが居るような所か? 俺だってゲームとか漫画とかをよく読んでいたからなんとなく想像はつく。



「異世界……ですか」

「えぇ。俗に言う"剣と魔法の世界"という所です。地球の並行世界ということではなく本当の"異世界"です。まぁ、先人たちによって地球の文化が少々もたらされているようですが」



 ――俺の答えはもう決まってる。


「俺は異世界に行きたい」

「……わかりました。ちなみに理由を聞いても?」

「俺はもっと誰かを救いたい。それが俺の生き方だからな。俺に救えるものがあるんなら、俺はいつでも"救いの手"になりたいんだ。天国では"救う"っていうイメージが湧かないしな」


 神様は俺の話を聞き終わるやいなや、大きく頷くと満面の笑みを浮かべる。まさに『予想通りの答え』が出たと言わんばかりの笑顔だ


「――実に素晴らしい! 貴方ならば本物の救世主になれるでしょう。では早速、異世界に行くにあたっての準備に取り掛かります」




 ――ここで、俺は異世界に行くことに決定した。




「――それではまず、異世界へ行く、"転生"の設定から行いましょう。まずはあちら側で"赤子"として生まれるか、"今のまま"の姿で転移するかですね」



 今度は「設定」ときたか。まぁ異世界に放り込むのだから当然か。まぁ随分メタな発言だとは思うが……そうでもしないとあちらで問題が発生した時に大変だからな。



 俺は思ったことを素直に質問することにした。そこらはしっかりしないと、俺の命にかかわるかもしれないし、むこうで何らかの矛盾が出てくるかもしれない。怪しい人物だと思われて捕まる、何てことがあったら目も当てられない。


「ちなみに、このままの姿の場合、家とか身分とか諸々の周辺状況はどうなる?」

「そうですね――」


 赤子の場合なら親の家で育つと思うが、今のままの姿だとそうも行かないだろう。流石に根無し草だと色々と困ることも出てくる。まぁ宿なんかを借りれば良いとは思うが、金銭面の心配が出てくるしな。



 ……さすがに知らない場所で身分不詳かつ金もなし、とかだったら俺は生きていける自信がない。それに異世界だからこっちと勝手が違うことも出てくるだろう。



「その点は安心してください。転生予定である『レスク王国』という場所には住める場所を確保してあります。以前転生した方が住んでいた場所ではありますが、生活に必要な道具などは揃っていますよ」


「なるほど」


 以前誰が住んでいたかなんてことは気にしないし、住む場所があるのなら万々歳だ。取り敢えずそこに住むのは決定だ。だが"レスク王国"とやらがどんな場所か気になる。治安状況や文化水準によっては生活に支障が発生するうかもしれない。まぁ王国と言われるんだから多少は良いんだろうが、スラム街……なんてものがあるかもしれない。


「そのレスク王国とやらはどんな所なんだ?」

「あえて言うなら"普通"な国ですね。周辺に敵対国はなく、文化水準は少し高めですが繁栄具合に関しては概ね平均レベルです。ただ、周辺の国や村々などとの交易は盛んに行われている様です」



 ……とりあえずは安全そうかな?


 あくまで"現時点"での話だから、後に敵国が出てくる可能性もある。――が、そこは考えるだけ無駄だろうな。予期せぬ出来事っていうのは、本当に突然やって来る……実体験済みだ。



「では"レスク王国に現在の姿で転生"で宜しいでしょうか?」

「あぁ、そうするよ」

「では次に移りましょう。転生者には"ギフト"という形で何らかの能力を授与することが可能です。あくまで"常識の範囲内"に限定されますが、何かご希望がございましたらどうぞ」



……よく言うチートってやつが可能ってことか? なら迷うことはない。



「――人を救うために役に立つ物を見繕ってくれないか?」

「私が……ですか?」

「いや、もちろん俺も考えるよ」


 ……元より俺が求めるものは救いの力だ。


 無力だった自分との決別、そしてこれから先の人生において特に重要なものに相違ないだろう。――だからこそ、俺だけで決めるのはやめようと思った。


 かなり漠然としているが、神様ならなんとかいいものを考えてくれるだろうと思ったから頼むことに決めたのもあるが、そもそも力を与えてくれる本人だしな。任せておいて損はないだろう。


 色々と個人的に考えていたが、"救う"というのは多岐にわたるものだからどうも決めるのが難しい。その後も暫く神様と一緒に考えたが、結果的に以下のことに決定した。


①基本的な身体能力の向上

②回復系統魔法の能力強化(解毒・怪我・病気の回復に適正大)

③頑丈な肉体(物理・魔法の防御に対応)

④各種耐性(毒・麻痺 etc)

⑤魔法適正(全属性)

⑥鑑定能力の付与




 ――随分と貰った気がするが、神様が判断したんだから常識の範囲内なんだろう。


 回復魔法がどれくらいの性能だか分からんが、回復魔法の最上位が使えるとしたらかなりのものになるだろう。ちなみに魔法適正と身体能力の向上はどの転生者にも与えられるものらしい。頑丈な肉体や耐性については、より多くの人を救うには必要不可欠だという配慮だろう。



「――ギフトの設定は以上で宜しいですか?」

「はい」

「では最後に設定するのは《名前》です」



 異世界なんだから日本の名前は使えないよな。使えるとしても、第二の人生なのだから心機一転して変えるべきだろう。……少し考えて、俺が考えついた名前は、


「じゃあ……"シア"で良い?」

「シア……えぇ、それで大丈夫です」



 これで準備は整った。水野に会うまでがまた遠くなってしまったが、きっと水野は納得してくれるだろう。俺はまだまだ約束を果たせていないからな。……約束を果たすまで、もう少し待っていてくれ。


「これより転送を行います。家屋内への直接の転送は座標のズレが懸念されるため、王国の近郊へ転送します。恐らく道の側に転送されるので、そのまま一直線に進めばレスク王国へ到着します。ご武運を」


「分かりました。有難うございます」

「では……『――転送 』 」


 ――この瞬間、『生明 守』は消え、新しく『シア』が生まれた。


























 一人だけになった部屋では徐ろに椅子から立ち上がった神が、見るもの皆が心を奪われるような朗らかな笑みを一人浮かべる。ただ、それはどこか懐かしげな顔だ。その心の内や真意は誰にもわからないが――それはなにやら少し寂しげだった


  「生明、守……いいえ、シア。貴方があそこで何を成すのか……ふふっ、楽しみです」


その小さな呟きは誰にも聞かれず、たちまち神は元からそこに居なかったかの如く姿を消した。

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