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異世界救世譚―差し伸べるは救いの手―  作者: 明月
プロローグ
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プロローグ①俺の過去

ゆっくりと更新していきます。

 ――今日も、俺は何も変わらない日常を送る。


 友人との会話、家族との団欒や勉学、はたまたスポーツで汗を流す青春の日々。実に充実感に溢れ、楽しい毎日。だが、心の何処かにずっとしこりのようなものが残っているのだ。いくら時間がたっても消え去ること無く、むしろじわじわと俺の心を蝕んでいく気さえする。


 ……その正体は、耐え難い哀惜の念。


 最愛の人を……水野を亡くした時、俺は絶望のどん底に叩きこまれた。それから幾歳、今では幾分マシになっているが、それでも心のどこかに残り続けている。俺の心をいつまでも蝕むそれを……払拭することはできない。





 これから少し、俺の昔話をしよう。


 俺は昔からとにかく面倒事に縁があり、巻き込まれることが幾度もあった。別に巻き込まれるのが嫌いなわけではないし、俺にとっては好都合な話だ。まぁ「巻き込まれる」とは言ったが、どちらかと言うと自分から物事に首を突っ込む頻度のほうが断然多かった。だが、あくまで"多い"だけだ。


 事あるごとに面倒が俺に降りかかり、それを解決するのにこれまでの人生を過ごしてきたと言っても過言ではないだろう。


 今日だって、大学帰りに飲み物を買おうと立ち寄った店で迷子になっていた子供に泣き付かれて親探しを手伝ったし、それが解決すると今度は落し物をしたという老人の手伝いをし、挙げ句の果てには道で転んで怪我をした子供の手当をする始末。


 ただのお人好しと言われればそれまでだが、俺には心に決めた"信条(やくそく)"がある。最愛の人に誓った、最初で最後の誓い。

         

 ――困った人を救えるのなら、必ず救う


 これが俺の信条だ。いくら偽善だと言われようが、俺はこの信念を曲げない。


 ……いや、曲げちゃいけない(・・・・・・・・)んだ。それが彼女との約束だから。精一杯の、俺の償いだ。




 ――俺が幼かった頃、だいたい小学生くらいの話だ。


 まぁ……あの頃はそこまで不幸と言えるほどではなかったな。あの頃の面倒事と言ったら、何故か俺にばかり殺到する相談事とか、自分より年下の子供の面倒を見させられるとかそんなものだった。そんな訳で、相談事を引き受けてるうちに俺の友達も……まぁ潤沢になったわけだ。本当に嬉しい話だよ。



 ――その中でもとりわけ仲が良かった女の子がいた。


 名前は"水野八重"。最初は学校で仲良くやっていたんだが、病弱でよく入院する人だったため次第に顔を合わせるのが病室ばかりになってた。俺はあの子と話したくて、ほぼ毎日病室に足を運んでいたな。まるでそれが生き甲斐だといっても過言では無いほどに。


 学校が終わったら急いで走って病院に向かう。そして沢山話をして笑い合って……薄暗くなったら名残惜しさを払拭して「またね」と声をお互いに交わして帰る……いつしかそれは日課になった。



 ――俺は多分彼女に恋をしていたんだと思う。


 恋愛感情なんてものはまだガキだった俺には理解できないものだった。彼女と過ごす時間や交わす言葉が大切に思えて仕方がない……ただそれだけの感情。


「またね」とか「ありがとう」とか、毎日のように何気なく彼女と交わす言葉にいつだって俺は形容しがたい喜びや嬉しさを感じていた。

 でも、なんだか面と向かって伝えるのは気恥ずかしくて、いつも自分の心にその感情を閉じ込めていたな。今ではそれを正確に言葉にできるようになっただろうか?


 


 ……でも、楽しさってのはいつまでも続くもんじゃない。


 いつしか彼女は(やつ)れていった。毎日のように姿を見ていると、微細な変化ってのはなかなかに気付けないものだ。だからこそ恐ろしいものがある。



 でも、どれだけ微細でも累積すれば目に見えてくる。ふと点滴に繋がれている彼女の腕を見た時、元から華奢だった腕がより一層細くなっていることに気付いた。心配になって、「ちゃんとご飯食べてるの?」と言ったら彼女は「最近食欲が湧かないの」って言ってたな。俺も「ご飯はちゃんと食べなきゃ駄目だよ?」なんて言ってさ。


 なんで……なんで、この時に俺は早く思いを伝えなかったんだろう。




 ――中学生の頃、彼女の容態が急変した。


 親に彼女の病気のことを説明されたが、詳しい病名までは覚えていない。とにかく彼女がいなくなるかもしれないという考えで頭が一杯だった。彼女は……俺の生きる意味に他ならなかったから。


 俺自身、彼女のことが心配で食事が喉を通らなかったりして、逆に心配されたりもした……その事を水野に話したら、逆に俺の方が怒られたっけ。


 この頃には、既に死の恐怖を理解していたし、彼女を失うことは恐ろしいことだって理解していた。だから――



 ――だからこそ俺は焦った。"彼女に俺の思いを伝えなければ"と。

 だが時は無情で、着々と彼女に死を運んでくる。


 そこまで来て、俺はやっと彼女に思いを告げた。自分でも遅すぎたとは思ったが、そんなことは関係ない。俺の拙い言葉でも彼女に届くように精一杯の心を込めて彼女に伝えたんだ。

 

"お前のことがずっと好きだった"って。


 そうしたら、彼女も"私もずっと好きだった"って。“両思いだったんだぁ“って、そう泣き笑いで言っていた。元気になったら沢山遊ぼう。水野が今までできなかったことをやろう! と彼女と約束し、甘い口付けを交わす。将来は絶対に結婚しよう! なんて言い合ってさ。あのときは……本当に幸せだった。


 その時に、俺は彼女を病気から救いたいと思った。自分の無力さが恨めしかった。そして……こんなにも彼女に対して無情な神様に腹立った。


 だから、「俺は将来医者になって水野を救う。それまで待っててくれ」と約束した。そうしたら彼女は泣き笑いで 「ずっと待ってる」 と。その時に、彼女が言ったんだ。


「私だけじゃない、もっと沢山の人を救ってあげてね」


 この言葉はいつまでも俺の中で生き続ける。







 ――その誓から間もなく、彼女は帰らぬ人となった。


 その、運命の日の数日前から入室禁止と病院側に言われ、何故水野と会えないのかと苛々を募らせてはいたが医者や家族から「彼女のため」だと聞いた俺はとにかく我慢した。


 来る日、病室に足を運んだ俺はあることに気づいた。いや、気付いてしまったんだ。



 そう、病室の前に掲示してあるはずの、八重のネームプレートが無い(・・・・・・・・・・・)ことに。



 プレートがないということは退院したか、亡くなったということ。その考えに行き着いた俺は水野の母親に震える声で問いかける。八重さんはどうなったのか、と。


 ――返答は、最悪の答えだった。


 頭が真っ白になった俺は、それから茫然自失の毎日を送り、無為な時間ばかりを過ごす。彼女のことを思うたびに涙を流し、慟哭を抑えきれなかった。


 それからだ、俺が罪滅ぼしのように"救いの手"を差し伸べるようになったのは。その行動の根底には水野との約束がある。それを原動力に俺は今まで救いの手を差し伸べてきた。


 そう、俺の誓った信条(やくそく)のために俺は生きることを誓ったんだ。




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