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7.衝突

「ここが篠宮君の家?お屋敷みたいね。」

「大袈裟だよ。入って。」

彼の家は都内に程近い一角にあった。

私が屋敷の様だと言ったように、その規模は大きい。

やはり、貧しい家で育ったと言うのは眉唾だったようだ。

むしろ、資産家の一人息子と言っても納得してしまいそうな家である。


あのまま話を続けようとした篠宮君を説得して、場所を変えてもらったのである。

学校では誰が聞いているか分からないし、喫茶店等でも同じことを言えた。

そこで篠宮君の家で話すことになったのだ。


体調の悪い私を気遣ったのだろうか、

伊都橋家で話そうかともいってくれたけど、断固として断った。


彼はテレビで有名な霊能力者だ。

父親は特にそう言う種類の物を徹底的に避けていた。

テレビで怖い話特集ではチャンネルを即座に変えるほどの徹底ぶりだ。

専業主婦の母親はまだマシだが隠し事を出来ない質の人なので、

私が篠宮君を家に連れてきた事はあっという間に伝わるだろう。

そこからどんな騒動になるかなんて考えたくもなかった。


いつだって私は幽霊よりも生きている人間が怖い。

例えば、目の前にいる彼の様に。



「栄司、その方は?」

40代半ばぐらいだろうか。

彼の母親は何処か浮世離れした綺麗な人だった。


「伊都橋さん、僕の友達。」

「伊都橋と申します。お邪魔します。」

私がぺこりと頭を下げると、彼の母親は礼儀正しいお嬢さんねと相好を崩した。

何でも篠宮君が家に人を呼ぶのはとても珍しいらしく、驚かれてしまった。

恐らく、自分のテリトリーに人を入れるのを好まないタイプなんだろう。

そう言った点は私に奇妙に似通っていた。


玄関先で一通りのやり取りを繰り広げると、彼の部屋に案内された。


「飲み物は何がいい?」

「…いらないわ。」

私は首を振ったが、篠宮君は苦笑を零すと行ってしまった。

心持ち、彼は浮かれているように思える。


通された彼の部屋は白と黒のモノトーンで統一されていた。

余り物は置いておらず、とても殺風景な部屋だ。

私の弟の部屋と比較すると、驚くぐらい綺麗に整理整頓がされていた。

ひょっとして、ここで生活しているのは必要最低限ではないか。

ふと、そんな考えが頭を過った。



「お待たせ。」

篠宮君がお菓子とお茶を持って帰ってきたが、全然待っていなかった。

むしろ、早く帰りたいぐらいだった。


「篠宮君は、その、どうして私が視えるんだって気が付いたの?」

「随分直球だね。」

彼はそう言うと、記憶を振り返るように顎に手をやった。

それから言葉を手繰り寄せる様にして言う。


「初めから何となくかな。僕は昔から勘が良くて、視える人は分かるんだ。

後は一緒にいるようになって視線の動きとか表情とかで、そうじゃないかなって思うようになった。

極めつけは今日かな。その痣は霊のせいだろう?多分、君を連れて行こうとしたんだ。

普通の人にはそんなに執着しないよ。」

「そう…。」

私は長く息を吐いて脱力をした。

できれば高校三年間、隠しておきたかった秘密がこんなにあっさりばれてしまうとは。

予想外もいい所で、篠宮君と行動を共にした事を心中で後悔した。


「貴方が助けてくれたの?」

「うん。僕は祓うに近いことが出来るんだ。特に修業をしたわけじゃないんだけどね。

知り合いの霊能力者に視てもらったら、体質的なものだって言われた。」

不思議な物が視えたり、他の人に分からないものが分かったりするのも、そのせいだと思う。

そう静かに言葉を続けた彼に抱いた感情は一つだ。


「羨ましいわ。」

「今日みたいな目に遭えば当然だと思う。けど、君の方が素養自体は高いと思うよ。

多少の霊感があっても中々あそこまでは干渉できないんだ。それは素晴らしい能力だよ。」

「嬉しくない。」

私は下唇をかんだ。

華やかな世界に身を置き、自分の能力を駆使して活躍する篠宮君には理解できないだろう。

私がこの能力にどんな思いを抱いていて、どんな酷い目に遭って来たかなんて。


「どうして?」

「普通じゃないでしょ、こんなの。」

私がそう言うと篠宮君は驚いた後、不快そうな顔をはっきりとした。


「君までそんなことを言うとは思わなかったけどな。」

「え?」

今まで屈託がなかった彼の様子の豹変ぶりに、

私は息を呑んだ。


「僕がテレビにも出ている霊能力者だってことは、初めに話したよね。

普通じゃないって、気持ちが悪いってずっと思っていた?」

「違う!!」

私は力一杯声を張り上げた。

あんな風に堂々と特殊な物が視えることを話す人は篠宮君が初めてだった。

とても衝撃を受けたし、私が抑えつけて無い様に扱っているもので、

人の役に立てるよう志しているのを尊敬さえした。

でもそれは…。


「貴方が特別な人だから。」

だから排斥されない。

凡庸な人間が目立つと言う事は自殺行為だ。


「特別?それは君も同じだろう。色々な自称霊能力者に会ってきたけど、本物は滅多にいない。

もし同年代で自分と同じような能力を持った人間がいたら、何を話そうか楽しみにしてたんだ。それなのに…。」

「私は普通が良いの。普通じゃないと追い出されちゃう。誰にも知られたくないの。」

私の鬼気迫る様子に怯んだのか、彼はやや体を引かせた。

それから、溜息を零してこう告げた。


「分かった。誰にも言わないよ。でもこれからも友達でいてくれるだろ。」

「それはいいけど…。」

嘘だ。本当はよくない。

この人から距離を置きたいと思っている。


「何をそんなに怖がっているの?」

篠宮君の呟いた言葉に返す言葉は私は持っていなかった。

この人にそんな事を話すぐらいだったら、舌を噛んだ方がまだマシだった。


しかし、彼と私の間に落ちた静寂は長続きしなかった。

篠宮君がふと顔を顰めて、私の額に手の平を押し当てたからだ。

彼は途端に今までの強引さを引っ込め、慌てたような表情をした。


「酷い熱じゃないか。ごめん、僕も焦り過ぎた。

あんな目に遭ったんだから当然だ。すぐに病院に…。」

「病院はいや。」

あそこは怖いものが一杯いる。

小さい頃は風邪をひく度に、あそこでトラウマになるような経験をしたのだ。

その言葉に篠宮君は事情を察したのか、薬がないか見てくると言って急いで部屋を出て行った。

さっきまでの態度が嘘の様で何だか笑ってしまった。


あれから彼の家で少し休ませてもらい、長居する訳にもいかないので帰る事にした。

篠宮君は心配してくれたけど、迷惑は掛けられなかった。


家の自室に辿り着き、ベッドに雪崩れ込むと猛烈な眠気が襲ってきた。

ベッドサイドには一緒に遊んだ時に彼がクレーンゲームで取ってくれたウサギのぬいぐるみがあった。

あの頃より随分離れた所に来てしまった気がして目眩がした。


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