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5.交流

篠宮君と私と美幸は映画館に向かった。

ちなみに、映画を見たいと言い出したのは美幸だった。

彼女のお勧めの映画は少し前に流行った洋画物で評判がとても良かったのだと言う。


「篠宮君はこの映画見たことある?」

「ないよ。伊都橋さんは?」

「私もない。結構評判良かったよね、これ。」

「それじゃ決定ねー。私チケット買ってくる!」

走り去った彼女を元気だなと見送っていると、篠宮君と目が合った。

彼の目が色素が随分薄く、金色の様にも見えるのに気が付いた。

髪は染めているのかと思っていたが、ひょっとすると生まれつきなのかもしれない。


「あの子ってエネルギッシュだよね。明るいって言うか。」

「そうね。誰とでも仲良くなれるタイプだし、いい子だよ。」

惚れやすくて飽きっぽくて、男性関係が派手なのが珠に傷だが。

私は、心の中でそう付け加えた。


ひょっとすると、篠宮君も美幸に気があるのだろうか。

だとしたら、彼等がカップルとして成立する日も近いかもしれない。

美幸の行動力を考えれば、次の休みには二人がデートをしていてもおかしくはない。

そうなったら友人として祝福しよう、そんなことを考えていたら足音が聞こえた。


「ごめん、待ったー?」

美幸が戻ってきたのだ。

セミロングの良く手入れをしてある茶髪にやや童顔の顔立ち。

それに加えて流行の服装に身を包んだ彼女はとても可愛らしかった。

ぼうっとしている私の前で二人はどんどん話を進めていく。


「急だったけれど、座席ちゃんと取れた?」

「うん。もう、ばっちり。」

「へえ、真ん中あたりの席か。運が良かったね。」

「私の日頃の行いのおかげだね!始まるまで、後ちょっとだって。」

二人は笑顔でテンポ良く会話をしている。

うん、この二人はお似合いだ。

そんなことを独り静かに私は考えていた。


映画の内容は洋画物だった。

女性と男性がコンビを組んで様々な難事件を解決していく。

中には敵対組織との派手なアクションもあって篠宮君も十分に楽しめたようだ。

二人の恋愛の絡みの少なからずあって、客層には女性も多かった。


私は美幸のチョイスが上手いと思わざるを得なかった。

彼女はきちんと3人とも楽しめそうな映画を選んでくれたのだろう。

心の中で美幸に感謝しつつも、主人公達の恋愛模様に感情移入できない自分に自己嫌悪していた。


昔から私は恋愛物を上手く楽しめた覚えがない。

白雪姫やシンデレラと言った女の子なら目を輝かすお伽噺にも喜ばなかったと言うから筋金入りだろう。

母親に可愛げがないと罵られて以来、それは何処か私のコンプレックスとなって根を張っていた。

爆破するビルの中から、手を繋いで逃げだす主人公達をうっとりとして見ている美幸の様にはなれない。

それでも危ない時に手を離さないでくれる恋人がいつか自分にも出来るのだろうかと私は漠然と考えていた。


映画が終了した後は口々に感想を言いつつも、下の階のゲームセンターに行った。

美幸が3人でプリクラを撮ろうと主張をし、引きづられる様な形で連行された。

曰く、今日の記念だそうだ。

そのテンションの高さには篠宮君と顔を見合わせて苦笑してしまった。

彼が飲み物を買ってくると言って、ここから大分離れた自動販売機に向かうと、

美幸が急ににやにやしながら近づいてきた。


「聖那、今日はどうだった?」

「楽しかったよ。映画も面白かったし。」

「そうじゃなーい!!」

美幸が急に声を張り上げた。

私は驚いて、目を見開いてしまった。


「篠宮君の事よ。ちょっとは仲良くなれたわけ?」

うん?待てよ、美幸は彼のことが気に入っていたはずだ。

それがどうして、そうなったんだ?


「えっと、美幸は彼のことが好きじゃないの?」

「ちょっと良いかなって思ったけど、全然本格的じゃないよ。

奥手そうな聖那の為に一肌脱いだつもりだったのに、勘違いだった?」

「えっと、篠宮君に興味はあるけど…。」

別に恋愛感情じゃない。と続けるつもりだった私の言葉を彼女は遮った。


「ほらー。それが恋愛への第一歩なんだって。」

胸を張った美幸に、彼女はつくづく恋愛体質なんだなと思い知らされた。

同時に、私はとても驚いていた。

グループ内では距離のある方だと思っていたのに、

方向は明後日でもお節介を焼かれる程好かれてたなんて、全然知らなかった。


私はその時隙だらけで油断していたのだ。

だからうっかり、四つんばいで這い回っている初老の男に顔を顰めてしまった。

他の人には、あれは目に映っていないだろう。

今日は視えることが少なかったので、すっかり気が緩んでいたのに心中舌打ちをした。


「聖那、どうかしたの?」

「ううん、何でもない。知り合いがいた気がしたけど勘違いだったみたい。」

慌てて笑顔で取り繕った私に美幸はあっさりと納得した。

どれだけ私と彼女が親しくなっても、これからずっと言えない秘密があるのは確かなのだ。

それからすぐに篠宮君が来て、場の雰囲気は盛り上がったが私は暗い気持ちを抱えることになった。

それから3人でカラオケに行き、下手ながらに私も付き合いで少しだけ歌った。

美幸は予想通りに流行の歌が上手いことだとか、篠宮君が意外に歌が下手だとかを知ることが出来た。


そうして日が暮れて、今日はもうお終いにすることになった。

美幸はまた遊ぼうねと言って別れを惜しんで、篠宮君はクールに去っていった。

どちらも何だか、らしくて思わず微笑んでしまった。


家に辿り着くと、玄関先で母親と出くわした。

確かに目が合って、それでもお互い無言のまま通り過ぎる。

最後に言葉を交わしたのは何時か思い出せない。もう何年もこんな関係が続いていた。

今日は楽しかっただけに、急に自分の現実を突きつけられたようで何だか酷く寂しかった。

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