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4.日常

私が身を起こすと外の景色はやや薄明るくなっていた。

制服のまま寝てしまった事を後悔しつつも時計を見ると朝の4時だった。

随分早く起きてしまったわけだが、今日は休日で学校もないので急ぐ用事もない。

皺のよってしまった制服には後でアイロンを掛けることにして、私はシャワーを浴びる事にした。

幸いなことに両親と弟は、眠りが深い質で多少物音を立てたぐらいでは起きはしない。


私は寝起きの頭を熱いシャワーによって、エンジンを起こさせる。

どちらかと言うと低血圧のタイプなので、朝に遠慮なくシャワーを浴びられるのは有り難い。


こう言った時だけは両親のもとに生まれてきたことに、心から感謝をする。


すっかり忘れていたが、今日は美幸と篠宮君と午後から遊びに行く約束をしていたのだった。

一日中家にいるのは考えられないが、同年代の人間と遊ぶのが好きなわけでもないので若干面倒くさい。

どちらかと言うと、地元から遠く離れた図書館とかで独りで本を読んでいることの方が好きだ。

何故地元の図書館に行かないかと言うと、小中学校の知り合いと出会ってしまったら気まずいからである。


つらつらと思考しつつも、シャワーから上がった私は今日着て行く服を選ぶためにクローゼットに向かった。


美幸は流行に沿った服装で来ることが容易に目に浮かんだ。

ひょっとすると、やや露出が高めの派手目な服装かもしれない。

多分、芸能界で美人を見慣れている篠宮君にはある程度積極的にアピールする事が必要だろう。

篠宮君は、何となく余り気合の入った格好では来ないのではないだろうか。

彼の女性への対応の仕方を見ると、気の入り過ぎた格好をしてくるとは思えなかったのだ。

それでも、ある程度カジュアルでお洒落な格好を選んで来るだろう。

これはただの勘だが、篠宮君はそう言った所は如才がない。

一緒にいて恥ずかしい格好をしてくる事はまずないだろう。


色々考えたが、所詮私は彼等のおまけである。

長めのスカートにジャケットと言ったやや地味目な服装に決まる事にした。


私は暫くの間家でごろごろしていたが、9時ぐらいになると朝食を取らずに家を出て行った。

朝食を食べないのはいつもの習慣なので、別段お腹もすかない。

そもそも私は普段から、周囲にダイエット中なのか聞かれるぐらい小食なのだ。

お昼ご飯をサンドイッチ一つに野菜ジュースで済ませた時には結構心配された。


実家の最寄駅から急いでも仕方がないので、各駅停車の電車に乗り込む。

休日のそれも割と早い時間と言う事もあって電車の中の人ごみはまばらだった。

私は通学の時もそうだったらいいのにと殺人的な通勤ラッシュを思い浮かべながらげんなりした。

そうして読みかけの文庫本を取り出すと、大して読む気力もなく文字を目で追い始めた。


車内放送で駅名が告げられると私はぼんやりと目を開けた。

如何やら何時の間にか、うとうとしていたらしく慌てて電車から飛び降りた。


違和感を感じて目線を下げると線路に居る女性と目が合った。

彼女は恨みがましい顔をしておらず、どちらかと言うと悲しげな顔をしていた。

そんな彼女に危ないと警告する人は誰もいない。都会の薄情さを象徴するように通り過ぎていく。

私が思わず立ち止まって、よく見てみると彼女の姿は半透明になっていた。


恐らく彼女はこの世の存在ではないのだ。


立ち止まっている私をすれ違ったおじさんは不審そうな眼で見ていた。

私は黙って目をそらすと、改札口を目指して歩き始めた。

赤いワンピースを着ていた彼女は寂しげで、誰からも忘れられた花のように見えた。

篠宮君だったら彼女を助けることが出来るのだろうか、ふと何故かそんなことを想い浮かべた。


街に出ると、丁度店舗も開店する時間になっていた。

私は若い女の子らしく、洋服やアクセサリーのお店を覗いて回った。

趣味としては綺麗系の物が好みだが、色が派手すぎたりして中々気に入るものがない。


私は購入を諦め、図書館に足を運ぶことに決めた。

浮世離れ過ぎないように若者らしい行動をとっていても、結局ここに来てしまう。

毎週休日に図書館に行く女子高生がどれぐらいいるかは知らないが、恐らく少数派ではないか。

本を何冊か読み進め、時計を確認すると12時近くになっていたので、

近くのファーストフード店に行き、お昼ご飯を食べることにする。

味が濃くて美味しいとは思わなかったが、値段が安いのが嬉しいポイントだ。


そうして、待ち合わせの駅前に行くと既に篠宮君は来ていた。


「早いわね。何時来たの?」

「ついさっき、そっちこそ早いね。」

「私はこの近くで遊んでいたから、早く着いたの。」

「へえ。」

彼が少し驚いたような顔をしているので、思わず首を傾げた。

何か変なことを言っただろうかと振り返るが思いつかない。


「如何したの?」

「いや、伊都橋さんって何か文学少女みたいなイメージがあったから。

こう、あんまり外で遊んだりするのに興味ないのかなと思ってたんだ。」

「酷い。そこまで浮世離れてないわよ。」

私が思わず口を尖らせると、篠宮君は吹き出した。

彼が笑うと随分顔が子供っぽくなるんだと言うことを初めて知った。


「ごめん、待ったー?」

そこに美咲が遅刻をしたかと思ったのだろう。

遠くの方からやや小走りで声を掛けてきたので、篠宮君と私は人ごみに紛れないように手を振った。


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