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21.暗転

異常が起きたのは私達が食事を取って、眠りについた後の時だった。

ふいに、私は寝苦しさを感じて微かに目を覚ますとカツンコツンと言う足音が聞こえた。

言うまでもなく、ここは山奥の洞窟で私達の他には誰もいない筈だ。

一気に目が覚めた私は、寝たふりをしつつも薄く目を開けて足の部分だけ見た。


着物に下駄と言う現代人らしからぬ恰好だけが見えて、逆に悪い想像が膨らみ固まってしまった。

すると、篠宮君が私の手を見えずらい形で繋いできた。

寝返りを打つ自然さで顔を私の耳元に寄せた彼は、気が付かない振りをしてと小さな声で言って来た。

以前篠宮君に霊に対する対処法の一つとして徹底的に無視すると言うアドバイスを貰ったのを思い出した。


視界がぶれる様に脳に映像が映ったのはその時だ。


元々、男は一角の霊能力者だった。

更なる名声を求めた彼は、この洞窟にと足を運んできた。

そんな男を待ち構えていたのは複数の生白い…。

纏わりつかれて、盛んに話しかけられる彼の姿。


ねえ、あそんで。

どうしてだめなの?

どうしてもだめなの?

ずっとここに。

ずっとずっとここに。

ねえ、みえてるんでしょう?


そうして、頭を抱えて取り乱す男に向けられる笑い声。

そうして彼は最後に…。


冷や汗がびっちり掻いている私の様子を篠宮君が伺っているのが分かる。

そうして、私が彼の方向を見ようと目を開けた瞬間。


土気色をした痩せこけた男と顔が合ってしまった。

彼は限界まで目を見開いて、こちらを見ている。

そうして、私に手を伸ばそうとして。


「逃げましょう!」

男は明らかに仲間を求めていた。

捕まったら、同じにされてしまう。

アレは明らかにこちらを害そうと言う意図があった。

洞窟内で力が活性化しているのか、篠宮君にもそれは分かったようだ。


どうしておれだけがこんなめに。

おまえも、おまえもなかまにはいって。


「耳を傾けるな!こっちが出口だ。」

篠宮君は私と手を繋いだまま、リードをしてくれる。

私は方向音痴なので、暗闇の中で独りで出口に辿り着ける自信はなかった。

こんな状況で、いやこんな状況だからこそ、手の平の温もりに安堵を感じていた。


でぐち?

かえるの?

もう、かえるの?

かえさないよ。

かえすとでもおもったの?

そんな言葉達が洞窟内に反響して、頭がくらくらした。

視界を凝らさなくても複数の白い物体が浮かび上がってくるのを感じる。


体が一気に硬直した私は、岩に躓いて転んでしまった。

手を繋いでいた篠宮君も自動的に引っ張られると立ち止まってしまう。

彼は私の頭を抱え込むと、お互いの体の間に何かを張り付けた。


「篠宮君?」

「出来るだけ、小声で話して。今は姿が見えていない。」

「本当に?」

「ああ、でも効果は長く続かないよ。こう言う場合、洞窟の外まで走って逃げるのが一番だから。

外までは手出しが出来ないと思う。けれど、こんなに危険なんて聞いてないぞ。」

「私のせいかも…。」

「え?」

「そういう、能力の高い人間程、欲しがって、るみたいだから。

中には、普通に修行に、なった、人もいると、思う。ただ、私が変で、だから、置いていけば、」

震える声で告げようとした私を、篠宮君は黙って抱きしめた。

二人の体温がゆっくり溶けあって行くのが分かる。

暗闇の中、二人だけの世界の様だった。


どこだ?

いないぞ。

まさかそんな。

みつけだせ。

どこかにいるはずだ。

体が底冷えする様な声が響く中で彼と私はきつく抱きしめ合う。

多面的でよく分からないことも多い篠宮君の一番近くまで居られた気がした。


けれど、そんな時間も長続きしなかった。

ゆっくりと、貼った何かの効力が失って行くのが感覚で分かる。


「もうじき、効果もお終いだ。そうしたら、出口まで一気に走るよ。」

「うん。」

呼吸を合わせて、心臓の鼓動も同じぐらいに。

お互いに調子を合わせるのが何よりも大事なことだ。


3・2・1


「走るよ!」

篠宮君の掛け声を合図に私達は手を繋いだまま走り出した。

心臓がバクバク音を立ててるのに、足は止まらない。

耳には複数の誰かの声が聞こえるのに意味を解さない。

全力で走っている内に、出口が見えてきた。


後、大体5メートル。

後、大体3メートル。


にがさないわ。

その声が聞こえたのは、後少しと言う時だった。

私が猫だったら全身の毛が逆立っているだろう、それぐらい暗い声だった。


後、数歩踏み出せば外だった。

その時に私は想定外に小さな手で足を引っ張られた。

それは紅葉の様な手の平で咄嗟に振り払えなかった私は、


咄嗟に繋いでいた手を離して、

篠宮君の背中を思いっきり突き飛ばしていた。

一瞬遅れた私を振り返ろうとしていた彼は、走った勢いそのままに体を捻った形で外に出て、


その時の顔を私は忘れる事が出来ない。

篠宮君は、母親に置いてきぼりにされた子供の様な顔をしていた。


手を離すべきじゃなかった。

そう想ったのを最後に私の意識は暗転する事になった。


このこ、すごいうつわね。

とてもすてき。

けど、これはつよすぎて。

どうしようか。

どうする?


せっかくてにいれたのに。

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