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2.転校生

     「初めまして、転校生の篠宮栄司です。今日からよろしくお願いします。」


その時期外れの転校生に、教室の空気はざわめいていた。

けれどそれは普通の転校生に対しての騒ぎ方ではなかった。


篠宮ってあの?

そう、テレビによく出ているあいつだよ。

結構カッコイイよね。

どっちかって言うと、可愛いタイプかも。

そんな声が潮の満ち引きの様に教室中に溢れかえっていた。


私は内心首を傾げた。

テレビと言うものを余り見ないので流行に疎いが、彼はアイドルか何かなのだろうか。

やや幼さを感じさせるが華のある整った容貌をしている。

学ランに包まれた体躯もすらりと均整がとれていて、芸能界の人種だと言っても頷けた。

出来れば、ああ言った派手な人には関わらずに済ましたい。

女の子同士の嫉妬と言うのは中々怖く、ちょっとしたことが火種になる。

そう結論付けて顔を挙げると、ふと篠宮君と目が合った。

それはやけに強い視線で、私は何故か背筋に冷たいものが走るもを感じた。


「静かにしなさい。伊都橋、手を挙げろ。あの子の隣が空いているからそこが君の席だ。」

彼はにこやかに私の隣まで来ると、これからよろしくねと言った。

そんな彼に私は表面上にこやかに対応したが、内心大きく溜息をついた。


お昼休み、私と篠宮君と美幸はお昼を食べることになった。

何故かと言うと、彼に不思議と懐かれたからだ。

まだ教科書を持っていない彼に本を見せたり、

授業中に小声で話したりしたことで篠宮君は私に親しみを覚えたようだ。

彼はこの年頃にありがちな異性への緊張感を一切持っていなかった。

正直な所、男性が苦手な私も篠宮君の中性的な容貌もあって苦手感を覚えなかったのだ。


これが芸能人故のコミュニケーション力がなせる技かと、私は胸中感嘆した。


自分を屈託なく慕ってくれる人間を突き放すほど、私は薄情になりきれなかった。

屋上でお昼を食べようと言う彼に頷き、同じグールプの子に一言告げると快く送り出してくれた。

それにミーハーの美幸が突撃してきて、今に至ると言う訳である。


「えー、じゃあ聖那って篠宮栄司を知らないの?」

「ごめんなさい、私そう言うのに疎くて。有名なの?」

私はやや焦った。ひょっとして歌手とかモデル、或いは俳優かもしれない。

こう言った時、自分の興味の範囲の狭さを実感する。

必要最低限はチェックしていたつもりだったが、それでは駄目だったか。


「まあ、色物扱いだから仕方ないかも。そういうの苦手な子もいるし。」

その言葉にやや私は呆気に取られた。

もしかすると人には余り言えないジャンルで活躍しているのだろうか。

ぽかんとしている私を美幸はどや顔をして答えた。


「篠宮栄司は美少年霊能力者なんだよ。」

その言葉に動揺を受けなかったと言えば嘘になる。

しかし、幸いなことに私は顔に感情が出ずらくなっていた。

そうなんだ。と乾いた声で私が返したら美幸は聖那ってばクールなんて不満そうに口を尖らせた。


「美少年は大袈裟だよ。一応、テレビには出させてもらっているけど。」

そう笑う篠宮君はやはり端麗だ。

芸能界もこれを売り物になると思ったに違いがない。

「えー、十分カッコイイよ。ね、聖那。」

「あ、うん。」

曖昧に頷いた私を、

彼は何処か面映ゆそうな顔で見詰めた。


「それでさ、その時の共演者の顔と言ったら…。」

「へえ、意外とビビりなんだ。面白いこと知ったかも。」

元よりコミュニケーション力に高い二人はあっという間に打ち解け、様々な事を話した。

私はそのお零れに預かる形で彼の事を徐々に知って行った。


今は仕事で忙しくて中断しているが、元剣道部だったこと。

対人関係が難しい芸能界を上手く渡っていること。

昔は怖い話が流行る夏が中心に活動していたが、

今はバラエティーにも少しづつ呼ばれるようになったこと。


それから、篠宮君に気があるのか美幸は三人で遊ぶ約束をした。

彼女はイケメンが好きだし、無理もないなと思って後ろに目をやると、

薄くなってきた足のない男性は、彼女の事を睨むような目つきで見ていた。


とはいっても、私は何も出来ない。

超常現象は見て見ぬ振りをした方が基本的に無難だ。

何事もなければいいが思いつつも私が諦観と共に眺めていると、篠宮君が美幸の肩を払った。


「え?」

つい、声を出してしまった私を彼は振り向くとゴミが付いていたと言った。

ありがとうと嬉しそうな声で告げる美雪を傍らに私は呆然としていた。

何故なら、さっきまでそこにいた男性が霧散していたからだ。


この人は一体何者なんだろう。

珍しい事に私は人に対して強い興味を覚えた。


授業が終わり、使っている電車の方向が同じと言う篠宮君は一緒に帰ろうと誘ってきた。

美幸はテニス部で頑張ってくるねー、と陽気に別れた。

帰宅部だった私は特に断る理由もなく、承諾した。


「霊能力って言っても大したことないよ。

失くしたものを探し当てることが出来たり、亡くなった人と話すことが出来るだけ。」

「怖くない?人と違ったものが見えるって。」

私は思い切って尋ねてみた。

殆ど初対面の人に失礼かもしれないと思いつつも止められなかった。

そう言うと彼はそうだね。と呟き、暫く押し黙った。


「それでも、応援してくれる人もいるから。」

その言葉は複雑そうで何処か誇らしそうな顔で告げられた。

その反応を見て、私はああやはりまだ早かったのだと思わずにはいられなかった。

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