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16.追憶と現在

私は緩やかに息をすると話を切り出した。

「前に、何があったのか話して欲しいって言ってくれた事があったよね。」

「うん。最初に僕と関わるのを嫌がってのも、そのせいだろ?」

「そうね。今、話してもいいかしら?」

そう聞くと、篠宮君は眼だけで先を促した。

それに安心した私は静かに話し始めた。


「昔から私は妙な物が視えたわ。多分、幽霊とかそう言ったもの。

小さい時には、それが生きている人間と碌に区別もつかなかった。

最初は両親も子供の言う事だからって、聞き流していたんだけど…。

段々と気味悪がるようになって、嘘をつくなってよく叱られた。

何で視えた物をそのまま言ってるのに、

嘘つき呼ばわりされなくちゃいけないのか、さっぱり分からなかった。」

そこで一区切りを付けて、息を吐いた。

彼は真剣な眼差しで私の話を聞いている。


「弟が生まれて、母親によく言われたわ。弟は明るい普通の子なのに、

お前はどうしてそうなんだって。私だって、どうしようもないのに。

それから、段々と自分がおかしいんだと思うようになった。

妙な物が視えるのはいけない事なんだって。それでも、コーラス部の部長を

偶然だけど助ける事が出来て、悪い事だけじゃないと思うようになった。

それに貴方が私の事を普通の女の子として扱ってくれて、気楽になったの。」

そうして、感謝の意味も込めて静かに微笑んだ。

中学校時代、私がこの能力のせいで異端視されていた事はまだ傷が生々しくて話せない事だ。

まして、仲の良い女の子に偶然知られてしまい、気味悪がられたのが切欠だなんて。

異邦人の様な眼で私を見て、あることないことを吹聴した彼女は今どうしているのだろう。

私は当時の苦い気持ちがぶり返すのを感じた。


「話してくれて、ありがとう。」

篠宮君は何処か苦しそうな顔をして、そう言った。

多分、私の傷と彼の傷は共通している所がある。

取り繕う事を知らない子供の頃、普通なら無邪気に振る舞うのを許された時代の物は特に。


この辛さが分からないようであれば、そもそもこんな打ち明け話をしない。


私が話し終わる時には、観覧車は一番上まで来ていた。

篠宮君と私は沈黙を共有するかのように、静かに外の景色を眺めていた。

空には幽霊だろう、白いふわふわした物が浮いていて、この視界を共有しているのが不思議だった。


「そう言えば、心の声が聞こえるのは落ち着いたの?」

「ええ、偶に聞こえちゃうけど。」

ぽつりと聞いてきた篠宮君に、私はそう答えた。


実際、これからどうなるのかは分からない。

それでも彼が傍に居てくれるなら大丈夫、素直にそう思えた。

それからは随分遅くまで二人でふざけたりしながらも普通に遊んだ。

私は篠宮君に話したことで吹っ切れていたし、彼も日ごろの仕事の憂さを晴らしているようだった。


ただ単純にとても楽しかったこの日が、まさかあんな事に繋がるなんて思ってもみなかった。


休日明けの気だるい体を引き摺って、教室に行くと奇妙にざわめいていた。

妙に視線を感じたが気のせいかと思っていたのだが、美幸に呼び出されたことで違うと言う事が証明された。


「聖那、篠宮君と昨日デートしたって本当?」

「ううん。確かに二人で出掛けたけど…。」

休日に男女が二人で会っていたらデートだよと言って美幸は髪を掻きあげた。

彼女曰く、昨日の遊園地に同じクラスの人がいたらしく、

私達が楽しそうに話しているのを見かけたと言う。

篠宮君は目立つタイプだから随分噂になっているのだそうだ。


「そもそも、二人って妙に親密だよね。友達にしても距離感がおかしい。」

「そんなこと、」

「そんあことあるよ。」

美幸は私を睨みつける様にして言った。

段々と声が高くなってきていて、彼女が興奮しているのが分かる。


「いつも二人でこそこそしていてさ。自分達は特別って勘違いしているんじゃない。

聖那っていつも澄ました顔をしているけど、本当は私の事を馬鹿にしているんじゃないの?」

言い過ぎたと思ったのか、美幸は顔を青ざめさせた。

それでも撤回せずに、彼女は黙って俯いた。


私は美幸に自分の秘密を打ち明けようとは思わなかった。

同じ能力を持つ篠宮君だって相当な抵抗があったのに、彼女に話すのは考えられなった。

中学生の頃の二の舞は二度とごめんだったのだ。


それが知らず知らずの内に美幸に疎外感を感じさせていたのだろうか。

何て言ったらいいのか、弁明の言葉すら思いつかなかった。


「今まで私は二人の事を散々追及されてきたけど、上手くはぐらかしてきたの。

でも、もう面倒を見るのはやめるね。それじゃ。」

美幸はそう言うと、空き教室から出て行った。


私は彼女を引きとめる言葉も持たずに、その背中を眺めていた。


篠宮君は仕事が上手くいっていないとのことで学校には来ていない。

なので、私は中学生以来本当に久しぶりに独りでご飯を食べる事になった。

購買で買ったパンをもそもそと食べながら、普段はこの時にはしない携帯のメールチェックをする。


携帯にはまだ何件か美幸のメールが残っていて、悲しい想いが浮かんできた。

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