15.遊園地
今日は、篠宮君と二人で遊園地に行く事に決まった。
何でもイルミネーションが有名な所らしく、夕方に待ち合わせすることになった。
夜遅くまで営業している所なので、それを考えるとパンツスタイルの方が良いだろう。
鏡の前で着ていく服をあれこれ考えている自分がデート前の女の子の様だと、はたと思った。
私は手に持っていたインナーを下して考えた。
篠宮君とは別に恋人になりたいとは思っていない。
多分、彼に恋人ができたしても内心は複雑だが応援するだろう。
だって男性と女性の恋愛関係は他人に踏み躙られるのを待つ、地面に落ちた桜の花びら様に脆くて儚い。
私はやっと手に入れた手の平を手離したくはなかった。
待ち合わせ場所に行くと、篠宮君は既に来ていた。
私が先に来た事はないなと、日が暮れ薄暗くなった視界に浮かび上がる彼の白い容貌を見上げた。
女性よりも先に待ち合わせ時間に来ているのがマナーと言うタイプなのかもしれない。
篠宮君は私と目が合うと顔を綻ばせた。
冷たい印象も与える整った顔が一気に柔らかくなる、この瞬間が好きだった。
「行こうか。」
彼はそう言うとチケットを買いに行った。
私も払うと言ったのだがこれぐらいは平気と言って断られた。
なんだか、ますますデートみたいで意識してしまう。
男の子と女の子が二人で遊園地、これは傍目から見たら充分デートに当て嵌まるだろう。
そんな思いとは裏腹に、篠宮君は拍子抜けするぐらいいつも通りだ。
なら、妙な事は考えていないで楽しんでしまうのが正解だ。
休日だと言う事もあって日中は人混みが凄かっただろうが、
今は辺りが暗くなる時間帯だからか、アトラクションにも長く待たなくて乗れる。
夕方に待ち合わせをしようと言ったのは、篠宮君だったがその判断は正解だったと言える。
折角、ジェットコースターが凄いと有名な所だったので乗ってみたのだが…。
彼は思いの外、三半規管が弱かった様で気持ちが悪そうにしている。
篠宮君をベンチに座らせると私は声を掛けた。
「何か飲み物買ってくるね。」
「ごめん。」
彼の情けなさそうな声に首を振って、私はやや遠くにある自販機を目指した。
何を買ったらいいか悩み、甘いものよりはとスポーツドリンクを購入する事にした。
早く戻らなくてはと、駆け足で元の場所に戻ると篠宮君は何人かの女性に声を掛けられていた。
この場合、私は出て行かない方が良いだろうと経緯を伺っていると、
しつこく絡んでいる女性に対して彼は一瞬息を呑むような冷たい目をした。
そうして、篠宮君は首を振ると女性達は諦めたように去って行ってしまった。
私はその様子をぼんやりと見ていたが、我に返って駆け寄った。
「篠宮君、これ。」
私がペットボトルのキャップを開けて渡すと彼は2口、3口美味しそうに飲んだ。
篠宮君はそうして人心地ついたかと言うように口を開いた。
「格好悪いところ見せちゃったね。」
「ううん。貴方はいつもカッコイイわよ。」
人の話を真剣に聞いたり、誰かを助けるために行動したりするのは簡単な事じゃない。
しかも、私達の年代だったら尚更だ、そんな意味を込めたつもりで呟いた言葉は危うさを伴っていた。
何時もなら、この程度は何ともないのに。
夜と言う雰囲気がそうさせるのか、それとも彼の異性に対する対応を見てしまったからか。
「えっと、変な意味じゃなくて何時も優しくて、仕事も頑張っていて凄いなってことだよ。」
私が慌てて弁明の言葉を続けると、篠宮君はクスクスと笑い始めた。
そうして、私に手の平を向けると話し始めた。
「分かっているよ。全然、彼女になりたいアピールしてこないし。自分は女の子ですって、
妙に主張して来ないから、気楽っていうか。あ、伊都橋さんが魅力的じゃないって言う話じゃなくって。
そういう風に来られるのは好きじゃないから、助かっている。」
「成程、兄妹みたいなイメージなのね。」
そうそう、と頷く彼を見返して、
私はこの人は自分に媚を売ってくる女性に対して嫌悪感があるのではと考えた。
芸能界に出入りしているのに加えて、この容姿だ。
そう言う人達に対してうんざりしていても、おかしくはない。
何故、篠宮君が私に執着しているのか、その欠片が分かった気がする。
当初、私は彼にとても素っ気がなく、加えて篠宮君と同じように奇妙な物を視る事ができた。
元々、自分と同じ能力を持った友人を求めていた彼が
自分と違って霊に対する対抗手段を持たない、折れそうに細い女の子に対して庇護欲を持っても不自然ではない。
そう結論付けた私は、篠宮君の体調を考えると余りハードではないアトラクションがないか、
辺りを見渡すと大型の観覧車を見つけ、兄に対する様な気持ちであれに乗りたいと強請ったのだ。
やがて、時間になったのかイルミネーションが開始された。
ゆっくりと回る観覧車の中から、それを見るのはとても綺麗だった。
「綺麗だね。こうして見降ろしていると自分の悩みがちっぽけな物に思える。」
「そうね。」
私は静かに同意をした。
そうしている内に自分の抱え込んでいた過去を今なら話せるような気になってきた。




