影使い
朝。
夏休みの朝。
小鳥のさえずりと、カーテンの隙間から差す夏の太陽の光が、僕を目覚めさせた。
いつもと変わらない日常が始まると思うと、気持ちよく起きることができる・・・
と、思えるわけがないと、起きた瞬間に気付く。
なぜ、そう思えるのだろう? いや、なぜ僕は思った?
小鳥の鳴き声なんてうるさいだけだし、日の光だって眩しいだけじゃないか。それに、せっかく言い夢を見ていたのに、それを邪魔されるのは気分が悪い。
まったく、朝からイライラさせられる。
だいたい誰だよ。人間は朝に起きなきゃいけない、なんて言った奴は! 人は好きな時間に好きなことをしていい気がする。もう、皆が皆、自由な生活をすればいいと僕は思う。
と、考えたところで、どうでもよくなったので僕は考えるのをやめる。
なぜ僕は議論(?)を始めたのだろうか? まあ、考えられることは、昨日見た深夜アニメのせいだろう。妙に、そのアニメの主人公の印象が残っていたので、そのキャラになりきってしまったようだ。
いやはや、恐ろしいぜ“深夜アニメ”。
・・・さて、頭の中も一段落落ち着いたあたりで、僕は起き上がる。
いつものベッドの脇に置いてある目覚まし時計に目を向ける。
午前七時。
正確には六時五十九分。
そろそろ奴らが来る頃だな・・・
そう思った次の瞬間。
バタンッ!
僕の部屋のドアが思いっきり開かれた。いや、正確には「破壊された」が正しい。厚さ約三センチの木製のドアが、目の前で真っ二つになった。
「兄貴ー! 朝だぞーーーーー!」
「朝だ朝だ朝だ朝だ朝だ朝だ朝だ朝だーーーーーーーーー!」
ドアを破壊した張本人達は、いつも通りテンションが高かった。
「さあ、兄貴! 朝だ、起きろー!」
「起きるのだーーーー!」
「だーー! 朝っぱらから、うるさいわ!」
僕も僕で、いつもの様に、二人の妹の“影”を止めるのであった。
***
影。
それを自由に操れる様になってしまったのは、夏休みが始まって二週間が経った頃のこと。
初めは、僕も家族も驚いていたのだが、三日も経つと馴れてしまった。
今では、この能力を使っても、家族は驚かなくなった。
ちなみに、この能力を知っているのは、家族だけの内緒の話である。
「兄ちゃん。ごめん、ドア壊したことは謝るからさ、そろそろ降ろして」
「頭がぱーんってなりそう・・・」
「・・・・・・」
二人の妹は逆さまで宙に浮いていた。
何かに吊されているわけではない。いや、吊されているといえば吊されているのか。
自分の影に。
「いつも言っているけどな。毎回毎回、僕を起こしに来るたびにドアを破壊するのはやめてくれないか? きれいに真っ二つになっているから、直すのは難しくないんだけど、それでも時間の無駄になるだろうが! このバカ姉妹が!」
僕はイライラしながら妹達を叱る。
「だって、普通に開けるのめんどくさい。」
「めんどくさい」
「いや、めんどくさくないから」
この二人にはいつも困らせられる。
「ねえ、そろそろ降ろしてよー。」
「ほんとに死にそうなんだけど・・・」
二人は涙目で僕を見る。
確かにこのままだと、二人は大変なことになるのだろうけれど・・・
だが、この時の僕は非情だった。
「やだ。」
『!』
「僕はお前らを甘やかし過ぎた」
『え』
「というわけで、僕は散歩に行ってくる」
『えーーーーー!』
二人は同時に絶叫した。というより、さっきからハモりまくっていた。流石姉妹だ。
「大丈夫だ、安心しろ。帰って来たらすぐに降ろしてやるから。」
僕は嫌らしくニヤニヤ笑ってみせる。
「・・・いつ帰ってくるの?」
「・・・早く帰って・・・来るよね?」
二人の顔は真っ青になっていた。
「さあ? いつだろうね」
そう言って僕は部屋から出るのだった。
後ろから二人の「鬼!」や「悪魔!」という声が聞こえたが、僕は気にせず散歩に出かけた。
***
さて、散歩に出かけたところで言っておこう。
僕は、鬼でもなければ悪魔でもない。ただの人間だ。
だから、いくら非情になっていたとはいえ、妹二人をそのままにしておくほど、僕は酷くはない。
だから僕は出かける際に、家からある程度離れると、術を解除するようにしたのだった。
今頃、二人は床に寝ている事だろう。まあ、帰ってきたらまた吊すけどな。
鬼や悪魔ではないけれど。
僕はドSだ。
そんな僕にとって、この能力は物凄く有り難かった。
嫌いな奴や不良に喧嘩を売られたら、そいつの影を止めて好きなだけ殴ったり蹴ったりできるし、物を落として影を止め、嫌いな奴が通った瞬間に能力を解除して頭にぶつけることもできる。
軽い悪戯から大きな犯罪までできるこの能力を、僕はとても気に入っている。
いつもの散歩コースの公園で、僕は一息つく。ジャングルジムでガキどもが遊んでいてうるさいが、休める場所が他にないので仕方がない。
そう思っていると、「きゃー!」と叫び声が聞こえてきた。その方向を見ると、さっきのガキどもの一人が、ジャングルジムから落ちていくのが見えた。
「・・・よっと」
僕は能力を使い、その子供を空中停止させる。親が、丁度その子供の真下に来るまでの少しの間だけ。
子供は無事に母親の腕の中に収まっていた。
それを見ると、僕はホッとした気持ちになった。
僕は確かにドSだ。
だけど、それはあくまで妹に対してだけであって、見ず知らずの人に対しては、さっきみたいなうるさいガキでも助ける。
さっきの話しとは全然違って、この能力を手に入れてから、人を助けることが多くなった気がする。
引ったくりの動きを止めて警察に突きだしたり、止める以外にも、少年に絡んでいた不良共を影を使って投げ飛ばしたりなど。
人に対しては優しかった。
***
散歩の帰り道。
のんびりと歩いていると、
チリーンチリーン
と、自転車が後ろから来ることに気がついた。
「危なっ!」
と避けるも、バランスを崩し、転びそうになる。
「いよっと!」
転びそうになったので、自分自身の影を止めて、転ぶことを防いだ。さっきの自転車には仕返しをしてやりたかったが、このままではできないので、それは諦めた。
それよりこの状態を・・・
「・・・あ」
僕はこのとき、この体勢で影を止めたことを後悔した。
転ぶ寸前で止めてしまったので、何かを掴むことも、地面に手をつくこともできないのだ。
失敗したなと、自分自身の能力の欠点を知るのだった。
つまり、止めたからといって、僕が転ぶことには変わりないのだ。
「・・・・・・えい」
僕は能力を解除した。
転ぶと分かっていて転ぶのは少し勇気が必要だったが、まあ、仕方がなかった。
ドテッ!
「イタっ!」
後ろ向きに転んだ為、僕は腰を強く打つ。
そして僕はフラフラと立ち上がる。
やっぱ、能力に頼りすぎるのも駄目だなと思ったときだった。
・・・うん、やっぱり帰ったら妹達をいじめよう。 【影使い 終】
このたびは、私、みっちーの小説を読んでくださり、誠にありがとうございます。稚拙な表現ではありましたが、楽しんで読んでいただけたのなら幸いです。
私、みっちーは、最近高校を卒業しまして、来年の春から、晴れて大学一年生となります。なので、これを機に、小説家になろう!のほうで小説を出そうと思いました。
まだまだ未熟ゆえに、寛大なお心で読んでくださるとうれしいです。
また、これからも良い小説を書き続けていくために、ご感想やアドバイスなどもいただけたら嬉しいです。
それではみなさま、またお会いしましょう。
ノシ