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恋する乙女

一話目からの続きだったりします。

 一之瀬くるみ、16歳。絶賛、恋愛中!!


(来たっ! 今日こそは……)


 下駄箱の影から、そっと覗き見るその視線の先には2-Cの真嶋がいた。


(真嶋センパイ、今日もステキすぎる!)


「はあああ」

 と、甘い吐息を吐く。

 彼女にとって、真嶋は憧れの先輩である。しかし、臆病なくるみにとってはなかなか近づくことができない。こうして遠くから見ているだけで精一杯だ。


「せめて、あいさつだけでも……」


 とは思うのだが、いかんせん、足が動かない。


(ダメよ、あきらめちゃダメ!)


 くるみは心を奮い立たせた。


 ただ一言、近くへ行って

「おはようございます、真嶋先輩」

と言うだけじゃないか。


(大丈夫、私はやれる!!)


 彼女は「よし!」と握りこぶしを作った。


 意を決して下駄箱の影から飛び出た、ちょうどその時。


「あー、真嶋センパイ☆おはようございますぅ~」


 真嶋たちを追いかけるようにして玄関に滑り込んできた女子たちが先に声をかけてきた。


「え? あ、ああ、おはよう……」


 真嶋は怪訝そうな顔で返事をすると、女子たちは黄色い声をあげて喜んだ。


「きゃあっ! 話しかけちゃった♡」

「おはようだって! おはようだって!」


 キャッキャッと騒ぐアホどもの存在に、思わずくるみは下駄箱の影に隠れた。


(な、なによ、あいつら!)


 そっと、陰から覗き見る。

 高一とは思えない化粧っ気たっぷりの顔に、派手に短いスカートをはいている。あいつらは確か、1年A組のやつらか。

 出遅れたくるみの中でふつふつと怒りが渦巻いて行った。


 あんたら、なに人のカレシ(予定)に色目使ってんのよ!!


 下級生に囲まれてキャッキャッと騒がれている真嶋は困惑した表情を浮かべていた。


「あの、これから授業あんだけど…」

(ほら、困ってるじゃない! 真嶋センパイ、困ってるじゃない!)


 通りたくても通れない状況だ。これはなんとかせねば。

 くるみは考えた。一生懸命考えた。

 一生懸命考えた末、一つの方法を思い付いた。


「そうだ、これしかない」


 彼女たちの近くで病弱の子を演じ、真嶋に保健室に連れて行ってもらう、という壮大な計画。真嶋センパイもその場から解放され、自分とも急接近できる、まさに一石二鳥の方法。

 キモとなるのは、自分の演技力だ。


(大丈夫、私はやれるわ! 演技なんてしたことないけど、やりとげてみせるわ!)


 彼女はかわいく握りこぶしを作り「頑張れ、自分!」とつぶやいた。


 さっそく、下駄箱の影から姿を現わす。そして、つかつかと真嶋たちの前までくるとわざとらしく派手にすっ転んだ。


「おおっと、ずっこけたーー!」


 おおげさな転び方をしたため、思わずA組のやつらが「ぎゃあっ!!」と野太い悲鳴をあげる。


「も、もう! なんなの。びっくりさせないでよ」

「真嶋センパイの前で恥ずかしい声出しちゃったじゃない!」


(ふん、ざまあ)


 くるみは思った。意外と腹黒い。しかし、顔には出さなかった。ここは、か弱い女の子で通さなければ。


「はあ、はあ、ダメ。じ、持病の口内炎が……。口内炎が痛くて、歩けないわ……」

「いや、口内炎だったら歩けるでしょ、普通に」


 A組のツッコミを受けて、くるみは般若のような顔を見せながら


(だまれ、こわっぱ)


 と心の中でのたまった。


 別に誰がどう思おうがかまわない。肝心なのは、一刻も早く真嶋センパイを連れ去る……じゃなくて連れ出すことだ。


「ああ、いっこくもはやく! いっこくもはやく薬を飲まなければ! でも、どうすればいいの? 薬は保健室にあるのに、自力では行けないわ! 薬は保健室にあるのにぃ!!」


 チラッと目を向けると、真嶋はA組のやつらと写メを撮っていた。


「ごるあ゛あ゛ぁぁーッ! 無視すんなあッ!」

「ひっ!!」


 くるみの鬼のような声に、A組女子たちは肩を震わせながら真嶋の側から離れていった。


「真嶋センパイは私と保健室行くっつってんだろ!」


 誰もそんなことは言ってない。


「人のカレシ(予定)に、なに色目使ってんだ。コロスゾ」

「○ Д ○」<え?


 真嶋はロボット的な顔をしながら、聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。


「ええーーっ!? 真嶋センパイ、彼女いるんですかーーっ!?」


 まわりの女子たちが悲痛な叫びをあげる。


「○ Д ○」<い、いや、いない……。


 真嶋は固まっている。むしろ、あなた誰? と思っている。


「さ、真嶋センパイ。保健室行きましょ♡」


 真嶋は妄想突撃少女のくるみに両腕を引っ張られて、ずるずると無理やり保健室に連れて行かれたのであった。


 その後、二人の姿を見た者はいない───。

二人は異世界へ召喚されました(嘘)。


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