正義の味方
富岡正志は驚愕の表情を浮かべていた。
今、彼の目の前には赤いヘルメットに真っ赤なスウェットスーツを着たヘンタイがいる。
「オレは正義の味方! 悪を倒し、世界を平和にするためにやってきた!」
「…………」
そう言って両腕を左に向けてキモいポーズを決める。
真夏の暑さにやられたのだろうか。
正志は見ないことにして通り過ぎようとした。
「待て待て待て待て。無視をするな、日本の若者よ。空気を読め、空気を」
赤いスーツの男が慌てて正志の前に立ちふさがる。
「オレはこう見えて、さみしがり屋なんだ!」
どうでもよかった。
「ああ、そうすか。じゃ、オレはこれで……」
関わらない様にして通り過ぎようとすると、再度赤いスーツの男が目の前に立ちふさがった。
「待て待て待て待て。ちょっっと待てっ!!」
赤いスーツの男は正志に尋ねた。
「この辺りに悪い怪物はいないかね」
「さ、さあ……。見たことないですけど」
「いや、いるだろ。どっかこの辺に」
「うん、まあ、強いて言うなら、いまオレの目の前に……」
赤いスーツの男は「くそうっ!!」とつぶやいた。
「なんで、日本はこんなに平和なんだ……」
「それは残念ですね」
スタスタと通り過ぎようとすると
「待て待て待て待て! どこへ行く!」
と呼び止められた。いい加減、ウザい。
「どこって、学校っすけど」
正志は高校生だ。このままでは遅刻してしまう。
それを聞いた赤いスーツの男は
「ふははは、学校か!」
と高らかに笑った。
「よかろう、行くがいい! しかし、忘れるな。君たちが安心して勉強できるのも、正義の味方のオレが平和を守っているからだということを!」
怪しいうえに恩着せがましかった。
「じゃあ、平和を守るために頑張ってください」
ペコリと頭を下げて行こうとすると、突然目の前に怪物が現れた。
「うがあああ!」
「うわっ! びっくりしたあ!」
驚いてしりもちをつく。またヘンタイが現れた。
怪物はそれを見て「がははは」と笑う。
「驚いたか、人間」
それはもう、タコのような顔にイカのような身体をした不気味な怪物だった。
「ひゃっほーう! でたな、悪い怪物め!」
赤いスーツの男が嬉しそうな声をあげて怪物の前に立ちはだかる。
「このオレが退治してくれる! 観念しろ」
赤いスーツの男が構えると、怪物は言った。
「待て。オレ様はまだ悪いことをしておらん」
「む。そうなのか。それでは退治できないではないか」
「悪いことを実行するまで、待ってくれ」
「よし、わかった。早く悪いことをするのだ。見てるから」
言ってることがめちゃくちゃだった。
「と、言ってもだなあ。悪いことって、パッと思いつかないんだけどなあ」
怪物は触手のような腕を組んで「うーん」とうなった。
「おい、人間。何か悪いことはないか」
なぜか正志に聞いてきた。
「い、いや、悪いことって言われても……。お金をだまし取るとか?」
赤いスーツの男はそれを聞いてポンと手を叩いた。
「それだ! よし、怪物! 金をたんまり持ってそうな老人を襲ってこい!」
「いや…、それはちょっと極悪すぎないか? おまわりさんに捕まりたくないし……」
「貴様はそれでも悪い怪物か!」
赤いスーツの男が憤慨して指をつきつける。
「悪い怪物は悪いことをしてナンボだろ!」
「いや、人様に迷惑はかけるなって言われて育ってきたもんで……」
(なに、この茶番…)
正志がおずおずと手を挙げて言った。
「あ、あの、もう行っていいすか? 学校あるんで」
「待て待て待て待て! 罪もない一般市民がいなくなったら、オレは誰を助ければいいんだ! ここにいろ」
別に助けてほしくはなかった。
「じゃあ、ピンポンダッシュなんてのは? けっこう悪くない?」
正志の提案は赤いスーツの男に即座に却下された。
「ピンポンダッシュをする怪物がどこにいるんだ! そんなしょうもないことで退治したくはない!」
(めんどくせーなあ、もう!)
赤いスーツの男が「しょうがない」と言って、自分が小さい頃にやっていた悪いことを教えだした。
「友達の消しゴムにな、シャーペンの芯を差しこむんだよ。するとな、消しゴムでゴシゴシこするとシャーペンの芯が刺さってるから余計に線が増えてくのさ。めっちゃウケるぞ!」
「ほう、それはやられたほうはたまったもんじゃないな」
感心する怪物に、赤いスーツの男は言った。
「そんな悪行を防ぐため、オレは正義の味方になったのだ!」
「だったら教えるなよ」と、誰もが思った。
「さあ、怪物。観念しろ!」
「だから、さっきから言ってるじゃん。まだ悪いことしてないって」
「ああ、そうか。もう、なんでもいいから、早く悪いことしてくれ」
「よし、じゃあ、この罪もない一般市民を襲ってやるか」
怪物は隣にいた正志を触手で襲い始めた。
「こういう展開!? まあ、予想してたけど」
正志は怪物の攻撃をひょいひょいとかわす。怪物の動きはタコのように遅かった。
その瞬間、赤いスーツの男のヘルメットがキラーンと輝いた。
「待てい! そこまでだ!」
どうやら、悪行はこれでよかったらしい。正志はホッとため息をついた。これで、ようやくこの茶番から解放される。
怪物は「ぬぬ、なにやつ!!」とノリノリだ。
「罪もなき一般市民を襲うとは。この正義の味方が退治してくれる!」
「ああ、どうも。助かりました。じゃ、オレはここで」
スタスタと行こうとすると、怪物は触手で羽交い絞めにした。
「ふはははは! 人質はもらった! どうだ、正義の味方。これでは手も足も出まい」
「え? え? なに、この展開……」
必死にもがくが触手が絡み付いて逃れられそうにない。
赤いスーツの男は叫んだ。
「くっ、卑怯だぞ、怪物!」
「ほうれ、ほうれ、はむかうのをやめるのだ、正義の味方よ。人質がどうなってもいいのか」
「よくはないが……」
赤いスーツの男はどこからともなく最終兵器らしきでっかいランチャーを取り出した。
「こうなれば人質ごと吹き飛ばすまでよ!」
「ちょっと待てええぇぇっ!!!! なに、言ってんのあんた!!」
正志の叫びを無視して赤いスーツの男はランチャーを怪物にセットする。
「最終兵器バズーカ、充填オーケー! 照準、よし!」
なんだかヤバい気配が漂ってきたので正志は怪物に言った。
「本気みたいっすけど、オレ解放して逃げた方がよくないすか?」
怪物は「うぬぬぬ」とうめきながら正志を解放し、空に向かって逃げて行った。
「逃がさん! 最終兵器バズーカ、発射!」
ランチャーから巨大な光が発せられたかと思うと、閃光は空に向かって逃げていく怪物に命中した。
「ぎゃああああーーーー」
その瞬間、怪物は雄たけびをあげながら爆発した。
爆発を見届けながら、赤いスーツの男は言った。
「ふう、手ごわい相手だったぜ」
そう言ってダッシュで去っていく赤いスーツの男。彼は後に銃刀法違反で捕まるのだった。
最後までお付き合いありがとうございました。つづきます!!